2013年10月7日月曜日

放射線治療と「手術給付金」

がん保険や特約付きの生命保険において、放射線治療を行った場合に「手術給付金」がもらえるのかどうか・・・
実はちょっと微妙な契約内容となっていることが多いようです。
放射線治療が手術と並んで給付対象とされる要件とされるのは、1981年に作成された「疾病・手術に関する全社統一約款」において、「総線量が50Gy以上の照射で、施術の開始日から60日の間に1回の給付を限度とする」という取り決めがなされており、多くの場合、現在でもそのまま用いられているというのが現状です。(運用上、多少の配慮はあるようですが)

問題点は二つあり、その一つ目は「総線量が50Gy以上の照射」に限定していること。
1981年と言えば、放射線治療はがん治療の亜流に過ぎなかったわけですが、その後30年を経過し、放射線治療もその進歩とともに多様化・個別化し、現在では、手術と並んで、がん治療の主流になってきたわけで、照射方法にも様々なものがあり、この規定は実際の臨床常識とは、大きくかけ離れていると言わざるを得ません。
前立腺がんの場合は、たいてい50Gy以上に該当するのですが、白血病や悪性リンパ腫などの治療では、50Gyを下回る照射が普通ですし、生物学的に同等の効果であっても、照射の分割回数によって総線量も変化し、照射回数が少なければ、総線量が50Gyを下回る場合も珍しくありません。
したがって、現在の治療技術と照らして明らかに不合理な「総線量50Gy規定」を廃止し、先の約款の文言から「50グレイ以上の照射で」を自主的に削除する保険会社も出はじめているのが現状です。

もう一つの問題点は、給付申請の期間が短すぎること。「施術の開始日から60日の間に1回の給付を限度とする」となっていますが、放射線治療に要する日数は、前立腺がんの高線量照射では約8週間を要します。治療後一息ついてから、保険の請求を行うとすれば、よほど手際よく準備を進めない限り、いつの間にか60日を過ぎ、すでに給付の期限を超えていたという可能性が高いのではないでしょうか。
放射線治療による給付金の請求を、制度上認めてはいるものの、あえて門を半分閉じたままの状態で据置き、保険会社の出費をなるべく抑えようとしているというのが本音のようです。
治療法の選定にあたって、事前に保険のシステムまで調べておかねば掛け損となるこのような取り決めは、保険の趣旨からすれば明らかに不誠実と言わざるを得ないし、ただでさえ動揺を来たしている患者にとっては辛い現実ですね。

西尾先生(元北海道がんセンター院長)が書かれた記事によると、2008年9月18日付で日本放射線腫瘍学会より生命保険協会に対して、「50Gyの線量規定」の撤廃を文書で要望したということですが、「この支払い基準について討論することは独禁法に違反になるためできない」といういかにも人を食った回答が返ってきただけで、(独禁法の趣旨で言えば、1981年の統一約款こそが問題とされても良さそうですが)保険業界に軽くあしらわれたままになっているとのこと。
http://www.com-info.org/ima/ima_20100922_nishio.html

前立腺がん患者さんから、保険の給付金に関する書き込みが掲示板にあったのをきっかけに、こうしたことを調べ始めましたが、保険の勧誘時にこうした説明を受けることはまずありませんよね。
実は、私も2005年に放射線治療を受けましたが、「手術給付金」はいただいておりません。(^^;

2013年10月2日水曜日

がん登録

全国がん登録法(議員立法)の制定に向け、前立腺がん患者の立場から見た意見書を、パブリックコメント(9/30締切)として提出しておりましたが、どうやら、私が取りまとめ「前立腺がん支援ネットワーク」名で提出させていただいた内容が、検討課題として取り上げられているようです。
「医療介護ニュース」にこのような記事が出ていました。
”全国がん登録、診療所は積極的に届け出を-治療法別「非再発率」求める声も”
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/41005.html

提出したパブコメの内容は以下の通りです。

「がん登録等の推進に関する法律案」に関する“パブリックコメント”

                                  平成25年9月21日
「国会がん患者と家族の会」の皆さま
                                  前立腺がん支援ネットワーク
                                  代表 武内 務
                                  (ひょうごがん患者連絡会事務局長)

がん登録法の制定に賛同すると共に、皆様方の推進へ向けての熱意と活動に、心よりの敬意を表しております。なお可能ならば、以下の3点にもご配慮を賜れば幸いです。

■五大がんに準じたデータ分析が欲しい 【データの活用】
 

 前立腺がんは、男性のがんでは、罹患率は胃がん、肺がん、大腸がんに次いて第4位、近年伸び率も高く、ここ10年以内には1~2位になるのではと予想されています。
死亡率は第6位ですが、現存する患者数では、すでに男性のがんではトップというデータもあります。「五大がん」に前立腺がんが含まれていないというのは、過去、我国ではまだ前立腺がんは少ないと思われていた時代のなごりではないでしょうか。

■病状と治療法に応じた、非再発率データが欲しい 【データの活用】
 

 前立腺がんには、多くの治療法がありますが、5年生存率ではどれも大差はありません。しかし、患者がショックを覚えるのは、まずはがんと告げられた時であり、次には再発を告げられた時です。初回の治療だけでがんから解放されるのと、再発し、治療を継続しつつ生き長らえるのとでは、精神面でも、QOLにおいても大違いです。治療法の選択に当たって、非再発率は重要な指標の一つであると思いますが、現在、患者にはこれが示されておりません。

■地域医療連携に組み込まれる診療所にも院内登録の義務付けを 【登録の義務付け】

 近年、地域医療連携が加速し、前立腺がんにおいても、一次治療後のPSAによる経過観察を診療所が担うケースが増えて来ており、非再発率を知るためには、どうしても診療所の協力が必要です。全ての診療所に、がん登録の義務を負わせるのが現実的でないとすれば、せめて、地域医療連携に組み込まれた診療所だけでも、院内登録に準じた義務を負わせるか、連携先の病院の院内登録に抜かりなく組み込まれるシステムを構築していただきたいものです。
                                                    以上

2013年10月1日火曜日

MRIガイドによる生検

フィリップスエレクトロニクスジャパンは、MRIガイド下で前立腺がんの針生検を行うシステムを2013年11月に発売するという。
MRI画像をリアルタイムで確認しながら生検のシミュレーションを行うことが可能で、病変部を的確に狙ったがん細胞の採取が可能となる。
前立腺がんの生検は、これまでは超音波を使った針生検が一般的だったが、超音波は前立腺がんを描出しづらく、病変部に狙い通りに針を刺すのも困難なため、ランダムに針を数回刺して細胞を採取しなければならなかった。
MRI画像では、病変の位置や悪性度を診断できることから,MRIガイド下生検が従来の生検の弱点を克服できると共に、これまでの生検では前立腺がん細胞が見つからなかった症例に対しても、検出が容易となる。

