前立腺がんの場合、全摘術後の排尿障害は、つきものと言っても過言ではありませんが、これらのほとんどは一時的なものか、もしくは障害が残っても、なんとか我慢の限度内に留まっています。
しかしながら、全摘術を受ける患者のうち、約1~3%の患者は、外尿道括約筋を損傷し、(手術ミスもあれば、浸潤状態にもよる)多量かつ頻繁な尿漏れに悩まされ(おむつ代が年間数十万!)、ひきこもりから鬱になる人もめずらしくありません。
こうした患者は年間数百人と見られていますが、男性尿失禁治療に習熟している医師、医療機関は極めて少なく、治療法を知る機会もほとんどないまま”見放されてきた”のが実情でした。
こうした高度尿失禁(400g/日が目安)に対する唯一効果的な治療法は「人工尿道括約筋」の埋込み手術です。
半数近くの患者でほぼ完全に尿失禁がなくなり、ほぼ9割が生活に支障がない程度まで改善するという治療法で、米国ではすでに30年以上の実績を有し、「教科書にも載っている男性重症尿失禁治療のゴールドスタンダード」とのことですが、わが国では、先進医療としてまだ限られた医療機関で行われているにすぎません。
160~170万という高額医療費も、人工尿道括約筋の普及発展の妨げとなっていましたが、2012年1月30日に開かれた中央社会保険医療協議会総会でこの4月より保険適応となることが決定しました。
重度の尿失禁に悩む人には大きな朗報であり、人工尿道括約筋の普及にも、これではずみがつくのではないでしょうか。
人工尿道括約筋(右図)の埋め込み術は全身麻酔下で行われ、手術に要する時間は1~2時間。入院期間も1週間弱。
外見上装着の有無はまずわかりません。また、感染や機器の初期不良さえなければ、長期間の継続利用が可能で、国内のデータでも、 10年間継続利用している患者の割合が7割を超えています。
激しい運動も可能で、少量の尿漏れや尿滴下がある以外、尿失禁は認められなくなります。
人工尿道括約筋を開発した米国のAMS社によると、これまでこの治療を受けた患者は、全世界で13万人に上るということです。
<人工尿道括約筋のしくみ> (右図参照)
【図-1】 通常はカフに循環液(生理食塩水)が満たされ尿道を
締め付けているので、膀胱内に尿が溜まる。
【図-2】 陰嚢内のコントロールポンプを押すと、カフ内の循環
液がバルーンに移動し、カフが緩んで排尿可能となる。
【図-3】 排尿終了後は、数分で自動的にバルーンの循環液が
カフに移動し、また尿道を締め付ける。
<人工尿道括約筋手術」で先進医療指定を受けている病院>(平成22年12月現在)
・原三信病院(福岡市) ・東北大学病院 ・北海道大学病院 ・北里大学病院
・東京医科歯科大学病院 ・国立がん研究センター中央病院 ・島根大学病院
<人工尿道括約筋の緊急時トラブルに対応できる病院>(全国で20箇所)
・旭川医科大学病院 ・北海道大学病院 ・東北大学病院 ・八戸市立市民病院 ・秋田大学病院
・東京医科歯科大学 ・国立がん研究センター中央病院 ・東京女子医科大東医療センター
・帝京大学病院 ・東京大学病院 ・北里大学病院 ・日本大学板橋病院 ・山梨大学病院
・西野クリニック(各務原市) ・近畿大学病院 ・関西医科大学枚方病院 ・島根大学病院
・香川大学病院 ・原三信病院 ・琉球大学病院