米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のAmar U. Kishan氏らの研究グループは、米国11ヵ所、ノルウェー1ヵ所の3次医療センターで、2000~13年に治療を受けたグリソンスコア(GS)9~10の高リスク前立腺がん患者1,809例を対象に、以下の3種類の治療法を比較した後ろ向きコホート試験の結果を発表した。
(JAMA誌2018年3月6日号)
①全摘手術:639例
②外照射+ホルモン療法:436例
③外照射+小線源+ ホルモン療法(トリモダリティ):734例
①全摘手術 ②外照射+ホルモン療法 ③トリモダリティ
5年特異的死亡率 12%(8~17%) 13%(8~19%) 3%(1~5%)
5年遠隔転移発生率 24%(19~30%) 24%(20~28%) 8%(5~11%)
7.5年全死亡率 17%(11~23%) 18%(14~24%) 10%(7~13%)
*( )内は95%信頼区間を示す
③トリモダリティは、①全摘手術 ②外照射+ホルモン療法 に比べ、死亡リスクと
遠隔転移の発生率を有意に抑制することが示された。
①全摘手術 と ②外照射+ホルモン療法 の比較では、いずれも有意差はなかった。
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高リスクの前立腺がんの場合は、全摘手術より放射線治療(外照射or小線源-外照射)のほうが、「再発率」ではかなり優位であることは分かっていましたが、死亡率ではいずれも大差がないと言われていました。
ゆえに、「どの治療法でも同じようなものだから好きなのを選んで」という、あなたまかせの無責任医師も多かったと思うのですが、今後は、それが言いにくくなので、患者としては有難い研究発表だと思っています。
実感がようやくエビデンスのあるデータとして形になってきたということでしょう。
しかし、日本では ③トリモダリティ(外照射+小線源+ ホルモン療法) をやっている施設はかなり少なく、泌尿器科の医師には、このような治療法が存在することすら知らない医師も珍しくありません。
もし、再発率のデータ分析がなされておれば、もっと明白な差が出たはずなのに、少し残念です。
外照射の治療成績が、手術と大差のないような結果となっていますが、これについて若干補足をしておきます。
外照射のデータは2000年~2013年までの症例が集められていますが、日本でIMRT(強度変調放射線治療)が保険適用となったのは2010年であり、この期間であればIMRT以外の古い照射方式のものが主流を締めていると思われます。
外照射の進歩は目覚ましく、今はIMRTのほうが多くなり、特にこの調査対象期間以降は、画像誘導を伴う、高精度かつ高線量のIMRTが普及してきているのが現状です。
近年のこうした放射線療法に的を絞って比較をすれば、手術と同等はありえないと思っているのですが、それらの結果が統計的に有意な数値として表れるのは、少なくともまだ5年ほど待たねばならないでしょう。
外照射の成績は、今後さらに良くなり、手術との比較でももっと明瞭な差がついてくると思われます。