これまでの生検というのは、確かに原始的でしたね。
痛みに対する配慮もそうですが(これで酷い目に会いました)、精度においてもかなり適当なものでした。
MRIは3テスラを導入している所はまだ多くないので、1.5テスラでもどの程度実用に足るものなのか、気にはなっているのですが、そのあたりの情報はまだ掴めておりません。
こちら(下)の動画(米国)では、MRIとPETで病状を詳しく確認し、MRIとUS(超音波)の合成画像を用いて、リアルタイムで針先を確認しながら生検が行われていますね。
http://www.cancerchannel.jp/posts/2011-02-03/2224.html

我国では、PETの併用と言うのはあまり聞いたことがないのですが、MRIとUS(超音波)の合成はすでに一部で行われているようです。
テンプレートを用いた多個所立体生検をやっているところも徐々に増えつつあるようです。
生検技術の向上が、より低侵襲な治療法の普及に結びつくと考えても良いのではないでしょうか。
前立腺内におけるがん細胞の正確な位置を多個所立体生検で把握し、小線源療法による部分的治療(フォーカルセラピー)を、すでに行っている医療施設もあります。

間欠的ホルモン療法について

ホルモン療法に感受性のある転移、再発がんに対しては、通常持続的ホルモン療法が行われることが多いが、「間欠的ホルモン療法」でも、はたして同等の効果が得られるのか。
2005年に「前立腺癌の間欠的内分泌療法」(赤倉功一郎)が出版されて以来、これまでに、いくつかの研究発表がなされてきた。

2009年
泌尿器の専門雑誌「Urology View」 Vol.7 での報告によると、千葉医療センターのグループが、千葉前立腺研究会の臨床研究を基に次のような結果を発表している。
75ヶ月経過時点のPSA非再燃率は、間欠投与85%に対し、持続投与60%となり、間欠療法のほうが、PSA再燃を遅延させることが判った。

2012年
ASCOでの発表によると、転移がんの前立腺患者約3000人を登録。導入時ホルモン療法(MAB療法7カ月)で、PSAが4以下となったケースの中から、1500人を、持続ホルモン療法群(ADT)と間欠ホルモン療法群(IAD)に、ランダム(約半々)に振分けた。
間欠ホルモン療法では、PSA=20でホルモン療法開始、7カ月以降にPSAが正常化したらホルモン療法を休止し観察に移行する。
結論として、広範転移型では間欠療法が優位となったが、狭小転移型では逆に持続ホルモン療法が優位、総合的には間欠療法の非劣勢は認められないということになった。

2013年
European urology誌のオンライン版、5月に掲載された記事によると、間欠的アンドロゲン除去療法が、従来の持続的アンドロゲン除去療法と比べて劣っていないという分析結果が出た。
4675人の参加者の成績を検証したところ、40カ月から108カ月の追跡で、間欠投与法(IAD群)は従来の持続投与法(ADT群)と、全生存率において同等であることが分かった。QOLはホルモン療法の休止に伴って向上していた。
これは、2012年のASCOでの発表より調査の対象数が多く、信頼性もある。

副作用の軽減に伴う休止期間中のQOLの回復と維持、医療費の軽減(削減)などを考えると、間欠ホルモン療法の魅力は大きい。
適応症例、治療薬剤の選択、投薬(休止)期間の目安、再燃の判定など、判断が難しいことも多いと思われるが、今後は、持続ホルモン療法(ADT)よりも間欠ホルモン療法(IAD)を優先する方向に進むことを期待したい。

2013年8月30日金曜日

陽子線治療の保険適用が争点に

(ウォール・ストリート・ジャーナル8/29 を参照)
http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887323779204579044262457153946.html

米国には陽子線治療施設が11カ所あり、現在計画中の施設はさらにそれを上回るという。
そんな背景の中、米国では最近になって、主要保険会社のうち少なくとも3社が、早期前立腺がんを対象とした陽子線治療を、保険の適用外であるという判断を下した。
ただし、最も影響力のある保険制度、メディケアは、まだ陽子線治療に対する支払いを続けている。

陽子線治療の擁護者は、この治療法はより高い精度で腫瘍に対処するため、副作用は減ると主張し、保険適用から外すという判断は、コストへの過剰な警戒感に基づく短絡的な考え方だと主張している。
一方、この治療法は、小児がんや脳腫瘍、眼腫瘍、膀胱腫瘍、脊髄腫瘍など、比較的まれな腫瘍にも用いられており、こうした利用法においては、波紋はあまり見られていない。

陽子線治療を、IMRTなどの標準的な治療法と比較した場合、陽子線治療のほうが効果が上回るという証拠はそれほど得られておらず、陽子線治療は有効な治療法の一つではあるものの、比較対象となる他の放射線治療に比べて、その費用が高く、コストパフォーマンスという点では大幅に劣ることは間違いない。

我国では、陽子線治療は、現在「先進医療」という扱いを受けており、保険が効かないわけですが、この治療を受けた前立腺がん患者の間では、陽子線治療の保険適用を望む声もあるようです。
でも、これは税金の無駄使いと言われても仕方がないと思っています。
標準治療である他の放射線治療と比べて、その効果や副作用に変わりがなく、うんと高価なわけですから、陽子線治療を選ぶ必然性に乏しいわけで、国民全体の医療費負担を考えても、前立腺がん患者への保健適用は、甘やかしと言われても弁解の余地はありません。このまま「先進医療」という形が続いても、止むを得ないのではないでしょうか。

ただし、がん種によっては、陽子線治療のほうが優れていると思われるものがあることも確かなので、こうしたがん種に対する健康保険の適用の話が持ち上がれば、喜んでご協力したいと考えています。

2013年8月26日月曜日

すい臓がん 早期発見が可能に

(2013/8/26 朝日新聞夕刊より)
罹患率は低くとも、死亡率が高く、早期発見も難しいと言われている膵臓がんですが、「アポリポたんぱく」のうち、アミノ酸の数が異なる2種類の量を血液検査で調べれば、早期の膵臓がんでも92%の精度で発見できることが、国立がん研究センターなどの研究で判明した。この方法と従来の腫瘍マーカーを組み合わせれば、ほぼ完全に膵臓がんの存在を把握できるという。


膵臓がんの5年生存率をおおざっぱに言えば、早期(Ⅰ期)に発見できれば3人に2人が生き残れるが、Ⅲ期だと4人に一人、Ⅳ期だと10人に一人しか生き残ることはできないと言われている。
いかに早く見つけるかが生存率向上の鍵となってくるわけです。

