2012年3月27日火曜日

バルーン椎体形成術(BKP:Balloon Kyphoplasty )

脊椎圧迫骨折の新治療法について

骨セメント療法と言うのはすでにひげの父さんのHPでも紹介してきましたが、
http://hige103.main.jp/soulful-world/guidebook/sheet003.htm#c4
これはその進化版。

骨粗鬆症等によりつぶれた背骨(圧迫骨折)に、背中側から細い針を差込み、骨の中でバル-ン(風船)を膨らませて、つぶれた骨の形を元に戻した後、空いた空間に骨セメントを詰め、圧迫骨折の痛みをとるバルーン椎体形成術(Balloon Kyphoplasty; BKP)という新治療法で、従来の骨セメント療法より確実性と安全性が高まっている。
2011年1月より健康保険が適応されましたが、急性期の圧迫骨折には適応がなく、背骨の骨折から8週間以上経過してもなお痛みと変形が続いている場合に適応があるとか。
(前立腺がんの骨転移による圧迫骨折にも保険適応があるかどうかは未確認です。)

この手技を行うにはメドトロニックソファモアダネック社による講習、もしくは認定病院での手術見学が義務付けられています。

施設認定基準
1) 全身麻酔下及びエックス線透視下で経皮的後弯矯正術(Balloon Kyphoplasty)を
実施可能な施設。
2) 合併症発生時には、速やかに、全身麻酔下での脊椎除圧再建術や、血管修復術
などの緊急対応を行うことができる施設。
3) 本機器を使用した手術は、脊椎外科の専門知識を有し、本システム特定の
トレーニングを受けた医師のみが行うこと。

使用する医療器機
KYPHON BKP システム
KYHPON BKP 骨セメント

バルーン椎体形成の手順
1)骨折した椎体にバルーンのついた器具を入れる。
2)バルーンを膨らませ、椎体を元の形状に戻す。
3)バルーンを抜いた空間に骨セメントを充填。
4)手術(約1時間)中に骨セメントが硬化。

2012年3月12日月曜日

アビラテロン(abiraterone)

先に、アビラテロンに関するこれまでの情報をまとめてみますと・・・

テストステロンの合成酵素「CYP17A1」を選択的に阻害し、精巣や副腎でのテストステロンの
産生を抑える薬剤で、”タキソテールベースの化学療法が無効となった”患者を対象とした第Ⅲ相臨床試験で、全生存期間の3.9ヵ月延長が認められ、2011年4月、FDA(米国食品医薬品局)はプレドニゾンとの併用でこれを承認、以降世界39カ国で同様の承認が得られています。
日本はあいかわらず出遅れていますね・・・39カ国と言えば、先進国ではほとんどの国が承認済み?

このたびの新情報は次の通り。

”化学療法歴のない”転移性の去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)を対象に、アビラテロンとプレドニゾンを併用する第Ⅲ相臨床試験の中間評価を行ったところ、主要評価項目である無増悪生存期間と全生存期間において臨床利益と忍容性を確認したため、評価を行った独立データモニタリング委員会は、全会一致で臨床試験の盲検化を解除する勧告を出し、プラセボ(偽薬)群にもアビラテロンの投与を開始するよう求めた。

臨床試験に参加しても、プラシボに振り分けられれば、患者は何の恩恵も受けられないわけですが、これによって参加者全員がアビラテロンの恩恵を受けられるわけですから、良い判断ですよね。
他の臨床試験でもこういう判断の前例があったのでしょうか?
臨機応変に、こういう融通をきかした判断が出てくるのはありがたいことですね。
日本のお役所仕事ではたぶんこうはいかないでしょう。アメリカならでは?

2012年3月7日水曜日

軽度~中等度の排尿障害

前立腺がんの全摘術を受けた場合、短期的にはほとんどの人がなんらかの排尿障害を経験します。なかにはいつまでたってもひどい尿漏れが継続する、高度の排尿障害も見受けますが、それについては 別項(こちら) をご覧ください。

軽度の排尿障害では、骨盤底筋を鍛える運動が基本となりますが、 外尿道括約筋を締める薬(スピロペントetc)や、「切迫型」の尿漏れに対しては 過活動膀胱を抑える薬(抗コリン薬)を併用します。 適宜、尿パッドや失禁パンツなどのケアアイテムを用い、治療・訓練を続けるうちに数週間から数カ月で治るものがほとんどです。
薬が効きにくい軽度~中度の排尿障害では、装着型収尿器やペニクランプを用いたり、コラーゲン注入術や スリング術を行うこともあります。

