2009年3月26日木曜日

SBRT(体幹部定位照射)による寡分割照射

”限局前立腺がんの治療法として、体幹部定位照射(SBRT)による寡分割照射(5回)が有望”であるというニュースが、
日経メディカルやがんナビなどのサイトで、報道されました。(2009/3-19)
http://cancernavi.nikkeibp.co.jp/news/5_7.html

そのあとすぐ、もっと詳しい訳が「海外癌医療情報レファランス」に掲載されています。
http://www.cancerit.jp/xoops/modules/pubmed/index.php?page=article&storyid=451

日経メディカルとがんナビは姉妹サイトでもあるので、内容はほぼ同じ、某フリーの医学ライターの記事が元になっているようですが、これを読むと、
前立腺がんを「1回の照射線量を増やし、たった5日間で治療できる」時代が、もうそこまで来ているかのように感じてしまうのですが、
「海外癌医療情報レファランス」の訳文をよく読むと、だいぶニュアンスが異なりますね。
翻訳・要約の仕方には、どうしても、ライターの主観や先入観、時には誤解も混じりますから、読み手としても注意が必要だと思います。
上記2例の訳を比較参照しながら、これをより判りやすく、かつできるだけ間違いのないように要約してみました。

41例の低リスク前立腺患者に、サイバーナイフ(画像誘導装置:SBRT)で36.25 Gy(7.25Gyx5分割)を照射。
6カ月以上の追跡調査の結果、直腸・膀胱には早期・晩期とも"4度"の放射線障害は認めなかった。
"3度"の晩期放射線障害は膀胱で2例あったが、直腸では発生しなかった。
「隔日5回照射」と「5日間連続照射」を比較したところ、重篤な直腸障害はそれぞれ、
0%、38%となり、隔日照射のほうが副作用が少なかった。


つまり、5日間連続照射は、重篤な直腸障害が4割近くにも達し、まったく話にならないということです。

軽度のPSA上昇(中央値0.4)が治療後18カ月後(中央値)に12例(29%)で認められたが、
最終追跡時にPSA再発を来たした症例はなかった。
32例の12カ月以上の追跡で25例(78%)が、治療後3年までに測定底値0.4までのPSA低下が観察された。
前立腺がんに対する体幹部定位照射の副作用とPSAの反応は有望であり、今後さらなる症例の追加と経過観察が必要である。


詳細記事を見れば放射線晩期障害(後遺症)の内訳は、
 膀胱では1度:41%、2度:24%、3度:5%
 直腸では1度:33%、2度:15%
2度以上の障害というのはなんらかの対応が必要とされていますが、これはかなり大きな頻度ですね。
ちなみに、私が治療を受けたK大学病院のIMRT(2gyx39回)では、2度以上の直腸出血発生率は4%程度だと言われています。
この例は少ない方でしょうけど、他の施設でもIMRTで2度以上の直腸出血が10%を超えているところはないはずです。

「海外癌医療情報レファランス」の記事には、抄録訳者コメントならびに、別の医師からの批判文も掲載されています。
専門家としてちょっと理屈っぽいコメントも書かれていますが、要は、患者の安全を第一と考えるなら、
こうした実験は倫理的にも好ましくないというものです。

「早期前立腺がんへの5日間の体幹定位放射線治療で有望な結果」というような「がんナビ」等の記事タイトルは、
現時点においては極めて誤解を招きやすい危険な内容を含んでいるように思います。
これはまだ第II相臨床試験に過ぎないわけですが、その説明もありません。
「5日間」を「隔日5回照射」と表現を変えるならまだしも、こうしたサイトでの紹介は影響が大きいだけに残念ですね。
日本でも、民間病院でこうした先端治療機器を導入する病院が出てきましたが、
少々の副作用には目をつぶるという安易な治療を助長してしまう恐れもなきにしもあらず。
患者の立場としても、落ち着いた判断が必要で、副作用の恐れが高く安全性の裏づけに乏しい照射方式に、
安易に飛びつくべきではないでしょう。

2009年3月25日水曜日

定位放射線治療

現在の高精度放射線治療は、定位放射線治療(stereotactic radiotherapy:SRT)、
定位手術的照射(stereotactic radiosurgery、SRS)、強度変調放射腺治療(intensity
modulated radiotherapy:IMRT)へと進歩し、さらには病巣を追跡しながら照射する4次元照射、動体
追跡照射(real-time tumor-tracking radiotherapy)へと進化した。

