2018年3月17日土曜日

「GS9~10」高リスク前立腺がんのベスト治療法は?

米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のAmar U. Kishan氏らの研究グループは、米国11ヵ所、ノルウェー1ヵ所の3次医療センターで、2000~13年に治療を受けたグリソンスコア(GS)9~10の高リスク前立腺がん患者1,809例を対象に、以下の3種類の治療法を比較した後ろ向きコホート試験の結果を発表した。
(JAMA誌2018年3月6日号)

①全摘手術:639例
②外照射+ホルモン療法:436例
③外照射+小線源+ ホルモン療法(トリモダリティ):734例

          ①全摘手術   ②外照射+ホルモン療法  ③トリモダリティ
5年特異的死亡率  12%(8~17%)   13%(8~19%)      3%(1~5%)
5年遠隔転移発生率 24%(19~30%)  24%(20~28%)   8%(5~11%)
7.5年全死亡率     17%(11~23%)  18%(14~24%)  10%(7~13%)
          *(  )内は95%信頼区間を示す

③トリモダリティは、①全摘手術  ②外照射+ホルモン療法 に比べ、死亡リスクと
 遠隔転移の発生率を有意に抑制することが示された。
①全摘手術 と ②外照射+ホルモン療法 の比較では、いずれも有意差はなかった。

                   *

高リスクの前立腺がんの場合は、全摘手術より放射線治療(外照射or小線源-外照射)のほうが、「再発率」ではかなり優位であることは分かっていましたが、死亡率ではいずれも大差がないと言われていました。
ゆえに、「どの治療法でも同じようなものだから好きなのを選んで」という、あなたまかせの無責任医師も多かったと思うのですが、今後は、それが言いにくくなので、患者としては有難い研究発表だと思っています。
実感がようやくエビデンスのあるデータとして形になってきたということでしょう。

しかし、日本では ③トリモダリティ(外照射+小線源+ ホルモン療法) をやっている施設はかなり少なく、泌尿器科の医師には、このような治療法が存在することすら知らない医師も珍しくありません。
もし、再発率のデータ分析がなされておれば、もっと明白な差が出たはずなのに、少し残念です。
外照射の治療成績が、手術と大差のないような結果となっていますが、これについて若干補足をしておきます。
外照射のデータは2000年~2013年までの症例が集められていますが、日本でIMRT(強度変調放射線治療)が保険適用となったのは2010年であり、この期間であればIMRT以外の古い照射方式のものが主流を締めていると思われます。
外照射の進歩は目覚ましく、今はIMRTのほうが多くなり、特にこの調査対象期間以降は、画像誘導を伴う、高精度かつ高線量のIMRTが普及してきているのが現状です。
近年のこうした放射線療法に的を絞って比較をすれば、手術と同等はありえないと思っているのですが、それらの結果が統計的に有意な数値として表れるのは、少なくともまだ5年ほど待たねばならないでしょう。
外照射の成績は、今後さらに良くなり、手術との比較でももっと明瞭な差がついてくると思われます。

2018年3月5日月曜日

MRIで不要な生検を減らす

前立腺がんの診断は、ランダム穿刺型の生検によってあらゆるがんの早期発見を目指す時代から、「治療が必要ながん」を検出し、過剰な生検を減らす時代へ移行してきている。
これを可能としたのがMP(マルチパラメトリック)-MRI(*)の登場である。
*:MP-MRIとは,従来から用いられてきた形態画像としてのT2強調画像に、2種類以上の機能画像を
 組み合わせた診断法で、例えば、造影剤を用いて病巣の灌流を評価する造影ダイナミックと、
 水の拡散現象を画像化する拡散強調画像(DWI)がある。
 拡散強調画像は,腫瘍検出のみならず,腫瘍悪性度の評価にも有用である。
 MP-MRIの有用性は,腫瘍検出・局在診断,悪性度の評価に加え,病期診断,治療効果判定,再発診断や
 予後予測と多岐にわたり、得られる診断情報は前立腺癌の治療法決定において極めて重要となっている。
従来は、生検の結果、必要に応じて画像検査という流れが標準であったが、
近年は、生検の前にMP-MRIを実施し、要生検症例を選別(トリアージ)できるようになってきた。

University College Londonを中心に行われた多施設前向きの「PROMIS試験」では、前立腺がんの疑いがある男性に対して、MP-MRIの施行により前立腺生検の必要な症例を選別することにより、不要な生検を減らすと共に、「治療が不要」な微小低悪性度がんの検出を減らし、かつ「治療が必要」ながんの検出と質的診断が向上しうることを報告している。
MP-MRIと生検の診断精度のみでなく、診断およびその後の治療に伴う有害事象や費用も念頭に置いており、MP-MRIを取り入れた新しい体系は、今後の前立腺がん診療を革新するものとして期待できる。

限局性前立腺がんに対する監視療法と根治療法を比較したランダム化比較試験ProtecTでは、主に低リスクがんから成る患者群において、前立腺がん特異生存率を比較すると、
監視療法と根治療法(根治的切除術、放射線療法)の間に有意な差はないと報告されている。
https://medical-tribune.co.jp/news/2016/0921504771/

本研究では、今後注意を払いたい点として、5mmピッチのグリッドを基準としたマッピング生検では、「グリソンスコア3+4以下かつ最大がん長6mm未満」を「治療が不要」ながんと定義している点である。
標準型生検では、グリソンスコア3+4のがんを得た場合は中間リスクとして通常は治療対象となるものだが、マッピング生検の精度を前立腺全摘の病理に近似すると仮定すると本研究での定義は妥当なものとも思われる。
研究グループもこの点に配慮しており、微小なグリソンスコア3+4を「治療が必要」ながんに含めた場合は、MP-MRIの陰性的中率が低下することをディスカッションやサプリメンタルデータで言及している。