● 尿パッド・失禁パンツ
ズレを予防できる男性専用パッドはほとんどないので、男女共用型を失禁量に合わせて使用する。(写真は男性用パッドの一例)
失禁パンツ(図-1)は、前側に吸収体が入っていて、30mL以内の少量の漏れに対応できる。

● 装着型収尿器
使い捨てタイプ(図-2)は、直接ペニスに付けるので、長時間付け続けるとスキントラブルを起こ す可能性がある。
再利用タイプ(図-3)は、パンツ内に固定された受尿器に逆流防止弁の付いたチューブ部分が接続されている。 スキントラブルはこのほうが少ない。
受尿器は、排泄姿勢により、一人ひとりに適したタイプが選べる。

● ペニクランプ
ペニスを挟み、漏れを防ぐ用具(図-4)です。簡便に使用でき、漏れその ものを抑えることができますが、少なくとも2~3時間ごとにペニスを解放する必要がある。 長時間、使用しているとうっ血を起こす可能性があるので、自己管理ができることが使用条件の一つ。
切迫性尿失禁で膀胱の収縮が激しい患者には適しない。

● コラーゲン注入術 (医療保険適用あり)
内視鏡を使い尿道粘膜の下にコラーゲンを注射する方法。
比較的簡単で合併症も少ないが、確実性と持続性に欠けるのが欠点。

● (尿道)スリング術 (医療保険適用あり)
外尿道括約筋の機能がある程度残っており、 腹圧時に尿道が後方にぐらつくタイプの尿失禁で、失禁量が200-300g/日 程度までの軽~中度の排尿障害に対しては、 尿道を恥骨側に人工テープで吊り上げる「スリング術」によりしばしば症状の改善がみられる。
女性の尿失禁にはこの「ぐらぐら型」が多いので、スリング術が広く用い
られているが、 全摘術後の尿失禁に対しては確実性は乏しい。ただし、
自然排尿ができるのが利点。

2012年3月6日火曜日

人工尿道括約筋 (高度排尿障害)




前立腺がんの場合、全摘術後の排尿障害は、つきものと言っても過言ではありませんが、これらのほとんどは一時的なものか、もしくは障害が残っても、なんとか我慢の限度内に留まっています。
しかしながら、全摘術を受ける患者のうち、約1~3%の患者は、外尿道括約筋を損傷し、(手術ミスもあれば、浸潤状態にもよる)多量かつ頻繁な尿漏れに悩まされ(おむつ代が年間数十万!)、ひきこもりから鬱になる人もめずらしくありません。
こうした患者は年間数百人と見られていますが、男性尿失禁治療に習熟している医師、医療機関は極めて少なく、治療法を知る機会もほとんどないまま”見放されてきた”のが実情でした。
こうした高度尿失禁(400g/日が目安)に対する唯一効果的な治療法は「人工尿道括約筋」の埋込み手術です。
半数近くの患者でほぼ完全に尿失禁がなくなり、ほぼ9割が生活に支障がない程度まで改善するという治療法で、米国ではすでに30年以上の実績を有し、「教科書にも載っている男性重症尿失禁治療のゴールドスタンダード」とのことですが、わが国では、先進医療としてまだ限られた医療機関で行われているにすぎません。
160~170万という高額医療費も、人工尿道括約筋の普及発展の妨げとなっていましたが、2012年1月30日に開かれた中央社会保険医療協議会総会でこの4月より保険適応となることが決定しました。
重度の尿失禁に悩む人には大きな朗報であり、人工尿道括約筋の普及にも、これではずみがつくのではないでしょうか。
人工尿道括約筋(右図)の埋め込み術は全身麻酔下で行われ、手術に要する時間は1~2時間。入院期間も1週間弱。
外見上装着の有無はまずわかりません。また、感染や機器の初期不良さえなければ、長期間の継続利用が可能で、国内のデータでも、 10年間継続利用している患者の割合が7割を超えています。
激しい運動も可能で、少量の尿漏れや尿滴下がある以外、尿失禁は認められなくなります。
人工尿道括約筋を開発した米国のAMS社によると、これまでこの治療を受けた患者は、全世界で13万人に上るということです。

<人工尿道括約筋のしくみ> (右図参照)

【図-1】 通常はカフに循環液(生理食塩水)が満たされ尿道を
締め付けているので、膀胱内に尿が溜まる。

【図-2】 陰嚢内のコントロールポンプを押すと、カフ内の循環
液がバルーンに移動し、カフが緩んで排尿可能となる。

【図-3】 排尿終了後は、数分で自動的にバルーンの循環液が
カフに移動し、また尿道を締め付ける。


<人工尿道括約筋手術」で先進医療指定を受けている病院>(平成22年12月現在)
・原三信病院(福岡市) ・東北大学病院 ・北海道大学病院 ・北里大学病院
・東京医科歯科大学病院 ・国立がん研究センター中央病院 ・島根大学病院


