2013年10月7日月曜日

放射線治療と「手術給付金」

がん保険や特約付きの生命保険において、放射線治療を行った場合に「手術給付金」がもらえるのかどうか・・・
実はちょっと微妙な契約内容となっていることが多いようです。
放射線治療が手術と並んで給付対象とされる要件とされるのは、1981年に作成された「疾病・手術に関する全社統一約款」において、「総線量が50Gy以上の照射で、施術の開始日から60日の間に1回の給付を限度とする」という取り決めがなされており、多くの場合、現在でもそのまま用いられているというのが現状です。(運用上、多少の配慮はあるようですが)

問題点は二つあり、その一つ目は「総線量が50Gy以上の照射」に限定していること。
1981年と言えば、放射線治療はがん治療の亜流に過ぎなかったわけですが、その後30年を経過し、放射線治療もその進歩とともに多様化・個別化し、現在では、手術と並んで、がん治療の主流になってきたわけで、照射方法にも様々なものがあり、この規定は実際の臨床常識とは、大きくかけ離れていると言わざるを得ません。
前立腺がんの場合は、たいてい50Gy以上に該当するのですが、白血病や悪性リンパ腫などの治療では、50Gyを下回る照射が普通ですし、生物学的に同等の効果であっても、照射の分割回数によって総線量も変化し、照射回数が少なければ、総線量が50Gyを下回る場合も珍しくありません。
したがって、現在の治療技術と照らして明らかに不合理な「総線量50Gy規定」を廃止し、先の約款の文言から「50グレイ以上の照射で」を自主的に削除する保険会社も出はじめているのが現状です。

もう一つの問題点は、給付申請の期間が短すぎること。「施術の開始日から60日の間に1回の給付を限度とする」となっていますが、放射線治療に要する日数は、前立腺がんの高線量照射では約8週間を要します。治療後一息ついてから、保険の請求を行うとすれば、よほど手際よく準備を進めない限り、いつの間にか60日を過ぎ、すでに給付の期限を超えていたという可能性が高いのではないでしょうか。
放射線治療による給付金の請求を、制度上認めてはいるものの、あえて門を半分閉じたままの状態で据置き、保険会社の出費をなるべく抑えようとしているというのが本音のようです。
治療法の選定にあたって、事前に保険のシステムまで調べておかねば掛け損となるこのような取り決めは、保険の趣旨からすれば明らかに不誠実と言わざるを得ないし、ただでさえ動揺を来たしている患者にとっては辛い現実ですね。

西尾先生(元北海道がんセンター院長)が書かれた記事によると、2008年9月18日付で日本放射線腫瘍学会より生命保険協会に対して、「50Gyの線量規定」の撤廃を文書で要望したということですが、「この支払い基準について討論することは独禁法に違反になるためできない」といういかにも人を食った回答が返ってきただけで、(独禁法の趣旨で言えば、1981年の統一約款こそが問題とされても良さそうですが)保険業界に軽くあしらわれたままになっているとのこと。
http://www.com-info.org/ima/ima_20100922_nishio.html

前立腺がん患者さんから、保険の給付金に関する書き込みが掲示板にあったのをきっかけに、こうしたことを調べ始めましたが、保険の勧誘時にこうした説明を受けることはまずありませんよね。
実は、私も2005年に放射線治療を受けましたが、「手術給付金」はいただいておりません。(^^;

2013年10月2日水曜日

がん登録

全国がん登録法(議員立法)の制定に向け、前立腺がん患者の立場から見た意見書を、パブリックコメント(9/30締切)として提出しておりましたが、どうやら、私が取りまとめ「前立腺がん支援ネットワーク」名で提出させていただいた内容が、検討課題として取り上げられているようです。
「医療介護ニュース」にこのような記事が出ていました。
”全国がん登録、診療所は積極的に届け出を-治療法別「非再発率」求める声も”
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/41005.html

提出したパブコメの内容は以下の通りです。

「がん登録等の推進に関する法律案」に関する“パブリックコメント”

                                  平成25年9月21日
「国会がん患者と家族の会」の皆さま
                                  前立腺がん支援ネットワーク
                                  代表 武内 務
                                  (ひょうごがん患者連絡会事務局長)

がん登録法の制定に賛同すると共に、皆様方の推進へ向けての熱意と活動に、心よりの敬意を表しております。なお可能ならば、以下の3点にもご配慮を賜れば幸いです。

■五大がんに準じたデータ分析が欲しい 【データの活用】
 

 前立腺がんは、男性のがんでは、罹患率は胃がん、肺がん、大腸がんに次いて第4位、近年伸び率も高く、ここ10年以内には1~2位になるのではと予想されています。
死亡率は第6位ですが、現存する患者数では、すでに男性のがんではトップというデータもあります。「五大がん」に前立腺がんが含まれていないというのは、過去、我国ではまだ前立腺がんは少ないと思われていた時代のなごりではないでしょうか。

■病状と治療法に応じた、非再発率データが欲しい 【データの活用】
 

 前立腺がんには、多くの治療法がありますが、5年生存率ではどれも大差はありません。しかし、患者がショックを覚えるのは、まずはがんと告げられた時であり、次には再発を告げられた時です。初回の治療だけでがんから解放されるのと、再発し、治療を継続しつつ生き長らえるのとでは、精神面でも、QOLにおいても大違いです。治療法の選択に当たって、非再発率は重要な指標の一つであると思いますが、現在、患者にはこれが示されておりません。

