2009年11月27日金曜日

膣トリコモナス症が致死的な前立腺癌のリスクを高める

日経メディカル(2009. 9. 15)

 一般的な性感染症である膣トリコモナス症が、悪性度が高く致死的な前立腺癌のリスクをかなり高めるようだ。米ハーバード大学パブリックヘルス校のLorelei Mucci氏らの研究結果が、9月9日付けの Journal of the National Cancer Institute誌電子版に掲載された。

 最近の研究では、膣トリコモナス抗体の存在が、その後の前立腺癌の発症に関連することが分かってきている。また、この研究チームも以前、同抗体の存在が前立腺癌の発症と死亡に関連することを確認している。

 今回の研究では、673人の前立腺癌患者について、診断の平均10年前に採取された血液サンプルと、前立腺癌ではない 673人の男性の血液サンプルについて、血清中の膣トリコモナス抗体の有無を調べた。

 膣トリコモナス抗体が陽性の場合、前立腺癌のリスクは1.23倍になったが、統計的に有意ではなかった。ところが、同抗体が陽性の場合、前立腺外に広がった前立腺癌の発症リスクは2.17 倍、最終的に骨転移へと進行する前立腺癌の発症あるいは前立腺癌による死亡リスクが2.69倍になった。

 膣トリコモナス症は、抗生物質で容易に治療可能だが、男性の場合ほとんど症状がないうえに、女性と比べて検出が困難だ。「今回の研究結果が大規模な前向き研究で確認されれば、膣トリコモナス症の予防と治療が、悪性度の高い前立腺癌の、数少ない修正可能なリスク要因といえるかもしれない」と、Mucci氏は語っている。

2009年11月14日土曜日

PSA値は副甲状腺ホルモンでも上昇

「前立腺生検は必ずしも必要とは限らない」

ウィンストンセーラム、ノースカロライナ-ウェイクフォレスト大学医学部の研究者とウィスコンシン-マディソンのウェイクフォーレスト医科大学と大学の研究者は、
前立腺特異抗原(PSA)の値の上昇は、体内の正常なホルモン活動によって引き起こされている可能性があり、必ずしも前立腺生検の必要性と結び付かないことを発見しました。
PSA値の上昇は、これまで前立腺癌の潜在的兆候を示すものとして、PSA検診の普及にも貢献していました。
しかしながら、研究者によると、副甲状腺ホルモン(血中カルシウム濃度を調節するために作り出される物質)が、前立腺癌と無関係な、いわゆる健康な男性のPSA値を押し上げている可能性があることがわかってきました。
これらの"非がん"PSA上昇が、多くの男性を不必要な生検に巻き込み、それがまた多くの不必要な治療につながってしまう恐れがあります。
「PSA値は前立腺がんだけではなく、前立腺に関する他の要因にも左右されます」と、研究責任者ゲーリーG.シュワルツ博士(MPH医科大学の癌生物学および疫学と予防の準教授)は言っています。

炎症やその他の要因でPSA値が高くなることもあります。PSA値が上がった場合、通常生検に回されることが多い。
問題は、男性の年齢にも寄りますが、しばしば、臨床的にはほとんど意味のない微小な前立腺癌が見つかってしまうことです。
臨床的に意味のないこれらのがんは、もし生検を受けなかったとしても、致命的ながんに浸展することはありません。
しかしながら、PSAのスクリーニングは普及してきており、より多くの男性に生検が施されています。
前立腺癌があると言われた男性の多くは、治療の必要がないにもかかわらず、治療を受けてしまうわけです。
現実には、未治療のままにしておいて致命的になりそうながんというのは、前立腺がんの生検診断において、6例中1例ぐらいしかありません。
前立腺生検率が高いため、過剰な治療が行われやすく、それが、勃起不全や尿失禁などの副作用の増加につながっているのが現状です。
シュワルツ氏はこのように述べている。