<人工尿道括約筋の緊急時トラブルに対応できる病院>(全国で20箇所)
・旭川医科大学病院 ・北海道大学病院 ・東北大学病院 ・八戸市立市民病院 ・秋田大学病院 
・東京医科歯科大学 ・国立がん研究センター中央病院 ・東京女子医科大東医療センター
・帝京大学病院 ・東京大学病院 ・北里大学病院 ・日本大学板橋病院 ・山梨大学病院
・西野クリニック(各務原市) ・近畿大学病院 ・関西医科大学枚方病院 ・島根大学病院
・香川大学病院 ・原三信病院 ・琉球大学病院

2012年3月1日木曜日

デガレりクス

ここのところ評価の高いデガレりクスですが、
このたび(2012年2月28日)、スイスFerring Pharmaceuticals社より新しい発表がなされました。

「ゴセレリン+ビカルタミド」とデガレリクスの比較で、腫瘍縮小(前立腺体積の変化率)効果はほぼ同じだが、(12週の時点で、デガレリクスが-36.0%、「ゴセレリン+ビカルタミド」が-35.3%)
患者のQOLに大きな影響を与える下部尿路症状の軽減では、ゴセレリンの方が優れていたというものです。
(注:ゴセレリンやリュープロレリンというのはリュープリンやゾラデックスと同じLH-RHアナログ剤。)
有害事象発生率は両群間で差はなかった。

ついでにデガレりクスについてこれまでの情報を整理しておきます。

・デガレりクスは、Gn-RHアンタゴニスト(拮抗剤)である。
・2008年12月にFDA(米国食品医薬品局)が承認。
・リュープリン等のLH-RHアゴニストは、投与直後にテストステロンの上昇を招き
 (フレアーアップ現象)、抗テストステロン剤(カソデックス等)の併用が
 欠かせないのに対し、アンタゴニストは直接テストステロンの産生を抑制するので、
 抗テストステロン剤の併用を必要としない。
・デガレりクスと「リュープロリド(±ビカルタミド)」を比較したところ、
 デガレりクスはリュープロリドに比べ速やかにテストステロン値を低下させ、
 PSAの上昇または死亡のリスクを34%低減させ、
 PSA無増悪生存率でも有意に優れていた。

デガレリクスに関して入ってくる情報は、良いことずくめ・・・多少割り引いても期待できる薬であることに間違いはなさそうです。

MDV3100

MDV3100が、フェーズ3試験の中間解析で進行前立腺癌患者の全生存期間(OS)を4.8カ月延長したことが、2月24日~26日、パリで開催された欧州泌尿器学会(EAU)総会では発表された。
(2012年国際泌尿器癌会議(ASCO-GU)でも、同じ内容が発表されており、すでに紹介済みですが、こんどはもう少し詳しく紹介しておきます)

MDV3100が主要エンドポイントである全生存期間(OS)とすべての二次エンドポイントを達成したため、独立データモニタリング委員会の判断により試験は早期終了となった。(いわばコールド勝ち)
MDV3100はアンドロゲン受容体シグナル伝達を阻害することで腫瘍増殖を抑制し、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する経口剤。

ドセタキセルベースの化学療法を受けた進行前立腺癌患者1199人が
MDV3100(160mg/日)1日1錠服用群とプラセボ群に2:1で割り付けられた。

【臨床試験結果】

(主要エンドポイント)      MDV3100群   プラセボ群
全生存期間(OS)中央値      18.4カ月    13.6カ月

(二次エンドポイント)      MDV3100群   プラセボ群
無増悪生存期間中央値       8.3カ月     2.9カ月
PSA値が上昇するまでの期間中央値  8.3カ月     3.0カ月
PSA値が50%以上低下        54.0%低下    1.5%低下
PSA値が90%以上低下        24.8%      0.9%

最も一般的な副作用は疲労、下痢、ホットフラッシュで同薬の認容性はきわめて良好。
有害事象データには大差がなく、重篤な副作用も特になし。

デガレリクスはまだホルモン療法が有効な患者向けの薬として期待されるわけですが、
MDV3100は転移性去勢抵抗性前立腺癌(転移がありホルモン療法に耐性が生じた)患者向けの薬(経口剤)として期待されています。