この発表が事実なら、膵臓がんの歴史上、最も画期的な出来事と言えるかもしれません。ただ、これが「膵臓がん検査として有用」と認められるには、「感度」の他に「特異度」も重要であり、この記事に書かれている「精度」とは、おそらく「感度」のことだと思われますが、詳しいことはまだわかっておりません。

2013年8月2日金曜日

カバジタキセル承認申請提出

2013年7月31日、サノフィは新しいタキサン系抗がん剤「カバジタキセル」(静注製剤)の承認申請を提出しました。
ドセタキセル治療歴のある転移性去勢抵抗性前立腺がん患者を対象とするもので、米国FDA(食品医薬品局)では、製品名「Jevtana」として2010年に承認されており、現在、すでに世界80数カ国で使われている薬です。

未承認薬の多かった前立腺がんですが、このところ次々と承認取得に向けての動きが始まっているようですね。^^ 

2013年7月30日火曜日

TAK-700 OSは改善せず

武田薬品により、TAK-700(一般名:orteronel)の国際共同臨床第3相試験の中間解析結果が発表されました。
主要評価項目である全生存期間(OS)においては、改善が見られず、副次評価項目である画像上での無増悪生存期間(rPFS)には、改善が見られたとのこと。
期待されていた薬なだけに、OSで評価されないとなると、やはり残念ですね。
臨床試験は継続されるとのことですが、道は少し険しくなったようで、簡単にはいかないのかも知れません。

2013年7月29日月曜日

アビラテロン承認申請提出

ヤンセンファーマ(株)によって、7月26日、去勢抵抗性の前立腺がん治療薬「アビラテロン酢酸エステル」の承認申請が出されました。
アビラテロン(
Zytiga)は、現在治療ニーズの高まっている去勢抵抗性前立腺がんの治療薬として、
欧米をはじめ世界77か国(2013年6月現在)で承認されている薬剤です。

2013年7月26日金曜日

ドセタキセルの感受性は復活可能!?

前立腺がんの抗がん剤「docetaxel(ドセタキセル)」の効果が薄れてきても、リバビリン(ribavirin)を添加すれば、再びその効果が復活し、抗がん剤に感受性を取り戻すことが可能であるという発表がなされました。
慶応大と産業技術総合研究所の共同研究によるものです。

(慶応大医学部 プレスリリース 2013/7/24)

既存薬をほかの疾患の治療に転用することを「ドラッグ・リポジショニング」と呼んでいますが、リバビリンというのは、本来は、インターフェロン(薬剤)との併用でC型肝炎の治療に用いられている抗ウイルス剤です。
「ドラッグ・リポジショニング」の例は色々ありますが、特に有名なのは、肺動脈性肺高血圧症の治療薬「シルデナフィル」が、「バイアグラ」として勃起不全の治療にも用いられていることです。
既存薬は、すでに安全性の検討は終えており、新薬開発に必要とされる膨大な時間と費用が大幅に削減されるので、この手法が今、製薬業界で注目されているとか。





抗がん剤に耐性を示すのには、多能性幹細胞が関わっており、多能性幹細胞には OCT4 という遺伝子転写因子の高発現が見られます。OCT4 の発現が高い細胞(耐性細胞)と、そうでない細胞(感受性)を分離し、ドセタキセルの効果を比較試験したところ、その違いは明らかであり、このOCTの発現を逆転させ、「抗がん剤耐性」を再び「感受性」に戻す、即ちリプログラミングさせるため、新たに開発されたプログラムで、既存薬の中から候補9種類をピックアップ。実験でこれらを検証、絞り込むことにより、リバビリンが浮上してきたとか。
慶応大では引き続き臨床試験を始めるべく検討を始めているとのことですが、普通は、ここから先が、思いのほか長くて厳しい道のりになるんですよね。

「ドラッグ・リポジショニング」の利点を生かして、なんとか早期に実用に漕ぎつけてもらいたいものです。

詳しくはこちらのプレスリリースをご覧ください。
http://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2013/kr7a4300000ccfyu-att/130724_1.pdf
その要約がマイナビニュースにも書かれています。
http://news.mynavi.jp/news/2013/07/25/174/index.html


2013年7月20日土曜日

前立腺がんの治療情報は患者に届いているか

以下は、ひょうごがん患者連絡会のニューズレター30号(2013年7月発行)への寄稿文です。


前立腺がんの治療情報は患者に届いているか

前立腺がん支援ネットワーク 武内 務

前立腺がん支援サイトを立ち上げる

 前立腺肥大だろうと思いつつ足を運んだ病院で、PSA検査で異常高値が見つかり度肝を抜かれたのは2004年の秋、当時56歳の時でした。がんの一部はすでに前立腺の皮膜を突き破り、セカンドオピニオンでも「もはや手術は手遅れ、5年生存率2割」と告げられました。結局、IMRTという放射線治療に辿り着くわけですが、そのような答えは、一般書店で目に触れるどの本にも書いてなければ、多くの病院のサイトを渡り歩いても、なかなか見つけることが出来なかったのです。
たったこれだけのことを知るのに、なぜこれほどの苦労をしなければいけなかったのか。この怒りにも似た気持ちをバネに、治療後、自分で前立腺がんの解説サイトを立上げることを思い立ちました。

 前立腺がんと告げられた時、本当に欲しいと思う情報がすぐに見つかるサイトを作りたい・・・そう思いつつ躊躇する日々が続いたのですが、ともかく思いきってやってみないことには始まりません。
 前立腺がんの先進国、米国のサイトを参考にしながら形を整え、新たに掲示板を開設し、がん情報にアンテナを張り、加筆修正を加え、
患者さんの相談にも乗りながら、徐々に体裁を整えて行ったのです。

患者(素人)の立ち上げたサイトではありますが、昨年は、複数の専門医のチェックも受け、「腺友ネット」という前立腺がん支援サイトに装いを改めました。 http://pros-can.net/
これまでのサイトを引き継いでいるという遺産もあってのことだと思いますが、それからほぼ1年が経過した今、Googleで「前立腺がん 治療法」で検索すれば、<前立腺がん治療ガイドブック(旧バージョン)>がトップページに、「前立腺がん患者会」で検索すれば、<腺友ネット>がすべてのTOPに表示されます。

