2008年3月19日水曜日

タキソテール投与のタイミング

■<前立腺がんにタキソテールはどのタイミングで投与すべきか~2007年ASCOより>2007年8月6日

既にホルモン療法抵抗性前立腺がんに対するタキソテールの有効性は、TAX327試験の結果より明らかになり、日本国内でも急速に投与が進んでいますが、どのタイミングで投与すべきかを明らかにしたのがGeneral-Poster5149の発表です。この発表によればホルモン療法に抵抗性になったら、間髪いれずタキソテールを開始することが必要とされています。特に骨痛の点から見ると、骨痛なしの時点で開始すると平均生存期間21.4月、骨痛が強い段階での投与開始では平均生存期間13.1月と、生存期間に60%以上差がつくことが判明しました。この発表は転移性前立腺がん患者には重要であり、もしホルモン療法が奏効しなくなったら、ぐずぐずせずタキソテールの投与に踏み切る必要があることを示しています。つまりもし現在治療中の医療機関ではタキソテールが使用できないなら、ホルモン療法が奏効しなくなる前に直ぐに転院する準備を始めなくてはなりません。

悪性の骨盤進展前立腺癌

悪性度の高い若年者骨盤進展前立腺癌に対しては、ホルモン治療・放射線治療に併用して、保険適応はありませんがドセタキセル(タキソテール)を含む抗癌剤治療の実施を勧めています。但し、完全アンドロゲン遮断治療+照射治療後の再燃ではエストラサイト・ドセタキセル・白金製剤・ジェムザール、最近ではオキサリプラチン・イリノテカン・アバスチンの順にケースバイケースで治療する事もあります。いずれにしても放射線治療後の再燃については、グリーソンスコア・進行度(Stage)・PSA倍加時間で遠隔転移の時期、予後が左右されます。
保険適応外の薬を試す前に、放射線治療・白金製剤あるいはVP-16(ラステット)、フッ化ピリミジン系等の保険適応となっている治療薬もあります。また抗アンドロゲン剤の内服あるいは第2次・第3次ホルモン治療も試してみる価値があります。
カルシトリオール、アンジオテンシンⅡあるいはゾメタ、アレディア等の補助薬についても上記IDで回答しております。アバスチンについては化療の中間~最終段階の治療として取っておきます。
エストラサイトの内服試用と照射治療が必要と思われます。また、体重を支える骨転移病巣や神経を圧迫する骨病巣があれば同様に照射が適応です。エストラサイトが不効であれば、ドセタキセル・白金製剤さらにはジェムザール等の新規抗癌剤も効果が期待出来ます。ステロイドは疼痛緩和、食欲増進あるいは癌再燃・悪化に伴う発熱等に効果は認めますが、これだけでは正攻法ではありません。照射治療はすぐにでも開始可能だと思います。他の転移・進行前立腺癌の方のIDもご参照下さい。また低分化前立腺癌には小細胞癌系への分化もありますので、マーカーとしてNSE、ProGRPも併せてチェックが必要です。一時的な疼痛緩和として積極的にデュロパッチ、オプソあるいはオキシコンチンを使用して下さい。
多発性骨転移を有する前立腺癌であっても、直腸診あるいはCTを含む画像診断で、骨盤内病変即ち前立腺が大きく(バルキー)て局所進展型であれば、比較的若年を考慮し、当科は迷わずホルモン治療+動注抗癌剤(白金製剤にドセタキセル、あるいはジェムザールの3者併用:保健不適応)に照射治療を併せた3者併用治療を実施します。原発巣あるいは骨盤内病変が小さい(ノンバルキー)ケースであればホルモンと照射の2者併用のみで対処します。
食欲不振に対しては、ヒスロンH 他に アセナリン、六君子湯、ガスモチン、ステロイド等。
エストラサイト、VP-16、インフォマイド、ビンブラスチン、フッ化ピリミジン、ドセタキセルを含む化療が一般的です。ドキタキセルに抵抗性の時は白金製剤あるいはジェムザールを追加します。また将来的にはアバスチン、グリベックあるいはオキサリプラチンも候補です。 抗癌剤以外の補助薬としてのビスホスホネート系薬剤使用も多発性骨転移には有用です。

