2010年4月24日土曜日

期待されている新薬の色々

■デノスマブ(denosumab)
デノスマブ(denosumab)はゾレドロン酸(ゾメタ)より優れており、転移性前立腺癌患者の骨関連事象(合併症)の出現を遅らせる効果があるという報告が、2010年6月のASCO(米国臨床腫瘍学会)でなされる予定。


■MDV3100
MDV3100は第二世代の経口抗アンドロゲン剤
カソデックスよりも優れた抑制作用を示し、カソデックス抵抗性癌にも効果が見られる。
現在、ドセタキセル(タキソテール)の治療歴を有するホルモン非感受性前立腺癌患者を対象とした、国際第Ⅲ相臨床試験が行われている。


■デガレリクス
2008年末にFDAが承認し、欧米ではすでに用いられている。
LH-RHアナログ剤(リュープリン、ゾラデックス等)に対し、これはLH-RHアンタゴニスト。
フレアアップ現象(テストステロンの一時的な上昇)を来さない。

■プロベンジ
前立腺がん治療用ワクチン。
ホルモン不応答性前立腺がん患者を対象としたフェーズ3試験では全生存期間の延長が判明。
諮問委員会は17対0で薬の安全性を認め、13対4で効用を認定したが、FDAでは承認されず物議をかもす。
再審査で承認の可能性も?

■アビラテロン
性ホルモンの合成に関与する酵素「CYP17」を選択的に阻害し、精巣や副腎でのテストステロンの産生を抑える新薬。
ホルモン耐性の転移性前立腺癌で、ドセタキセルベースの化学療法が無効となった患者を対象に、フェーズ3(第3相)試験を開始している。試験終了は2011年の予定。

■カバジタキセル
新しいタキサン系抗癌剤。
進行前立腺癌の患者にとってはドセタキセルが最後の砦ではなく、Cabazitaxelによって生存期間を延長できることが第Ⅲ相治験で示された。FDAが承認審査中。・・・・・→ FDAの承認が降りました!
   http://higepapa.blogspot.com/2010/07/jevtana.html

■セディラニブ
VEGFRチロシンキナーゼ阻害剤cediranib(AZD2171)が、すでにドセタキセル投与を受けた去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に有効かつ安全であることが第Ⅱ相試験で認められた。

■ピコプラチン&ドセタキセル&プレドニゾン
去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)の治療として、この3剤の組合せが良好で、安全性も高いことが第Ⅱ相試験で示された。

2010年4月13日火曜日

前立腺癌のTNM分類

【原発腫瘍(T)】
・TX:原発腫瘍の評価が不可能

・T0:原発腫瘍を認めない

・T1:臨床的に不顕性であり、かつ触診によっても画像によっても腫瘍が認められない
 - T1a:偶然に検出された腫瘍で切除組織の5%以下
 - T1b:偶然に検出された腫瘍で切除組織の5%を超える
 - T1c:針生検で腫瘍が同定される(例えば、PSA値の上昇により)

・T2:腫瘍が前立腺内に限局している*
 - T2a:腫瘍の浸潤が1葉の50%以下
 - T2b:腫瘍が1葉の50%を超えて拡がるが、両葉には及んでいない
 - T2c:腫瘍が両葉に及んでいる

・T3:腫瘍が前立腺被膜の外に進展している**
 - T3a:被膜の外へ拡大(片側であるか両側であるかを問わない)
 - T3b:腫瘍が精嚢(左右またはそのいずれか)へ浸潤

・T4:腫瘍が固着しているか、精嚢以外の隣接臓器への浸潤:
   膀胱頸部、外括約筋、直腸、挙筋、および/または骨盤壁

*[注: 針生検により腫瘍が片葉または両葉に認められても、触知されず
   画像によっても確実には認められないものはT1cに分類する]

**[注: 前立腺尖部または前立腺被膜への浸潤(ただし被膜を越えない)は、T3ではなくT2に分類する]

【所属リンパ節(N)】
 所属リンパ節は小骨盤リンパ節であり、本質的には総腸骨動脈分岐部以下の骨盤リンパ節である。
この所属リンパ節には以下のグループがある(N分類では左右の別を問わない):
 骨盤リンパ節(他に特定されない[NOS])、
 下腹部リンパ節、閉鎖リンパ節、
 腸骨リンパ節(すなわち、内腸骨、外腸骨、NOS)、
 および仙骨リンパ節(外側仙骨、仙骨前、岬角[例えば、Gerota's]、NOS)。

 遠隔リンパ節とは、小骨盤の範囲にないものをいう。
これらは、超音波法、CT、MRIまたはリンパ管造影法により画像を得ることができ、以下のものがある:
 動脈リンパ節(傍大動脈、大動脈周囲、または腰部)、
 総腸骨リンパ節、鼠径リンパ節(深層)、
 浅鼠径(大腿)リンパ節、鎖骨上窩リンパ節、
 頸部リンパ節、斜角筋前リンパ節および(NOS)後腹膜腔リンパ節。