アカデミズムの世界とは

前立腺がん患者の支援活動を継続して約8年が経過した今、患者からは見えにくい「アカデミズムの世界」が、少しずつ見えてきました。

   ♪男と女の間には~ 深くて暗い川がある~
   ♪誰も渡れぬ川なれど~ エンヤコラ今夜も舟を出す~

ご存じの方が多いと思いますが、加藤登紀子や長谷川きよしが歌っていた「黒の舟歌」です。
大学という世界では、研究や教育などが全て縦割りとなっており、「隣は何をする人ぞ」ということも決して珍しくありません。
 泌尿器科と放射線治療科というのも、まったく別のアカデミズムの世界であり、お互い多少の交流はあったとしても、基本的にはそれぞれが別のシマであり、両者の間には、この歌に似た「深くて暗い川」が横たわっているのです。
泌尿器科医は、放射線治療のトレンドには関心が薄いし、たとえ知っていても、それを患者に勧めることは稀であり、泌尿器科のシマを飛び越えた情報は、なかなか患者には伝わってこないのです。ハイリスク前立腺がんを例にとれば、私の体験したIMRTが、当時隠されていたトレンド情報であり、ブラキセラピー(外照射+ホルモン療法併用)が、現在それと同様の扱いを受けていると言えるのではないでしょうか。

がん患者の教科書と言われている、国立がん研究センターの「がん情報サービス」にしても、前立腺がんの解説ページに書かれている内容は、まったく泌尿器科のシマ内のことであり、放射線治療の扱いも「深くて暗い川」を隔てて、向う岸をちらりと見やった程度に留まっています。
 前立腺がんの治療法は、これら二つのシマに分散配置されているのですが、患者には、この全貌を大所高所から見渡せる視座が与えられていないので、こうした「深くて暗い川」の存在に気付いたとしても、ほとんどの場合は治療を終えた後のこと・・・覆水盆に返らず、ですね。

セカンドオピニオンを受けるなら

前立腺がんの場合、患者がまず接するのは泌尿器科医。がんと診断されれば告知を受け、詳しい病状や治療法の説明を聞くわけですが、一人の医師からすべての治療法について客観的な説明を聞く事ができるというのは、よほど幸運なケースでしょう。
前立腺がんの治療法は多選択時代を迎えたと言われていますが、これらの治療法のすべてに精通した医師は、現実にはほとんどいないと思われます。

2007年、ASCOという世界的に有名な学会で、前立腺がんの治療法選択に関する研究発表がありました。泌尿器科医のみからインフォームドコンセントを受けた患者は、多くが「手術」を選び、手術の出来ない高齢者では、ホルモン療法を選ぶ人が多かったのですが、次に放射線治療医の見解も併せて聞いた場合では、こんどは年齢にかかわらず、ほとんどの患者が「放射線治療」を選んだというのです。
患者自身は、予備知識のないことが多いので、始めに説明を受けた先生を信頼し、その意見に追随することが多いからでしょう。

前立腺がんのセカンドオピニオンは、ぜひ放射線治療のシマに脚を運ぶべきです。
日本では泌尿器科のシマで手術を受ける人が7割ですが、欧米では逆に、放射線治療のシマで治療を受ける人が7割を占めています。
二つのシマの間に横たわる「深くて暗い川」は、患者自身で飛び越えようとしない限り、対岸の世界を知ることは難しいのです。

手術ならチャンスは2度?

患者が出くわすケースで最も多いのは、泌尿器科医のこういう説明です。
「手術ならたとえ再発しても、また放射線治療を受けるチャンスがあります。でも、放射線治療なら、チャンスは1度しかありません」
これを聞いて「じゃあ、手術に決めた」という患者さんが大勢おられますが、はたしてこれは本当でしょうか?
初回治療で用いられる放射線治療は、ブラキセラピー(単独or外照射併用)かIMRTが多くなってきました。
 しかし、術後再発のあとの放射線治療では、念を押すまでもありませんが、ターゲットとなるべき前立腺はすでにありません。リカバリー照射というは、元々前立腺があったと思われるそのあたりを狙って、さほど強くない(強すぎると正常な組織を傷めます)放射線を当てるだけの治療ですから、成功率はせいぜい50%、切れ味の鋭い初回の放射線治療とはまったく別物だということを、しっかり知っておく必要があるでしょう。
無意識あるいは故意に、高性能照射とリカバリー照射を同一視していることが一番の問題であり、二つ目の問題は、それぞれの治療法の治癒率(PSA非再発率)を示していないことです。手術と放射線治療は同等と思ってくださいという説明も良くなされますが、これは死亡率の比較であって、再発率の比較ではありません。
限局がんで例えると、手術なら2~3割が再発しますが、適切なブラキセラピー(単独or外照射併用)やIMRTでは9割以上、それも低・中リスクに限定すればほぼ全てが再発もしないで治っているのです。
再発の可能性の高い治療を2回受けるか、初回治療の一発勝負で治したいかと問われれば、患者は後者を選ぶに違いありません。
「手術ならチャンスは2度」というのは、まやかしに過ぎません。

新しい治療法

今振り返っても、私が治療を受けたIMRTは当時としては最善の選択であったと思うのですが、現在ならどうするかと聞かれると迷いますね。IMRTは画像誘導や自動制御ではその後も進化が見られますが、照射線量がさほど増えていないのが不安要素です。
 ハイリスクの前立腺がんにおいては、ブラキセラピー(外照射+ホルモン療法併用)の好成績が、ここ数年目立つようになってきました。IMRTを凌駕する線量を、安全に照射することが可能で、一定の浸潤にも対応でき、高い「非再発率」が期待できる一押しの治療法と言えそうです。

粒子線治療が最先端技術のように言われていますが、300万前後の費用がかかるにもかかわらず、ブラキセラピーやIMRTと比較し、治療成績が上回るという報告はありません。重粒子線のようなエネルギーの高い放射線でなければ太刀打ちできないがんもあるので、その必要性は判るのですが、現在、我国では次々とこれらの大型施設の建設が進んでいます。しかも、その患者の多くは、ぜひ粒子線治療が必要だとは思えない前立腺がんの患者です。こうした治療を受けた前立腺がん患者からは、保険適用を望む声もあるようですが、これにより、ますます前立腺がん患者の不必要な囲い込みが強まることには、少し違和感を覚えています。

手術分野で最近注目を浴びているのは、やはりダ・ヴィンチ(ロボット支援手術)でしょう。離れた場所で3次元画像を見ながら、360度回転する腕を細かく操作できるというのは、アトム世代の我々よりも、ガンダム世代の医者のほうが飛びつきやすいのではないでしょうか。腹腔鏡に比べ、操作が覚えやすいとか、患者の出血量も減ったとか言われていますが、前立腺がん手術のほとんどがこれに置き換わった米国では、「ダ・ヴィンチ訴訟」というものが増えており、非再発率も開腹手術と比べても、ほとんど改善されていないということなので、むやみに飛びつくと期待外れに終わることもありそうです。

