2011年6月7日火曜日

アビラテロン:FDAが承認 (前立腺がんのドラッグラグ)

米食品医薬品局(FDA)は2011年4月28日、前立腺癌治療薬アビラテロンを承認しました。
適応は、ホルモン療法抵抗性の転移性前立腺癌でドセタキセル投与歴を有する患者。
低用量のステロイドと併用されます。

昨年(6月17日)FDAにより承認されたカバジタキセル(Jevtana)に続いて、
ドセタキセル(タキソテール)の次の手がまた一つ増えたわけです。
喜ばしい事ではあるのですが、これは米国の話ですね。
日本ではやはりまだ、ドセタキセル治療にもかかわらず病勢が悪化してしまった患者には、
ほとんど治療の余地が残されていないのが現状です。

前立腺がんの新薬で、米国では使えるのに日本では使えないものが、このほかにもまだいくつかありますが、
「我国でも早く使えるようにしてほしい!」という声は、やはり我々患者からあげるべきできではないでしょうか。
他のがんでマスコミをにぎわしている「ドラッグ・ラグ」問題は前立腺がんにもあるのですから。

T3までの前立腺がんには遅延CAB(MAB)療法が有効

(第99回日本泌尿器科学会2011/4/21 三重J-Cap研究会発表より・・・データの解析がやや判りづらいのですが)
参考サイト:がんナビ http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/201104/519539.html&cnavi=1

注:CAB(Complete Androgen Blockade)療法=MAB(Maximal Androgen Blockade)療法

進行性前立腺癌に対するホルモン治療は、CAB療法が主流となっているが、限局性もしくは局所進行性前立腺がん(T1c─T3aN0M0)に対しては、LH-RHアゴニスト(リュープリンorゾラデックス)単剤で治療を開始し、PSAの上昇に応じて抗アンドロゲン剤(カソデックス)を追加する「遅延CAB療法」が有効である。

LH-RHアゴニストのみでPSAを制御できる可能性や抗アンドロゲン剤による副作用を回避するため、LH-RHアゴニスト投与後、PSAが測定感度以下に低下しないもしくはPSAが再上昇することを確認してから抗アンドロゲン薬を追加投与する遅延-CAB療法の有効性を検討してきた。

対象は2001年1月から2004年12月までに三重J-Cap研究会に登録された前立腺癌患者(640例)のうち、遅延CAB療法が施行されたT1c─T3aN0M0の患者92例。

観察期間中央値は52.8カ月で、導入時平均年齢は76.4歳。開始時のPSAは14ng/mL(3.6~492)。
     T1c T2a T2b T3a            ~6  7   8~10
ステージ 27  39  20 6(例)  グリソンスコア 45  26  21(例)

抗アンドロゲン薬を追加するタイミングは次の通り。
・PSA nadirが0.2より高値である場合
・PSA nadirが0.2以下であるが、PSAが3ポイント連続して0.2を超えた場合

追跡の結果、LH-RHアゴニスト単剤治療で
・PSA nadirが0.2mg/mLより高値である症例は38例
・PSA nadirが0.2mg/mL以下の症例は54例
・5年PSA非再発率は62.4%
・8年PSA非再発率は42.3%

PSA再発を確認した31症例に抗アンドロゲン薬が追加投与され、
・追加後の8年PSA非再発率は60.9%
遅延CAB療法全工程での
・5年PSA非再発率は88.3%
・9年PSA非再発率は74.8%だった。
経過観察中の癌死は1例、他因死は9例で、
・5年癌特異的生存率は98.0%、全生存率は87.5%
・9年癌特異的生存率は98.0%、全生存率は83.5%

PSA再発に関し、遅延CAB療法の維持期間は、
LH-RHアゴニスト単体治療の維持期間(<14カ月)のみが有意な危険因子となる。

LH-RHアゴニスト単剤治療中におけるPSA再発の危険因子は次の3つ。
・グリソンスコア8以上
・PSA nadir 1.4ng/mL以上
・治療開始後のPSA半減期が1.2カ月以上

高リスク群(51例):これらの危険因子を1つ以上有する
低リスク群(41例):危険因子を有しない

PSA非再発率は次の通り
       1年   3年   5年   9年
低リスク群 100%、100%、 95.0%、95.0%
高リスク群 100%、86.1%、 82.6%、58.6%

局所もしくは局所進行性前立腺癌において遅延CAB療法は長期に維持できる症例が多く存在し、遅延CAB療法中にPSA再発の危険因子をモニタリングすることで適切なタイミングで抗アンドロゲン薬追加投与を行うことができる。

2011年6月6日月曜日

全摘除術と監視(待機)療法の比較

参考サイト:がんナビ
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/news/201105/519863.html

なんらかの症状がある早期(限局がん)前立腺癌患者を、
「手術(全摘除術)」と「待機療法」に割り振り、12.8年(中央値)追跡した
ランダム化臨床試験「SPCG-4(Scandinavian Prostate Cancer Group Study 4)」の結果が、
New England Journal of Medicine誌の2011年5月5日号に掲載された。

観察期間:1989年10月~99年2月
地域:スウェーデン、フィンランド、アイスランドの14施設
対象年齢:75歳未満
病期:ステージT2までの限局がん
高分化または中分化がん
PSA値は50ng/mL未満
計695人(平均年齢65歳)

A)手術(347人)
 (根治的切除:294人、局所再発や転移の徴候が見られた場合のみホルモン療法)
・前立腺癌死亡率は14.6%

B)待機療法(348人)に無作為に割り付けた。
 (無治療:302人、排尿障害にはTURT、進行or骨転移が生じた場合にはホルモン療法)
・前立腺癌死亡率は20.7%

つまり前立腺癌死亡率の比較では経過観察より手術の方が有利とのこと。
これをさらに、65歳未満と65歳以上に分けて分析した結果、65歳未満では有意差が見られたが、65歳以上では有意差が見られなかった。

ただし、この試験に登録された患者のほとんどが触知できる腫瘍を有しており、
PSA値の上昇をきっかけに診断に至った患者は5%にとどまることから、
この試験で得られた結果は、PSA値を指標とするスクリーニングで前立腺癌と診断された患者群にそのまま当てはめることは難しいと考えられる。

■補足
PIVOTと呼ばれる米国の大規模ランダム化臨床試験の結果が、2011年5月17日に
American Urological Association (AUA=米国泌尿器科学会)の年次総会で発表されました。
詳細な内容はまだ入手できておりませんが、概要は次の通りです。
追跡調査12年目の時点で、外科手術群と待機療法群の全生存率および前立腺癌特異的生存率は、ほぼ同等であったと言う。
このPIVOT試験では大多数の参加者がPSA検診により前立腺癌と診断された患者であることから、こちらの臨床試験の結果のほうが現在の米国の実情をより正確に反映していると考えられます。
日本においても、PSA値から前立腺がんが見つかることが増えているので、実情は米国と大差はないでしょう。
監視(待機)療法の適応にあたって、NCCNの"very low risk"に準じるなどの配慮があれば、「手術と同等」がより確かなものになりそうです。
副作用を含めて考えるなら、圧倒的に監視(待機)療法が優位となりそうですね。