脳腫瘍、肺癌などの治療は、かつて手術が第一選択であったが、今や定位放射線治療で手術と同等の
治療成績が得られるようになった。
定位放射線照射法とは「多軌道の回転照射あるいは多門照射を用いて、小病変に対して線量を集中的に
照射する方法で、照射野の中心精度が頭部では±1mm以内、体幹部では左右背腹が±5mm 以内、
頭尾が±10mm 以内のもの」と定義されている。

1951年にスウェーデンの脳外科医Lars Leksell が定位放射線治療(stereotactic radiosurgery )の
概念を提唱し、1968 年にカロリンスカ大学において、ガンマナイフ(201 個のコバルトからガンマ線を
集中させ、癌を手術と同様に1回で治療する装置)による治療が始まった。
これが契機となり、一般的な放射線治療器であるリニアックに改良を加え、X線の集中精度を高める照射方
法として発達したのが定位放射線治療(stereotactic radiotherapy:SRT)で、その手法は脳腫瘍にと
どまらず、頭頸部腫瘍、肺癌、肝臓癌、前立腺癌へと適用されるようになった。

この方法により、通常の照射方法では困難とされるような大線量を投与できることになり、腫瘍制御率
が大幅に改善された。一回の線量は一般に広く用いられてきた2Gyかつ週5回の通常分割照射と異なり
1回が3Gy〜35Gyと大きい。そのためBiological Effective Dose(BED、生物学的等価線量)に換算して
評価し、通常分割照射と比較する。
10Gy ×5〜6回、12Gy ×4〜5回、15Gy ×3〜4回では、いずれもBED 100Gy 以上となる。

abiraterone:(酢酸)アビラテロン

2008年のASCO(米国臨床腫瘍学会)では、再燃前立腺がんに対する有望な新薬アビラテロンが紹介された。
これまでのホルモン薬は脳下垂体の受容体をブロックして男性ホルモンの産出を止めたが、アビラテロンは、性ホルモンの合成に関与する酵素「CYP17」を選択的に阻害し、テストステロン(男性ホルモンの一種)の精巣や副腎での産生を抑制するまったく新しい薬だ。

東京慈恵会医科大学泌尿器科の穎川晋教授の解説によれば、 「アビラテロンは、ドセタキセル(商品名タキソテール)以来の期待できる薬です。従来のホルモン療法が効かない再燃前立腺がん患者への臨床試験では34人中22人、ドセタキセルが効かない再々燃前立腺がん患者でも、28人中10人でPSA値が50%以上低下した」とのこと。

米Cougar Biotechnology社は、2008年4月にフェーズ3(第3相)試験を開始している。
ホルモン耐性の転移性前立腺癌で、ドセタキセルベースの化学療法が無効となった患者を対象に、アビラテロンとプレドニゾンの併用と、プラセボとプレドニゾンの併用を比較する。
試験終了は2011年の予定。

これまでの臨床試験についてJournal of Clinical Oncology誌(2008/7/2)には、次のように書かれている。

・複数の被験者でPSA濃度が90パーセントも低下していることが示された。
・被験者の大部分で原発巣および転移巣のいずれも腫瘍が縮小していた。
・複数の試験参加者がこの薬剤を2年半服用し、良好に疾患をコントロールでき、
 副作用も少なかった。
・多くの患者が骨痛の緩和のために服用しているモルヒネをやめることができた。

「PSA値の低下や腫瘍の縮小は単なる薬理活性の証拠でしかない。患者と一般の人にとって重要なのは、生存期間の長さや生活の質の改善などを評価項目とした無作為に比較した臨床試験が必要なことである」
と米国がん協会はコメントしている。

2009年3月22日日曜日

がん転移の仕組

<米科学誌「キャンサー・セル」(電子版)に2009/3/3>

 慶応大学の河上裕教授と工藤千恵助教らは、がん細胞が転移する際に、免疫の働きを抑えて転移をしやすくしていることを発見した。新しい治療薬開発にもつながる成果。 研究チームはがん細胞で働く「Snail」という遺伝子に注目。この遺伝子が働くと細胞同士がくっつく力が弱まり、がんが転移しやすいことが知られている。マウスでこの遺伝子の働きを調べたところ、免疫反応に必要な細胞の働きを弱めるなど、がん細胞を体内の異物として認識されないようにして免疫から逃れたりしていた。