 腫大したリンパ節は、時に画像検出できるが、PSAスクリーニングと関連した病期シフトにより、
リンパ節病変を有することが分かる患者がきわめて少数であり、そして画像検査上の偽陽性および偽陰性がよくみられる。
個々の患者のリンパ節転移のリスクを決定するには画像の代わりに、リスク表が一般に使用される。
遠隔リンパ節転移は、M1aに分類される。
 - NX:所属リンパ節が評価されなかった
 - N0:所属リンパ節に転移を認めない
 - N1:所属リンパ節に転移を認める

【遠隔転移 (M)】*
・MX:遠隔転移の評価が不可能(いかなる手法によっても評価できない)

・M0:遠隔転移を認めない

・M1:遠隔転移あり
 - M1a:所属リンパ節以外
 - M1b:骨
 - M1c:骨転移を伴う、または伴わないその他の部位

*[注: 2部位以上に転移が認められれば、最も進行した分類(pM1c)を用いる。]

【病理組織学的分化度 (G)】
・GX:分化の程度の評価が不可能

・G1:高分化 (軽度異型性)(Gleason 2-4)

・G2:中分化 (中等度異型性)(Gleason 5-6)

・G3-4:低分化または未分化 (高度異型性)(Gleason 7-10)

注)現在の分類法では、4以下のグリソンスコアは事実上存在しない。
 5~6: 高分化がん(5も珍しい)
 7 :  中分化がん
 8~9: 低分化がん

監視療法(active surveillance)

 NCI キャンサーブレティン2010年1月12日号(Volume 7 / Number 1) -米国国立癌研究所発行より
 http://www.cancerit.jp/recommendation_file_pdf/Cancer_Bulletin_PDF/100112.pdf

前立腺癌の治療において監視療法(activesurveillance)を普及させるためのこれまでで最も明確な要請が、NCCN(National Comprehensive CancerNetwork:全米癌総合ネットワーク)のガイドラインで示された。
改訂されたNCCNのガイドラインは、生命を脅かす病気へと進行する危険性が低い前立腺癌患者に監視療法を提供することを医師に求めている。

監視療法は、以前には「待機療法(watchfulwaiting, expectant management)」と呼ばれていたが、前立腺癌の診断後すぐに治療せずに、定期的な検査や診察を行って病状を綿密に観察することである。
監視療法にはPSA検査、直腸診(DRE)の他、前立腺生検を含めることができる。
もし、腫瘍の著明な増大、PSA 値の急激な上昇、生検における悪性度の上昇など病状が進行している徴候がい
ずれかの時点で認められた時は、手術や放射線療法などの根治的治療(definitive treatment)が行われる。

「前立腺癌治療委員会は前立腺癌の過剰診断や過剰治療を危惧しています」と委員会の議長でロズウェル
パーク癌研究所のDr.James L. Mohler 氏は説明した。昨年発表された前立腺癌検診についての2 つの
大規模臨床試験の結果、発見されなければ問題とならなかったであろう癌に対して重大な過剰診断と過剰
治療があったことが明らかになり、改訂を進める原動力になったと同氏は述べた。
「自分に前立腺癌があるとわかったほとんどの男性は何を望むでしょうか?彼らは癌がなくなることを望みま
す」とMohler 氏は言う。「あまりにも多くの男性が治療の副作用に苦しんでおり、治療にかかる費用は社
会が負担しています。そして、それらのうちあまりに多くの治療が不必要なのです」。

改訂されたガイドライン(無料登録で利用可能)によると、監視療法は期待される余命が10 年未満の低リス
ク前立腺癌の男性に推奨されるべきである。低リスク癌とはPSA 値が比較的低く、腫瘍が小さく前立腺の
片側に限局し、グリーソンスコアが低い低悪性度のものをいう(表を参照)。
また、ガイドラインは臨床的に問題にならない前立腺に対して超低リスクという新しい分類を定めた。期待される余命が20 年以下でこのカテゴリーに分類される男性の好ましい管理手段として監視療法の提案のみを推奨している。


低リスク◇(期待余命・10年未満に適応)
◇適応
・癌ステージ:T1-T2a
・癌悪性度:グリーソンスコア2-6
・PSA 値:<10 ng/mL
◇必要な検査
・6 カ月に1 回 PSA 検査
・12 カ月に1 回 直腸診

超低リスク(期待余命・20年未満に適応)
◇適応(低リスク条件のすべてと次の条件を満たす場合)
・生検陽性コア<3 か所、各コアの癌細胞≦50%
◇必要な検査(低リスクの場合に同じ)