治療法選択の物差し

前立腺がんの5年生存率は、去勢抵抗性の転移・再発がんを除いて、ほぼ100%に近づいたと言われています。どの治療法を選んでも、すぐに死亡するということはめったになくなり、治療法の選択において、「生存率」という物差しはすでにその意義を失いつつあります。今後注目すべきは「非再発率」という物差しではないでしょうか。がん登録の統計として公表されているのは「死亡率」や「罹患率」ですが、これに「非再発率」も加えていただけるなら、大変ありがたいと思っています。

QOL」というのも良い物差のひとつと言えるでしょう。治療時の身体への負担もそうですが、後で振り返れば、治療時限定のことと言えばほとんど一時的。治療後も継続する、もしくは治療後に出てくる副作用は、下手をすれば一生それを引き摺って生きていかねばなりません。

患者が治療法を選択するにあたっての物差しは、人によって異なります。これまで生きてきた背景が異なるゆえ、むしろそれは当然のことと言えるでしょう。患者が最終的に下した判断は、決して横からとやかく言われる筋合いのものではなく、最大限尊重されねばなりません。
それだけに、患者が治療法を選択するにあたり、公平な情報をどれだけ事前に正しく伝えることができるのか、このあたりが重要なポイントとなりそうです。

前立腺がんにも患者会が欲しい

腺友ネットのアクセスは約150/日、その中の掲示板へは、直接アクセスする人も含めると平均約250/日。すべてが患者ではないものの、患者中心のクラスターの存在は感じられると思うのです。そう思う人も増えて来たせいでしょうか、最近は、前立腺がんの患者会が欲しいとか、患者会を作らないのですかとか、そういった声をよく耳にするようになってきました。
女性のがんで患者数の最も多いのは乳がんであり、患者会の数も多いのですが、男性のがんで最多の患者数である前立腺がんには、未だに患者会が存在しません。(同種治療を受けた院内患者会はいくつかあります)

前立腺がんサイトを立上げた当初は、患者会の設立などということはまったく頭になかったのですが、昨年「腺友ネット」を立ち上げた頃から、前立腺がんにも患者会というものが必要かもしれないと思い始め、ぼんやりと構想を練ったりもしていたのですが、考えれば考えるほど、先が読めずに難しい。むしろ深く考えず、エイヤッと会員の募集を始めてしまったほうが良いのではないかと、近頃はそう思うようになってきました。
具体的に動き出すまでには、もう少し時間がかかりそうですが、いずれそう遠くないうちに前立腺がんの患者会の設立に向けてのスタートを切れればと思っています。

小さく生れて、ゆっくりと、大きく育つことを願いながら。

2013年7月17日水曜日

Xofigo(塩化ラジウム-223)

2013年5月16日、FDA(米国食品医薬品局)は、骨転移を有する(他臓器に転移のない)去勢抵抗性前立腺がんの治療薬として、Xofigo(塩化ラジウム-223)を、予定より3ヵ月前倒しで承認した。治療対象となるのは、テストステロンの産生を抑制する薬物療法や去勢術を受けたことのある前立腺がん患者で、全生存期間が約3ヶ月延長することが確認された。
Xofigoは、アルファ線を放出する放射性医薬品で、骨内のミネラル成分と結合し、骨腫瘍に直接放射線を照射するため、周辺正常組織へのダメージを抑えることができる。
アルファラディンの名称で臨床試験結果をお伝えしていたものと同じ薬剤で、呼称がXofigoと変わたもの。
臨床試験で報告された主な副作用は、悪心、下痢、嘔吐、ならびに、脚、足首、足の腫脹。
血液検査における異常は、赤血球、リンパ球、白血球、血小板、好中球の減少であった。

治療用放射性医薬品としては、すでにメタストロン注(ストロンチウム-89)が、我国でも用いられているが、メタストロン注がベータ線を放出するのに対し、Xofigo(塩化ラジウム-223)はアルファ線を放出する。
ストロンチウムとラジウムは、いずれもカルシウムと似た性格を持つため、骨に集まりやすい。
ラジウムの放出するアルファ線は、ストロンチウムの放出するベータ線に比べて、放射線のエネルギーが数倍高いが、飛程距離はうんと短いため紙1枚でも遮蔽でき、体外に放射線が漏れる心配はない。
放射性ラジウム226 は、1,500年という長い半減期を持っているので、被曝が重要問題となり、取り扱いも困難だが、今回承認された 223 は、数10分という半減期なので、短時間で放射能を失ってしまう。
半減期が50日ほどのストロンチウム89の効果持続期間がほぼ3ヵ月と言われているのに対し、Xofigo がほぼ1ヵ月という理由は、この半減期の違いによるものと思われる。

2013年7月8日月曜日

去勢抵抗性前立腺がんのホルモン療法

薬物的去勢を行う上で、ベースとなるのは、これまではLH-RHアゴニスト(リュープリンorゾラデックス)でしたが、現在は、これに加えて新薬ゴナックスが用いられるようになりました。
効果のほどはこのゴナックスのほうが優れている(特に初期のPSA効果が著しい)という報告もありますが、アゴニストに抵抗性を示した場合、ゴナックス(アンタゴニスト)に代えてみて効果があるかどうかは良く判っていないのが現状のようです。
しかし作用機順は少し異なるので、トライしてみる手はあるかも知れません。


これらと並行して抗男性ホルモン薬が用いられることが多いのですが、カソデックスから始まって、効果がなくなるたびに、オダイン、プロスタールと薬の種類を変えることが多いようです。

(→交替療法)
抗男性ホルモン薬を中止すると、PSAが下がる場合もあります。
(→アンチアンドロゲン除去症候群)


以下の順序は必ずしも決まっているわけではありませんが、これらの薬剤が次々と用いられることが多いと思われます。

・エストラサイト(抗がん剤:ナイトロジェンマスタードと女性ホルモン:エストラジオールの複合薬)
・プロセキソール(女性ホルモン剤)
・タキソテール(抗がん剤、プレドニンと併用で用いることが多い)
・デキサメタゾン(ステロイド)

これらと並行して考えなければならないのが、骨転移への対処です。

これまで多かったのはゾメタですが、近頃はランマークが使われることも増えてきました。
転移個所がすくなければ、放射線治療(外部照射)が有効ですが、多発転移に対しては、メタストロン注(ストロンチウム89)が用いられる場合もあります。
(参考:メタストロン注実施医療機関 http://www.nmp.co.jp/CGI/public/meta/top.cgi)