 この遺伝子が働かないようマウスを操作したところ、がん細胞の転移や増殖が抑えられたほか、免疫反応も活発になったという。

2009年3月18日水曜日

慢性骨髄性白血病に新薬2剤(ニロチニブ、ダサチニブ)

イマチニブ抵抗性の慢性骨髄性白血病(CML)に対する新薬2剤が、2009年3月相次いで発売された。

ニロチニブ(商品名:タシグナ・・・ノバルティスファーマ)は、経口投与可能な新規チロシンキナーゼ阻害剤。
対象疾患はイマチニブ抵抗性の慢性期または移行期の慢性骨髄性白血病。
国内フェーズ2試験では、イマチニブ抵抗性のCML患者の100%で血液学的完全寛解、69%に細胞遺伝学的完全寛解が得られた。

ダサチニブ(商品名:スプリセル・・・ブリストルマイヤーズ)も経口投与製剤で、5種類のチロシンキナーゼ/キナーゼファミリーに対する阻害剤。
対象疾患は慢性期、移行期、急性期のイマチニブ抵抗性慢性骨髄性白血病と
再発または難治性のフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病。

2009年3月14日土曜日

樹状細胞免疫療法

(2009年2月20日 読売新聞)
がんワクチン療法」とは、がんを攻撃対象だとわかるような目印(がん細胞特有のペプチド)や、体外でがんの目印を覚えさせた免疫細胞(樹状細胞)を、ワクチンとして体内に注入し、体内の免疫細胞に、がんを攻撃させようというもの。

 樹状細胞には、がん細胞を食べることで、リンパ球にがんの目印を覚えさせる働きがあるが、元々体内には少ない。そこで、体外で増やして体に戻し、免疫細胞にがんを攻撃させようというのが、樹状細胞療法だ。
 白血球のうちの単球を、患者から採血して取り出し培養。数を増やすだけではなく、がんを攻撃対象として学習させながら育てるのが特徴だ。

 滋賀医大助教の寺本晃治さん(呼吸器外科)は「治療期間中に限れば、約40%の患者でがんの増大を抑えられた」と話す。

 がんの免疫療法は、一部のがんへのインターフェロン治療などを除き、原則保険がきかない。
 樹状細胞療法は、滋賀医大など五つの大学病院で、一部に保険がきく国の先進医療の認可を受けており、患者の自己負担額は約3か月で70万円前後。東大など、病院負担の臨床試験として行っている大学病院もある。患者の自費診療で行っている民間のクリニックでは約3か月で150万~200万円かかる。

◆樹状細胞療法を先進医療 として行っている病院

・福島県立医大(福島市) (電)024・547・1111
・東京女子医大(東京都新宿区) (電)03・3353・8112
・滋賀医大(大津市) (電)077・548・2111
・大阪大(大阪府吹田市) (電)06・6879・5111
・九州大別府先進医療センター(大分県別府市) (電)0977・27・1600

2009年3月12日木曜日

短期・高線量照射

マイアミ大学とフォックスチェイスがんセンター(ペンシルバニア)の研究によると、
前立腺癌のα/β比(癌種ごとに至適線量を決定するパラメータ)は従来考えられているよりもっと高くて、
1回の照射線量を増やすかわりに、照射期間を短縮することを考慮すべきだという。
5週間(2.7Gyx26日=総量70.2Gy・・・生物学的等価線量では84.4Gy)で行う前立腺癌の短期・高線量照射は、
7.5週(2.0Gyx38日=76Gy総量)で行う従来の標準照射と、再発リスクや副作用に大差がないことが判明した。
放射線療法を短期に終えることは、患者にとっても好ましいことで、今後、もっと考慮の余地がある。

2009年3月9日月曜日

フィナステリド(プロペシア)は前立腺がんを予防する

ASCO(米国臨床腫瘍学会)とAUA(米国泌尿器科学会)は、
「前立腺がんの発症リスクを減らすため、フィナステリドの使用を主治医と相談することを勧める」
という内容を、新しいガイドラインに盛り込むことを決定。
ASCOはこれらの薬剤の服用に関する、リスクとベネフィットについて、図表を用いた説明書(意思決定ツール)を発表した。
ガイドラインの全容は、3月発行の学会誌(Journal of Clinical Oncology/ The Journal of Urology)に掲載予定。