監視療法は適した患者には明確な利益があるが、この治療方法を選ぶ過程や決定は容易なことではないと、ガイドライン委員会は指摘した。頻回の診察や検査が必要であることに加えて、病気の全過程を考えると、癌が進行していないか注意して見守っていくということは、ついには癌が進行し、治癒の見込みが少なく重大な副作用のリスクがある治療をしなければならなくなる可能性があることを意味する。
また、迅速に根治的治療を行うことが現在もまだ根強いことを考慮すると、医師が改訂されたガイドラインに
どのように対処するかも問題である。例えば、2009年1 月にNew England Journal of Medicine 誌に
よって、低リスク前立腺癌の63 歳男性の模擬症例を提示して行われたオンライン投票によると、米国の投
票者(医師が全てではない)のうち約70%が好ましい治療選択として監視療法よりも放射線療法や手術を
選んだ。
この推奨が「治療の傾向を大きく変える」かどうかは不確定であるとGodley 氏は述べた。しかし、「低リスク患者に自ら監視療法を行う医師や、それを施行する病院へ患者を紹介する医師にとっては、行いやすくなる
でしょう」と同氏は付け加えた。

低リスク前立腺癌の治療について、監視療法(activesurveillance)、外科手術、放射線療法などのさまざ
まなアプローチがいずれも同程度の全生存率および再発率になる、との結論が新たな効果比較研究で出
されている。しかし、本研究で用いた経済モデルによると、監視療法は65 歳以上の男性では即時的な治
療と比較して健康上の純利益および質調整生存年(quality-adjusted life years, QALY)が高いという。

2010年4月2日金曜日

ホルモン製剤がホットフラッシュを抑制

進行前立腺癌(がん)治療のゴールド・スタンダードと考えられているアンドロゲン抑制療法によるホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)は、ホルモン製剤の酢酸シプロテロンや酢酸メドロキシプロゲステロンによって最も抑制されることが、新しい研究によって示された。ホットフラッシュは同療法を受けた患者の約80%に認められる。

①非ホルモン製剤のvenlafaxine(※抗うつ薬Effexor:日本国内未承認、102例)、
②ホルモン製剤の酢酸シプロテロン(※日本では販売中止、101例)
③酢酸メドロキシプロゲステロン(108例)

以上3剤を投与比較した研究の結果、3剤ともホットフラッシュを低減したが、ホルモン製剤のほうが全期間を通して有効であった。
「前立腺癌に対してGn-RHアナログ製剤の投与受けている男性では、12週時でのホットフラッシュの治療に②と③がより効果的である。しかし、②は前立腺癌の治療薬として認められおり、その使用はホルモン療法を阻害する可能性がある。このことから、③を標準治療薬にすべきである」
研究結果は、医学誌「Lancet Oncology」オンライン版に12月7日掲載された。

前立腺癌診断ストレスが心血管イベントの増大につながる

前立腺癌の告知を受けた患者では、情動(emotional)ストレスによって心血管イベントおよび自殺のリスクが増大する可能性があることが、スウェーデンの研究で示された。

スウェーデン、カロリンスカ研究所(ストックホルム)のKatja Fall氏らは、1961~2004年に前立腺癌と診断されたスウェーデン人男性16万8,584人のデータを分析。癌の診断後1年以内に、被験者のうち1万126例(6%)に心血管イベントが発現し、136例(0.08%)が自殺した。

1987年までのデータでは、前立腺癌患者ではそうでない男性に比べて、診断後1週間以内に致死的な心血管イベントを発現する可能性が約11倍高く、1年以内に心血管イベントを発現する可能性はほぼ2倍であった。1987年以降、前立腺癌患者の致死的または非致死的な心血管イベントのリスクは、そうでない患者に比べて、診断後1週間以内で約3倍、1年以内ではやや高かった。

今回の研究では、17万人近くの被験者のうち自殺をしたのは136人のみであったが、前立腺癌に関連する自殺の相対リスクは診断後最初の1週間では8.4、1年間で2.6であった。研究結果は、オンライン医学誌「PLoS Medicine」に12月14日掲載された。

ホルモン療法に専門家グループが警告

米国心臓協会(AHA)、米国癌協会(ACS)、米国泌尿器科学会(AUA)の専門家グループが、アンドロゲン除去療法(ADT)によって心臓発作や心臓死のリスクが高まるとの警告を発した。

医学誌「Circulation(循環器)」オンライン版に2月1日掲載された今回の勧告では、ADTが血清リポ蛋白やインスリン感受性、肥満など従来の心血管リスクファクターに悪影響を及ぼすことを示す十分なデータがあるという。
前立腺癌を有する男性患者全体の約3分の1がADTを受けるが、欧州で実施された2件、米国で実施された4件の研究で、心血管障害の発症が増大することが示されているという。

Brawley氏は「PSA値が上昇し始めてはいるものの、癌進行の他の徴候や症状はみられない場合など、一部の症例ではADTを用いるべきかどうかについては議論があった。ADTは治療には有用であるが、慎重に用いるべきである」という。

米テキサス大学泌尿器科教授のArthur Sagalowsky博士も「心臓障害のリスクは、前立腺癌治療で議論が必要な多くの問題の1つとするべきであり、アンドロゲン除去療法の開始を決定する際に、前立腺癌患者に提示する情報内容に追加すべきものである」と述べている。