ここまで全て手をつくしてしまった場合は、新薬の臨床試験を受けるという手も考えられないことはありません。

海外ですでに承認済みであり、日本で治験が行われている薬がいくつかあります。
新規の抗アンドロゲン剤であるエンザルタミド(MDV3100)は、すでに治験を終了し、2013年5月、厚労省に対し承認申請が出されています。
アビラテロン、TAK700などの男性ホルモン阻害剤や、新規抗がん剤であるカバジタキセルで、現在治験が進められています。
これらの薬剤の治験にあったては、泌尿器科学会でも臨床研究推薦文を出して後押しをしてくれています。
シプロイセル-T(プロベンジ)という免疫系の薬も海外では承認済みですが、一部に薬効を疑問視する声もあったり、高額(900万)なこともあり、我国では、積極的に承認を求める声は多くなく、実際にそうした動きも鈍いようですね。

ただ、どこでこうした臨床試験が受けられるということはなかなか難しく、がん情報サービスにも一応関連リンク先情報はあるのですが、患者の閲覧に対する配慮がかけており、なかなかこれらのリンク先を辿るのは大変でしょう。

http://ganjoho.jp/public/dia_tre/clinical_trial/ct03.html
どこかでこうした治験を受けることができないか、主治医に相談を持ちかけるのが手っとり早いかもしれません。
エンザルタミドはおそらくここ1年の間に承認されるだろうと思われます。
前評判の良い薬なので、この薬の承認まで、色々とあの手この手でつないでいければ良いのですが。
                            *

補記:エンザルタミドとアビラテロンは2014年に承認されました。TAK700は開発を断念。
   カバジタキセル(抗がん剤)もドセタキセル(タキソテール)後の薬として承認されています。

2013年7月3日水曜日

術後/サルベージ放射線療法ガイドライン(米国)

米国放射線腫瘍学会(ASTRO)と米国泌尿器科学会(AUA)が、共同で、前立腺全摘除術後の ”術後/サルベージ放射線療法ガイドライン” を作成し、2013年5月7日、その内容が公表されました。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/201305/530396.html

”術後/サルベージ放射線療法ガイドライン” では、次のような臨床的事項について、医師はこれを患者に伝えなければならないとされています。(内いくつかの要約を下に抜粋)

1)全摘術を行った場合、病理検査の結果、当初の診断がより高リスク群に変更される可能性がある。

2)精嚢浸潤や断端陽性、皮膜外浸潤などを有する場合、全摘術に続いて術後放射線療法を追加すれば、PSA再発、局所再発、臨床的進行をきたすリスクが低下する。

3)術後PSA再発をきたした場合、転移リスクの上昇および死亡リスクの上昇に結びつくことがある。

4)PSA再発患者は再度病期診断を検討したほうが良いかもしれない。

5)遠隔転移のない症例に全摘術を行い、PSA再発または局所再発が確認された場合は、サルベージ放射線療法を勧める。

6)PSA再発症例に対するサルベージ放射線療法は、PSAが低値であるほど高い効果が得られる。

7)放射線療法は再発のコントロールには有用だが、排尿、排便、性機能などになんらかの副作用を生じる可能性がある。


我国の場合はどうでしょうか。
手術の前に、これだけの内容の説明を受けることは、まずほとんどないでしょうね。
泌尿器科の医師のコンセンサスが、まだ得られていない内容もありそうです。

2013年6月27日木曜日

放射線療法と併用するアンドロゲン除去療法の期間について

高リスク前立腺癌に対しては、放射線療法とアンドロゲン除去療法の併用が標準治療となっているが、最適と思われるアンドロゲン除去療法の期間は定まっていない。
これを確認するため、放射線療法と併用するアンドロゲン除去療法の施行期間について、36カ月(3年)と18カ月(1年半)の比較試験を行ったところ、2群間に有意差のないことが示された。(ASCO2013発表)

 カナダUniversitairede SherbrookeのAbdenour Nabid氏のグループは、2000年10月から2008年1月までに、放射線療法を行った高リスク前立腺癌患者を対象に、アンドロゲン除去療法の36カ月と18カ月の予後を比較する試験を行ったところ、PSA再発、骨盤内リンパ節転移、全生存期間(OS)のいずれにおいても、2群間に有意差はなく、全生存期間(OS)に関与する因子は、「患者の年齢」と「グリソンスコア7以上」の2つだけだったことが判った。
QOLの違いについては現在評価中とのことだが、アンドロゲン除去療法の短いほうが良いと考えるのが普通だろう。

よって、導き出される結論としては、放射線療法と併用するアンドロゲン除去療法の施行期間は1年半(18カ月)で良いということになるだろう。

エンザルタミド(MDV3100)欧州で承認

 2013年6月24日、欧州において、エンザルタミド(欧米での製品名「XTANDI」、開発名MDV3100)がドセタキセルによる化学療法施行歴を有する転移性去勢抵抗性前立腺癌の効能・効果で承認を取得した。
 欧州での承認取得は、フェーズ3試験(AFFIRM試験)の結果に基づいており、全生存期間を延長することが示されている。 我国でも、今年5月に「前立腺癌」の効能・効果として製造販売承認申請を行っており、このAFFIRM試験と併せて、国内で行ったフェーズ1・2試験に基づいて申請しており、フェーズ1試験は進行性去勢抵抗性前立腺癌患者を、フェーズ2試験ではAFFIRM試験と同様に、ドセタキセル治療歴のある進行性去勢抵抗性前立腺癌患者を対象に行っている。

2013年6月10日月曜日

「前立腺ガン 最善医療のすすめ」(藤野邦夫)書評

藤野邦夫さんの新著「前立腺ガン 最善医療のすすめ」を読んでみました。一部に意見の違いはあるものの、ズバリ言うならこれはお勧めの一冊といえるでしょう。
著者がもし
泌尿器科医であれば、もろもろの事情があって、治療法の良し悪しに関してはなかなかここまではっきり書く事はできないと思います。
翻訳を生業とし、前立腺がん関係の本の翻訳や著作もしてこられ、これまでに培われた専門医との繋がりもあり、なおかつ、ご本人も前立腺がんの体験者という立場であればこそ、ここまで踏み込んだ内容にすることができたのではないでしょうか。
前立腺がんの治療では、粒子線治療(先進医療)やロボット支援手術(昨年から保険適用)が、その華やかさもあって最新治療として注目されることが多いのですが、「最善」の治療方法というものは、案外静かに隠れているもので、この本をじっくり読めば、その答えを見つけることができるでしょう。