ハルシオンG.スキナー博士、MPH、とウィスコンシン大学のマディソンの共同執筆による研究は、Cancer Epidemiology"癌疫学"(Biomarkers&Prevention)の最新号に掲載されています。
研究者たちは、国民健康栄養調査2005-2006に参加した1273人から、現在感染症や前立腺の炎症がない人、過去1カ月で前立腺生検を受けていない人、調査時点で前立腺がん歴のない人を抽出しデータを分析した。
PSA値の増減には・・・年齢が高いほど増加傾向、黒人男性では増加傾向、肥満男性では低下傾向・・・などの傾向があるため、年齢、人種、肥満による影響を調整した結果、
血液中の副甲状腺ホルモン値が高ければ高いほど、PSAがより高い値を示す傾向があることが判明した。
副甲状腺レベルが通常範囲内の上位に位置する男性では、PSA値は43%増加していました。これらの多くは、泌尿器科医が生検をお勧めする範囲に含まれると言えるでしょう。

また、今回の発見は黒人男性にとって特に重要である、とスキナーが付け加えた。
副甲状腺ホルモンのレベルが高いと言われているのは黒人男性では約20%、白人男性では約10%である。
この差が、黒人のほうが、生検を勧められて無駄な治療につながる可能性が高いということだ、と述べた。

この発見は、医療者が前立腺がんのスクリーニングに際し、生検を必要とするのか、そうでないのかを選別するのに役立つはずだ。とシュワルツ氏は言っている。
前立腺癌よりむしろ副甲状腺ホルモン値が高いために、PSAが上昇している男性がたくさん居るはず。

副甲状腺ホルモンは、甲状腺内にある4つの小いさな腺、副甲状腺細胞によって作られています。
副甲状腺ホルモンは主として血液中のカルシウム濃度を制御しますが、最近の研究では、副甲状腺ホルモンが前立腺がん細胞の増殖を促進することも示されている。
シュワルツ氏の研究とスキナーは、前立腺がんでない男性においても、副甲状腺ホルモンが前立腺細胞の成長をうながすことを、初めて示唆しました。

この研究は、国立衛生研究所とアメリカがん協会からの助成金によって賄われました。


Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention誌11月号(2009;8,11,2869-2873)
米ウェイクフォーレスト医科大学のGary G. Schwartz 氏らの研究結果

PSA値の上昇は、前立腺の異常だけではなく、副甲状腺ホルモンの増加とも関連している。
血液中の副甲状腺ホルモン値とカルシウム濃度が高いほど、PSA値も高くなる。
(副甲状腺ホルモンは血液中のカルシウム濃度を制御する働きを持つ。)

副甲状腺ホルモンのレベルが正常範囲高値の男性は、正常範囲低値の男性と比較して、PSA値が43%高かった。これは、多くの場合で泌尿器科医から前立腺生検を推薦されるレベルである。

最近の研究では、副甲状腺ホルモンが前立腺の癌細胞の増殖を促進させることも示されているが、
この研究は、副甲状腺ホルモンが前立腺癌でない男性においても前立腺細胞の成長を促すことを初めて示した。

2009年11月13日金曜日

樹状細胞ワクチン療法

(レーベンスクラフト最新医療情報2009/3/27)

バイオベンチャーのテラは免疫機能の司令塔である樹状細胞の働きを高め、がんを狙い撃ちする治療法を医療機関に提供している。

この「樹状細胞ワクチン療法」は副作用が少なく再発や転移したがんにも効果を示すという。従来の治療法では治せなかったがん患者を救おうと次世代型の治療法確立を視野に入れている。

樹状細胞は体内の異物を食べて特徴を認識、リンパ球に異物の特徴を覚え込ませる。これによりリンパ球は異物に照準を絞って攻撃できる。テラの治療法では、がんに細胞に特有なたんぱく質の断片を再現した人工抗原「WT1ペプチド」を樹状細胞に与え、リンパ球への司令を出させる。

大阪大学が持つ人工抗原に関する基礎技術を導入した。阪大はがん細胞が増殖したり生存したりするのに必要なたんぱく質断片を発見、多様ながんに使えるWT1ペプチドを開発した。従来の人工抗原はがんの種類によっては使えなかった。

樹状細胞ワクチン療法を提供しているのは、信州大学医学部付属病院などテラが契約した全国で約10ヶ所の医療機関。患者の血液から単球と呼ぶ細胞を採取・培養して樹状細胞を作製する。