■地域医療連携に組み込まれる診療所にも院内登録の義務付けを 【登録の義務付け】

 近年、地域医療連携が加速し、前立腺がんにおいても、一次治療後のPSAによる経過観察を診療所が担うケースが増えて来ており、非再発率を知るためには、どうしても診療所の協力が必要です。全ての診療所に、がん登録の義務を負わせるのが現実的でないとすれば、せめて、地域医療連携に組み込まれた診療所だけでも、院内登録に準じた義務を負わせるか、連携先の病院の院内登録に抜かりなく組み込まれるシステムを構築していただきたいものです。
                                                    以上

2013年10月1日火曜日

MRIガイドによる生検

フィリップスエレクトロニクスジャパンは、MRIガイド下で前立腺がんの針生検を行うシステムを2013年11月に発売するという。
MRI画像をリアルタイムで確認しながら生検のシミュレーションを行うことが可能で、病変部を的確に狙ったがん細胞の採取が可能となる。
前立腺がんの生検は、これまでは超音波を使った針生検が一般的だったが、超音波は前立腺がんを描出しづらく、病変部に狙い通りに針を刺すのも困難なため、ランダムに針を数回刺して細胞を採取しなければならなかった。
MRI画像では、病変の位置や悪性度を診断できることから,MRIガイド下生検が従来の生検の弱点を克服できると共に、これまでの生検では前立腺がん細胞が見つからなかった症例に対しても、検出が容易となる。

これまでの生検というのは、確かに原始的でしたね。
痛みに対する配慮もそうですが(これで酷い目に会いました)、精度においてもかなり適当なものでした。
MRIは3テスラを導入している所はまだ多くないので、1.5テスラでもどの程度実用に足るものなのか、気にはなっているのですが、そのあたりの情報はまだ掴めておりません。
こちら(下)の動画(米国)では、MRIとPETで病状を詳しく確認し、MRIとUS(超音波)の合成画像を用いて、リアルタイムで針先を確認しながら生検が行われていますね。
http://www.cancerchannel.jp/posts/2011-02-03/2224.html

我国では、PETの併用と言うのはあまり聞いたことがないのですが、MRIとUS(超音波)の合成はすでに一部で行われているようです。
テンプレートを用いた多個所立体生検をやっているところも徐々に増えつつあるようです。
生検技術の向上が、より低侵襲な治療法の普及に結びつくと考えても良いのではないでしょうか。
前立腺内におけるがん細胞の正確な位置を多個所立体生検で把握し、小線源療法による部分的治療(フォーカルセラピー)を、すでに行っている医療施設もあります。

間欠的ホルモン療法について

ホルモン療法に感受性のある転移、再発がんに対しては、通常持続的ホルモン療法が行われることが多いが、「間欠的ホルモン療法」でも、はたして同等の効果が得られるのか。
2005年に「前立腺癌の間欠的内分泌療法」(赤倉功一郎)が出版されて以来、これまでに、いくつかの研究発表がなされてきた。

2009年
泌尿器の専門雑誌「Urology View」 Vol.7 での報告によると、千葉医療センターのグループが、千葉前立腺研究会の臨床研究を基に次のような結果を発表している。
75ヶ月経過時点のPSA非再燃率は、間欠投与85%に対し、持続投与60%となり、間欠療法のほうが、PSA再燃を遅延させることが判った。

2012年
ASCOでの発表によると、転移がんの前立腺患者約3000人を登録。導入時ホルモン療法(MAB療法7カ月)で、PSAが4以下となったケースの中から、1500人を、持続ホルモン療法群(ADT)と間欠ホルモン療法群(IAD)に、ランダム(約半々)に振分けた。
間欠ホルモン療法では、PSA=20でホルモン療法開始、7カ月以降にPSAが正常化したらホルモン療法を休止し観察に移行する。
結論として、広範転移型では間欠療法が優位となったが、狭小転移型では逆に持続ホルモン療法が優位、総合的には間欠療法の非劣勢は認められないということになった。

2013年
European urology誌のオンライン版、5月に掲載された記事によると、間欠的アンドロゲン除去療法が、従来の持続的アンドロゲン除去療法と比べて劣っていないという分析結果が出た。
4675人の参加者の成績を検証したところ、40カ月から108カ月の追跡で、間欠投与法(IAD群)は従来の持続投与法(ADT群)と、全生存率において同等であることが分かった。QOLはホルモン療法の休止に伴って向上していた。
これは、2012年のASCOでの発表より調査の対象数が多く、信頼性もある。

副作用の軽減に伴う休止期間中のQOLの回復と維持、医療費の軽減(削減)などを考えると、間欠ホルモン療法の魅力は大きい。
適応症例、治療薬剤の選択、投薬(休止)期間の目安、再燃の判定など、判断が難しいことも多いと思われるが、今後は、持続ホルモン療法(ADT)よりも間欠ホルモン療法(IAD)を優先する方向に進むことを期待したい。