まず始めに、普通はなかなか治療がやっかいだと思われる「高リスク」の前立腺がん患者10名の治療例が出てきます。
ほぉ~と驚かれるような事例もあるかも知れません。
かなりのハイリスク症例でも「トリモダリティ」(3つの:tri + 治療法:
modality)すなわち「小線源療法(LDR or HDR)+外部照射+ホルモン療法(長期 or 短期)」が多く用いられていることに注目すべきでしょう。
ただ、ちょっと厳しい目で見ると、その多くはまだ経過年数が不十分な途中経過であって、医学的見地からはかなり不十分なデータと言わざるを得ないわけです。
引用例として弱みが感じられるのは否定できないと思うので、かなり
冷静に読む必要があるとは思うのですが、マスコミ等で取り上げられる事例というのはほとんどがこのレベルのものであり、本書も一般患者向けの読み物としてなら、許容範囲と言えるかも知れません。
我国でのトリモダリティの実績はまだ不十分なものの、小線源療法が日本より早くから始まっている欧米では、高リスク症例に対する「トリモダリティ」はすでに10年以上の実績があり、それらを勘案すると、一定の裏付けがあると判断しても良いのではないでしょうか。
「トリモダリティ」という用語に関しては、まだ認知度が低く、国内における長期的なエビデンスが確立できているとは言い難いものの、小線源療法(単独)、ならびにその進化版である「トリモダリティ」においては、国内医療機関のハイレベルな施設、アメリカでの一般的な水準にようやく追いついてきたというのが、今の我国の現状ではないでしょうか。

小線源療法をやっている施設なら、どこでもこのような「トリモダリティ」が可能なのか・・・
患者としてはこのあたりが気になるわけですが、それにはまだ無理があり、現状ではまだ一部の医療機関に限られると思った方が良さそうです。
外照射と小線源治療のレベルが共に一定の水準に達しており、泌尿器科と放射線治療科の連携も緊密にとれている病院ということになると、なかなか傍からは見つけにくいですよね。
こうした技量を持つ病院をリストアップしてお知らせできればと思うのですが、さてどうなりますか。

「リスク分類」については、私も「前立腺がんガイドブック」 http://pros-can.net/01/01-1.html
などで、かなり早くから(2006年)その考え方に基づいた解説してきました。
6年ぶりに改訂された「前立腺癌ガイドライン2012」でも「リスク分類」の解説がなされるようになりましたが、本書でも「リスク別の治療法」という構成が取られています。
生存率ということばかりを考えると、どの治療法も大きな差がなく、結局その副作用を秤にかけて決めることが多いわけですが、非再発率に焦点を当てると、最善の治療法に辿り着く道筋は、もっと自然に浮かび上がってきます。
ハイリスクの限局がんや局所浸潤がんの治療においては、非再発率を重視すれば、手術(たとえロボットであれ)は明らかに近年の放射線治療に劣り、放射線治療の中においても、超
高線量の得られる「トリモダリティ」は、照射線量に限界のある外部照射を越える可能性を持っているということを、この本を読んで、しっかり知っておく必要があるのではないでしょうか。

見解が私と異なるのは、NCCN(National Comprehensive Cancer Network:米国)を始め、世界的なガイドラインでも、IMRT(強度変調放射線治療)「中・高リスク」の前立腺がんの標準治療と認められているにもかかわらず、この本ではIMRTを「中・高リスク」に適した治療法とは認めていないことです。ハイリスクの症例に、74Gy以下の照射線量しか当てられないようでは、技術レベルにも問題ありと思うのですが、76Gy以上の照射で、時間と共に変わる前立腺の位置変動にも、それにふさわしい制御技術で対応し(IGRT)、非常に好成績をあげている医療機関もあるわけで、私は2005年にIMRT(78Gy)による治療を受けたわけですが、当時としてはこれが最善であったと、今振り返ってもそのように思っています。

わざわざ確認したわけではありませんが、著者はおそらく、IMRTのトップレベルの医療機関における取材が不足していたのではないでしょうか。近年、照射線量という物差しで見れば、「トリモダリティ」がIMRTを追い越した感があるのは否定できませんが、部分的な骨転移やリンパ節転移への対応など、IMRTにしかできない強みもあることは確かなので、ここはもう少し冷静かつ客観的に、「適応あり」とすべきだったと思われます。
IMRTも、信頼できるのは一部(1~2割?)の医療機関かもしれませんが、高リスクでは手術に比べてはるかに好成績を上げています。トリモダリティとて、結局安心してまかせられるのは、小線源療法をやっている医療機関の一部(1割前後?)に過ぎないと思われます。
どんな治療法にもピン~キリがあるわけですが、この本では、小線源治療のピンの立場からIMRTのキリを眺めているだけのように思われて、少し残念な気がしないでもありません。

手術に限れば、熟練者による開腹手術であろうと、今流行りのダ・ヴィンチ手術であろうと、再発率そのものを一定以下にすることは難しく(厚労省研究班によれば限局がんであっても約25%が再発している)、放射線治療の上位施設とその成績を比較した場合、がんの制御率(非再発率)という点において、決定的な差があるということは否定のしようがありません。
前立腺がんにおいては、5年生存率というのはまったく無意味であり、生存率で治療法を選ぶことはほぼ不可能です。非再発率とその後のQOLで治療法を選ぶべきと思われますが、泌尿器科医にとっては、手術の再発率の高いこと(非再発率の低いこと)がどうしてもネックとなってしまいます。これが非再発率の公表は遅遅として進んでいない理由ではないでしょうか。

「たとえ再発してもまだ放射線治療がある」という説明が、泌尿器科医からなされることが多いのですが、放射線によるリカバリー照射は前立腺がない部分に放射線を当てるわけですから、上記の小線源やトリモダリティは不可能だし、結局やや広い範囲に、正常組織を壊さない程度の、やや弱目の放射線(せいぜい64~66Gy)を当てるという中途半端な手しかなく(*注)、初回のIMRTのような切れ味のするどい治療は到底望むことができません。
リカバリー照射と初回の高精度、高線量照射とは、はっきり別物だと思ったほうが良いでしょう。

患者が治療法を選択するにあたって、もっと言えば同じ治療法であってもより良い医療機関や医師を選択するにあたって、こうした情報の開示が欠かせないと思うのですが、なかなかそうのような環境が整っていないことが残念ですね。
 もっと「非再発率」に目を向けて!
 がん治療の基本は一発勝負!
これらを学ぶだけでも、この本の利用価値は十分あるのではないでしょうか。


*注(2016年8月追記)
近年はIMRTを用いて、耐容線量の小さな臓器を避けつつ、前立腺床付近に70Gyを越えるようなリカバリー照射も可能となってきました。(まだ一般的ではありませんですが)