そこに人工抗原を入れ患者に注射。治療は4ヶ月ほどで終わるのが特徴だ。東大発の培養技術に阪大の人工抗原を組み合わせることにより、新たながんの免疫療法を生み出した。

免疫療法で主流の「活性リンパ球療法」はリンパ球を増殖させて体内に戻す。がん細胞を攻撃する「兵隊」を増やす手法だが、司令塔の樹状細胞が標的であるがん細胞の特徴をとらえていないために的確な命令が下せず、がん細胞を見逃してしまう恐れがある。

がん治療には外科手術や放射線治療など様々な手法があるとはいえ、転移したり、抗がん剤に耐性を持ったりしたがんの根治は難しい。樹状細胞ワクチン療法は、68万人いると言われているがん難民に新たな治療法を提供出来る可能性がある。

現時点でテラの樹状細胞ワクチン療法は臨床試験(治験)を実施しておらず、薬事法に基づく承認も受けていないため、保険適用外の自由診療として提供される。

樹状細胞を活用した治療法の歴史は浅く、エビデンス(科学的根拠)の蓄積も足りないのが実情。同社の累計症例数は1000件を超えているが、テラ以外では世界でも2000~3000件にすぎず、実績の積み上げが課題になる。

2009年11月7日土曜日

粒子線治療装置を小型化(従来の10分の1)

(産経新聞 2009/10/13)

患部を切らずにがん細胞を破壊する「粒子線治療」で使われる装置を従来の10分の1程度に小型化する技術の開発に、日本原子力研究開発機構光医療研究連携センター(京都府木津川市)の福田祐仁研究副主幹らの研究チームが成功した。現在は300万円前後かかっている粒子線による治療費も、新技術導入で約30万円に抑えられる見通しという。成果は13日付の米物理学会誌フィジカル・レビュー・レターズ(電子版)で発表される。

粒子線治療は高速で照射する炭素などのイオンが身体の表面ではあまり作用せず、がん細胞を重点的に破壊する効果がある。現在使われている粒子線治療装置は大型の加速器を使っているため、体育館サイズの施設が必要で治療費も高額となっている。

福田さんらは特殊なノズルを使って、真空中に高圧の二酸化炭素・ヘリウム混合ガスを噴射し、横からレーザー光を当てる手法で、炭素イオンなどを加速させる手法を開発した。この技術を使えば大型の加速器が不要になり、治療装置は教室サイズに小さくできるという。福田さんは「7年後を目標に試作機を完成させ、実用化のメドをつけたい」と話している。

膠芽腫にウイルス療法が効果的

もっとも悪性度が高い脳腫瘍(しゅよう)「膠芽腫(こうがしゅ)」の増殖をウイルスを利用して抑える方法を、東京大のチームが見つけた

膠芽腫は脳腫瘍の約1割を占め、放射線や抗がん剤でたたいてもやがて再発し、患者の7割が診断から2年以内に亡くなるという。東京大医学系研究科博士課程4年の生島弘彬さんと東京大病院の藤堂具紀特任教授は、再発の理由は脳腫瘍のもとになる「がん幹細胞」が生き残るためだと考え、脳腫瘍患者から見つかった細胞増殖因子「TGFベータ」に着目した。その働きを抑える阻害剤を膠芽腫患者のがん幹細胞に作用させたところ、増殖が抑えられた。

ドイツの企業が脳腫瘍患者の脳にTGFベータ阻害剤を直接注入する臨床試験を実施中で、生島さんらは今回そのメカニズムを解明した。

チームの宮園浩平教授(分子病理学)は「がん幹細胞を阻害剤で無力化させ、残ったがん細胞を放射線や抗がん剤でたたくという組み合わせで、膠芽腫の治療が可能になるかもしれない。他のがんにも有効か今後調べたい」と話す。

膠芽腫は、脳腫瘍の約4分の1を占める神経膠腫(グリオーマ)のうち最も悪性とされ、年間10万人に1人の割合で発症。手術後、放射線治療と化学療法をしても平均余命は診断から1年程度で、特に再発した場合は有効な治療法はなかった。

藤堂特任教授らのウイルス療法は、口唇ヘルペスの原因となる単純ヘルペスウイルス1型を利用、3遺伝子を改変し、がん細胞だけで増殖するようにした。このウイルスをがん細胞に感染させると増殖し、感染したがん細胞を死滅させ、増殖したウイルスはさらに周囲のがん細胞に感染、次々と死滅させる。正常細胞に感染しても増殖しない。
ウイルス療法は、放射線治療や抗がん剤による化学療法と並び、新たな治療の選択肢になるのではないかとしている。