注:フィナステリドは、5αリダクターゼの活動を阻害する男性型脱毛症(AGA)治療薬の成分のひとつで、
本来は前立腺肥大の治療および緩和に使用されている薬として、
米国メルク社から「プロスカー」という商標名で発売されていたが、
AGAの治療薬としての効果に注目があつまり、世界50カ国で発売中。
日本では、飲む育毛剤「プロペシア」という商品名で万有製薬から発売中。

ホットフラッシュを防ぐ

■ガバペンチン
シカゴで行われた2007年ASCO年次総会での報告によると、前立腺癌のホルモン治療を受けている200人以上の男性で行われた臨床試験で、ガバペンチン〔gabapentin〕(Neurontin®:日本商品名ガバペン)900mg/日の投与 によって、ホットフラッシュの頻度や症状が、ともに約45%改善した。
有害事象としては、食欲低下と便秘の増加が見られた。

抗けいれん剤であるガバペンチンは、すでに乳癌女性患者のほてりの治療薬として部分的に有効であることを示しており、前立腺がんへの適用についても有意義であることが実証された。

「われわれ研究チームは、ガバペンチン900mg/日の用量は前立腺癌の男性患者に対するホルモン療法に関連して生じるほてりを中等度に減少させることに強い確信を持っています」とASCO年次総会の研究結果の発表でLoprinzi医師は結論している。

■SNRI
2009年第97回日本泌尿器科学会のパネルディスカッション、千葉大の今本敬氏の発表によると、ホットフラッシュには、
抗うつ剤の一種セロトニンノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)の50mg/日の投与が有効であり、
また間欠内分泌療法(IAS)を行った患者のQOLでは性機能と社会・家族関係で有意な改善が認められることが分かった。

2009年3月7日土曜日

BNCT(ホウ素中性子補足療法)

中性子線を使ってがんを叩く「ホウ素中性子補足療法(BNCT)」が、今、注目されている。
がん細胞が取り込みやすいホウ素化合物をあらかじめ投与しておき、そこに中性子線を照射すると、中性子とホウ素が微小核反応を起こし、がん細胞のDNAを切断破壊するが、ホウ素を集積しない正常細胞を傷つけることはない。
BNCTは、がん細胞だけを狙い打ちできる次世代の放射線治療とも言われ、治療の難しい脳腫瘍や口腔がんに効果的なことがわかってきた。
まだ臨床試験段階だが、すでに400例を超える実施例がある。

ただ、これまでは、中性子線を発生されるためには原子炉が必要で、京大原子炉や日本原子力研究開発機構の研究炉など、研究施設が限定されていたが、このたび中性子を照射できる小型加速器(約3m四方)が、京大原子炉実験所の小野公二教授と住友重機械工業の手により開発された。
ホウ素も大阪府立大の切畑光統教授とステラファーマにより、より安定性の高い薬剤が開発されている。

今後は、原子炉などの大げさな装置が不要となったこともあり、大学病院への設置も視野に、研究に弾みがかかる見通し。
ただ、中性子を扱える専門家が少ないことが問題で、これをもっと普及させるためには、今後の人材育成も欠かせない。

2009年3月6日金曜日

ピコプラチン(picoplatin)

新規白金系抗癌剤であるpicoplatinとドセタキセル、プレドニゾンの併用が転移性ホルモン療法抵抗性前立腺癌のファーストライン療法となる可能性が明らかとなった。フェーズ2試験の結果、文献的な評価で既存の治療法と比べて、RECISTによる奏効率は同等で、PSA奏効率が上回り、PSA値増悪までの期間が長いという。成果は、2月26日から28日に米国オーランドで開催された2009 Genitourinary Cancers Symposium(ASCO GU)で米Poniard Pharmaceuticals社のR.Earhart氏によって発表された。

これも前立腺がんの新しいマーカー?

前立腺癌の悪性度と関連するメッセンジャーRNA(mRNA)を尿中から検出する遺伝子検査キットのプロトタイプが開発された。TMPRSS2(T2)遺伝子と癌原性転写因子ERGの遺伝子のmRNAが融合した「T2:ERG」の量をTMA法という遺伝子増幅法で検出するもの。T2:ERGは前立腺癌の組織に特異的に存在し、前立腺癌の約半数に確認されるという。アンドロゲンによる癌遺伝子の発現調節に関与していると考えられている。3施設で行われた評価で、85%という高い特異性を示し、癌の悪性度とT2:ERGの量が相関性を示した。成果は2月26日から28日に米国オーランドで開催された2009 Genitourinary Cancers Symposium(ASCO GU)で米Gen-Probe社のJ.Groskopf氏によって発表された。