2013年5月25日土曜日

エンザルタミド(MDV3100)承認申請

アステラス製薬は5月24日、経口アンドロゲン受容体阻害薬エンザルタミド(開発コード:MDV3100)について、前立腺癌の効能・効果で厚労省に承認申請を行った。
 同剤は、1日1回投与の経口薬で、テストステロンがアンドロゲン受容体に結合するのを阻害するアンタゴニストとしての作用のほか、アンドロゲン受容体の核内移行とDNA結合、活性化補助因子の動員を抑制する。
 今回の申請の基となったのは、海外で実施したフェーズ3のAFFIRM試験と、国内で実施したフェーズ1・2試験など。AFFIRM試験は、ドセタキセル治療歴のある去勢抵抗性前立腺癌患者(1199例)を対象にしたもので、全生存期間中央値はプラセボ群が13.6カ月だったのに対し、MDV3100群は18.4カ月と有意に延長したことが示されていた。なお、国内フェーズ1・2試験結果については、現時点で未発表。
 そのほか日本では、化学療法前の転移性去勢抵抗性前立腺癌患者を対象にしたフェーズ3試験が進行中だ。
 海外では、米国食品医薬品局(FDA)が2012年9月、ドセタキセルによる化学療法施行歴を有する転移性去勢抵抗性前立腺癌の効能・効果で承認している。また、2013年4月には、欧州医薬品審査庁(EMA)の欧州医薬品委員会(CHMP)が同剤について、ドセタキセルによる化学療法施行歴を有する転移のある去勢抵抗性前立腺癌を対象にした販売承認勧告を採択している。

2013年2月23日土曜日

前立腺がんの治療情報と「がん情報サービス」

胃がんなど、一部のがんではともかく切ることが優先されるし、それが「世界標準」と一致している場合も多い。
誰が見ても、これしかなさそうだ、これがベストだろうといえるなら治療法の選択は簡単だけど、前立腺がんの特徴の一つは、治療法が非常にたくさんあることでしょう。
悩ましいのは確かだけど、これはうれしい悲鳴でもある・・・
治療法を選ぶのは最終的には患者本人ですから、結論は人それぞれ。
人生の歩み方、考えかたも人様々ですから、「結果」は尊重されねばなりません。
ただ、ちょっと気になってるのは、最終的な結論を出す前に、それを判断する十分な医療情報が患者にちゃんと届いているかどうかですね。
前立腺がんにおいては日本では手術が7割を占めるけれど、世界では放射線治療が7割を占めている。
世界の主流は放射線だということを、皆さんはお医者さんから説明を受けたでしょうか?

「泌尿器科医」ご自身は、たぶん、公平に話をしておられるつもりなんでしょうけど、彼らもやはり手術を重視する我国の伝統的な医療社会で育ってきているわけです。
多忙な中で、得意分野以外の事も新しい情報をきちんと把握し、それを噛みくださいて、患者に公平に説明できるお医者さんと言うのは、そうたくさんおられるわけではないんですよね。
医療機関によっても、その考え方に大きな違いがあるのが特徴ですね。
手術が9割以上を占めている病院もあれば、放射線治療がほとんどを占める病院もある。
役割分担という連携システムがあれば別だが、そうでなければ、こういう病院では、患者の選択以前に、ほとんど治療法が先に決まっているようなもの。
セカンドオピニンオンというのが必要なわけはこのへんにもあると思うし、こういう特徴を知らないまま、こうした施設でセカンドオピニオンを受けると大きな「誘導」が働いてしまいそうで、お勧めはしかねますね。

ならば世界標準の放射線治療が良いかと言えば、一概にそうとも言えない。
基本的には、照射線量が多いほど再発率が下がるんですが、どの病院がどの方式の照射法が得意で何グレイの線量を当てているのか、私達にはなかなか伝わってこない。
IMRTや粒子線などは狙いを絞りやすいのが特徴だけど、照射がいくら正確でもターゲットの位置は移動するので、患者の固定や管理法、照射誤差に対するマージンの設定法、画像誘導や動体追随法の導入など様々なノウハウが必要となる。
小線源療法は前立腺そのもに埋め込むわけだから、前立腺の位置変動には追随できるが、埋め込み時の線源のズレや、前立腺のある程度の変形は避けられない。リアルタイムで照射線量を把握、再計算したり、外照射併用でさらに照射線量を上げ、中・高リスクでも安心して対応できる医療機関はまだそれほど多くはない。
要は、放射線療法もかなり上手・下手があり、どこを選ぶかが大切になってくる。
治療法の選択に際し、決断は自分で下さなければならないけれど、それを判断するにはどうしてもこれらのデータが必要となってきます。
治療法毎、医療機関毎、リスク分類毎の非再発データというのは、本来公開されてしかるべきものだと思うのですが、我々はそれをなかなか入手できません。
前立腺がんの場合、たとえ大雑把であろうと、ここ10年の治療法の変遷と、日米の違いをしるだけでも、判断材料が大幅に増えるし、それを調べる時間が待てないほど切羽詰まったケースはまずないはずです。
納得のいく詳細な情報がうまく入手できるかどうかはともかくとして、「先生におまかせします」だけはやめた方が良いと思います。
「手術」を勧められても、その場で「即答」はしないほうが賢明でしょう。地方の中小病院であればなおさらだと思うのですが、手術以外の治療法に詳しくない泌尿器科医もめずらしくないということは、知っておいて損はないと思います。

本来こうした情報はすべて公開されるべきで、現状としてはまず国立がん研究センターの「がん情報サービス」に集約されてしかるべきだと思うのですが、実際は何年も前の情報が更新されないまま色あせた状態になったままだし、詳しい説明やこうしたデータはまずどこにも見当たらない・・・
「がん情報サービス」そのものが、多くの専門医の英知を集約した、患者の為の、真剣かつ公平な情報提供システムとは、今の状態ではとても思えませんね。
もう少し、なんとかならないものかと常々思ってるしだいです。
国立がん研究センター中央病院そのものが、手術が7割を占め、伝統重視の体質のように思うので、本来なら組織的にも独立した第三者機関(それぞれの学会・多くのがんセンター・さらには患者も交えての)によるがん情報の提供が望ましいと思うのですが、だれもこういうことを大きな声で言う人はいませんね。
これってはたして前立腺がんだけの特殊な問題なんでしょうか?(他のがんでもこうした問題がありそうに思うのですが)
がん医療情報というのは古くなるとほとんど「間違い」に等しくなりますから、せめて、こまめに更新するという努力だけでも怠らないでいてほしいものです。