粒子線治療施設

■粒子線治療施設(07/12/10:読売 07/12/11:朝日)
日本各地で粒子線治療施設が「計画ラッシュ」世界の4割が日本に集中・・・という記事が12/11の朝日新聞にでていました。読売新聞にも同様の記事が出ていたようです。(YOMIURI ONLINE 12/10)http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20071210it05.htm
12/13から福岡市で開かれる日本放射線腫瘍学会で「粒子線治療施設はどこまで必要か」が議論されるとのことですが、この発表を受けての記事ではないでしょうか。(推測)
到達エネルギーが体表面で強く深部に行くほど減少するX線においては、副作用軽減のためには照射方法に様々な工夫をこらす必要があるのですが、最先端技術である粒子線治療では、がんが深部にあってもその部分で集中的に高いエネルギーを出せるから治療がしやすいと言われてきました。そのなかでも破壊力の強い重粒子線は治療回数も少なくて済み、がんの種類によってはその威力に頼らざるをえないものもあり、治療に大きな期待が寄せられています。ただ現時点では治療開始からの経過年数が浅く、粒子線治療の5年生存率が従来のX線治療を上回るという明白なデータは得られていません。
具体的な事実関係:( )内の数値は日本以外の合計数・日本には現在重粒子線施設が2(1)、陽子線施設が5(21)ある。・日本で計画中の粒子線施設は17(20)・一施設で100億は必要。維持費は年間十数億(患者負担は自費で約300万/回)・採算上は年間500人の患者が必要だがこれを満たしているのは放医研(千葉)と 兵庫県立粒子線センターのみ。国立がんセンター東病院でも100人程度。・国際的にも粒子線施設は"1施設/1000万人"で良いといわれているが、 日本の24施設(将来)は多すぎる。・マンパワー(放射線治療医、医学物理士)が少なすぎる(米国の1割未満)
識者(専門家)のコメント・京大:平岡教授 欧米の放射線治療は、数億で導入できるIMRT(強度変調放射線療法)が主流だが 日本では10施設程度しか普及していない。 粒子線でしか治療できないがんもあるが、それは着工中も含め既存の施設で対応可能。 粒子線施設の新設をすべて否定はしないが、まずはX線治療のレベルアップを計るべき。・東大:中川恵一准教授 国産車もあまり走ってない国に高級外車をどんどん走らせるようなもの。 もっと必要性を議論すべき。
神奈川県では県と民間病院が別々に重粒子線施設の計画を進め、愛知県でも名古屋市の陽子線施設構想と県が支援する民間の重粒子線施設構想が並行する。北九州近辺に集中して3ヶ所の計画が持ち上がっているのも疑問。
こうした計画があいつぐのはなぜ?・自治体首長の打上げ花火に「命を救う最先端施設」はうってつけ。 →自治体財政の足を引っ張る『箱もの行政』にならないか。・原子力施設の新設が難しいなか、メーカーが技術をその生かせる分野に活路を求め 営業を強化した結果。 →広い視野から再検討の必要があるのでは?
手術療法に偏りすぎる傾向がある日本のがん治療を、放射線療法にももっと目を向けていただく広告塔としての意味はあるかもしれないが、意識啓発のためだけならなにも1施設百億単位の金を使う必要はないわけです。(下手をすると毎年の維持費も大きな赤字としてのしかかってくる)先端技術の「箱」をたくさん作ることよりも、まずは放射線治療医、医学物理士の充実とIMRTの普及を目指すべきでしょう。テクニックさえあれば普通のリニアックでも高度な治療ができるのですから。 参考:http://www.geocities.jp/nekoone2000v/CFIMRT_top.html