ウイルス療法

さまざまな病気を引き起こすウイルスだが,うまく手なずけるとがんを効果的に攻撃する新しい治療法に道が開ける。腫瘍細胞だけで増殖するウイルスを利用するウイルス療法(virotherapy)だ。

がん患者が偶然ウイルスに感染し、そのウイルス疾患が軽快するとともにがんも縮小するということが、古くは1900年代の初めに報告されていた。その後の研究で、単純ヘルペスウイルスをはじめとするいくつかのウイルスにはがん細胞を殺す作用があることが発見され、さらに研究が進むにつれ、それは、“免疫”にも関係していることが判ってきた。
ウイルス感染が起こったことによりヒトの体中で免疫が活性化し、がん細胞に対する免疫も高まり、直接あるいは間接的にがん細胞を壊したり食べたりしてしまうという。

ウイルスをがん細胞だけに選択的に感染させて殺す臨床試験が進んでいる。現在,がん細胞には効率よく感染するが正常細胞には影響を与えないようなウイルス(特にアデノウイルス)を開発するため,さまざまな方法が試されている。

ウイルス療法の標的指向性を高めるには,大きく分けて2つのアプローチがある。1つは「遺伝子導入の標的化」で,がん細胞に特異的に感染(遺伝子導入)できるようにウイルスを改良する。もう1つは「転写活性の標的化」で,ウイルスが運ぶ遺伝子ががん細胞でのみ活性化される(転写される)ように改良する。

従来の化学療法剤に対する感受性を高めるような遺伝子をがん細胞に選択的に導入するという考え方や,ある種の酵素を作り出す遺伝子をウイルスに組み込んでがん細胞で発現させ,その酵素によって無害な化学物質を強い毒性を発揮する化学療法剤に変えるといったやり方もある。

ウイルスに蛍光物質や放射性核種の標識をつけて利用することも考えられている。これを投与するとがん細胞のところに集まってくる。将来は微小ながんの転移巣を検出する画像診断が可能になるだろう。

2009年11月6日金曜日

運動は前立腺がんの発症リスクを低下させる

スウェーデンのカロリンスカ研究所のNicola Orsini氏らによる研究結果(2009/10/27)によると、
デスクワーク中心の男性は、身体をよく動かす仕事に就く人よりも、前立腺癌の発症リスクが約3割も高い。
毎日1時間以上のウオーキングかサイクリングをした男性は、40分以下の男性に比べて、前立腺ガンのリスクが14%低く、
ウオーキングかサイクリングの時間が 30分増加するごとに、前立腺癌リスクが7%(進行癌のリスクが12%)低くなる。
仕事中に椅子に座って過ごす時間をできるだけ減らすか、1日に30分間以上のウオーキングかサイクリングをすることは、
前立腺癌の予防に役立つだろうと、この研究者は述べている。

2009年11月4日水曜日

前立腺がん治療薬MDV3100

(10/29 がんナビ記事より)
アステラス製薬は10月28日、米Medivation社と同社の前立腺がん治療薬MDV3100について、全世界における開発・商業化に関する契約を締結したと発表した。

 MDV3100は第二世代の経口抗アンドロゲン剤で、ドセタキセルによる化学療法の治療歴を有する去勢抵抗性前立腺がん患者を対象とした国際フェーズ3臨床試験AFFIRMが現在行われている。日本における開発については検討中だ。

 MDV3100は前臨床試験で、最も使われている抗アンドロゲン剤のビカルタミドよりも優れたアンドロゲン受容体経路の抑制作用を示したという。また、MDV3100はビカルタミド抵抗性がんで、アンドロゲン受容体へのテストステロン結合阻害、前立腺がん細胞核へのアンドロゲン受容体の転移阻害、DNAへの結合阻害によって、がん細胞の増殖抑制、細胞死を誘導した。

 契約に基づいて両社は、今後、後期及び初期ステージの前立腺がんを対象に、追加試験を含むMDV3100の広範囲な開発プログラムを共同で進める。米国ではMDV3100の商業化は両社共同で行うが、米国以外の地域についてはアステラス製薬が独占的に開発・販売を行う。