2011年11月19日土曜日

期待される前立腺がん治療薬

■デノスマブ(denosumab)
FDAがホルモン療法を受ける前立腺がん患者の骨量減少予防の適応拡大申請を承認
骨関連事象(合併症)の出現を遅らせる効果はゾレドロン酸(ゾメタ)より優れているという。

■デガレリクス(degarelix)
Gn-RHアンタゴニスト。2008年にFDAが承認
LH-RHアナログ剤(リュープリン、ゾラデックス等)のようなフレアアップ現象(テストステロンの一時的な上昇)を来さない。
前立腺癌のアンドロゲン遮断療法のファーストラインになる可能性。

■アビラテロン(abiraterone)
去勢抵抗性転移性前立腺がんを対象にFDAが承認(2011年)。
「CYP17」を選択的に阻害し、精巣や副腎でのテストステロンの産生を抑える新薬。

■カバジタキセル(cabazitaxel)
新しいタキサン系抗癌剤。
FDAはドセタキセル治療歴のある転移性去勢抵抗性前立腺癌の治療薬として、2010年に承認

■プロベンジ(provenge)
前立腺がん治療用ワクチン。FDAが自己の細胞を用いた免疫療法を承認した(2010年)初めての事例。
臨床試験での全生存期間の延長は4.1カ月。高額(約700万円)。
我国では効果のほどを疑問視する声もあるので、国内での早期承認はなさそうです。

■TAK-700
非ステロイド系の男性ホルモン合成酵素阻害薬。
化学療法が無効で、去勢抵抗性の転移性前立腺癌患者を対象として、フェーズ3臨床試験が進行中。

■MDV3100
MDV3100は第二世代の経口抗アンドロゲン剤
カソデックスよりも優れたPSA抑制作用を示し、カソデックス抵抗性癌にも効果が見られる。
現在、ドセタキセル(タキソテール)の治療歴を有するホルモン非感受性前立腺癌患者を対象とした、国際第Ⅲ相臨床試験が進行中。

■Xofigo(alpharadin)
α線放出核種ラジウム223を用いた放射性医薬品。
フェーズ3臨床試験では全生存期間と骨関連事象(SRE)の発祥までの期間を有意に延長。
去勢抵抗性前立腺癌の治療薬としてFDAがファストトラック指定をしていてが、2013年5月16日、
骨転移を有する去勢抵抗性前立腺がんの治療薬として、FDAにより承認

■カボザンチニブ(cabozantinib)
新規チロシンキナーゼ阻害剤。
前立腺癌以外にも肝臓癌、卵巣癌等で高い腫瘍抑制効果が示され、骨痛に対しても良好な結果がASCO2011で報告されている。
転移性去勢抵抗性前立腺癌患者を対象にフェーズ3試験を2011年末にも実施予定。

■プロストバック(prostvac)
PSAを標的として、牛痘と鶏痘の水疱瘡ウイルスを用いて作られたワクチン。
転移性去勢抵抗性前立腺癌患者を対象とした前立腺癌治療ワクチンでフェーズ3試験が開始予定。
FDAよりファストトラック(優先審査対象)指定を受けている。

PROSTVAC

転移性去勢抵抗性前立腺癌患者を対象とした前立腺癌治療ワクチンPROSTVACのフェーズ3試験が開始される。
米国を含めた世界20カ国以上の約300施設が参加し、転移があるが症状の軽いホルモン抵抗性前立腺がん患者1200人を登録し、全生存期間を比較する予定。
PROSTVACは、PSAを標的として、牛痘と鶏痘の水疱瘡ウイルスを用いて作られたワクチンで、フェーズ2試験では、少ない副作用で生存期間中央値を8.5カ月延長した。
FDAよりファストトラック指定(優先審査対象指定)を受けている。

2011年11月7日月曜日

MDV3100

化学療法歴のある進行前立腺がんの治療薬 MDV3100(経口アンドロゲン受容体拮抗薬:米Medivstion社、アステラス製薬)は、フェーズ3臨床試験の中間解析において、好成績(生存期間の延長)が得られたため、予定を早めて臨床試験を打ち切った。
ドセタキセルを含む化学療法にもかかわらず、進行が止まらないホルモン療法抵抗性前立腺がん患者1199人に対しMDV3100(160mg/日)と偽薬のグループに分けて追跡調査を行った結果(←520人死亡時の中間解析)、全生存期間の中央値は、MDV3100群が18.4カ月、偽薬群が13.6カ月で、MDV3100群に4.8ヵ月の生存期間の延長が認められた。
2012年、FDAに対し承認申請が行われる見通しで、もしMDV3100が商品化されれば、ホルモン療法と化学療法を受けても進行が止まらない前立腺癌患者にとって新たな選択肢になると期待される。
MDV3100は、現在、これより初期の前立腺がんに対する臨床試験も進行中。
(↓参照)
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/201111/522309.html&cnavi=1

光感受性分子標的発熱剤

光を受けると発熱する化学物質を、がん細胞に特有なタンパク質をターゲットとした抗体に結合させた「光感受性分子標的発熱剤」の開発に、米国立保健研究所(NIH)の小林久隆チーフサイエンティストらが成功した。
がんを発生させたマウスにこの薬を注射すると、がん細胞だけに光感受性発熱剤が取り付き、これに近赤外線を照射すると、発熱して、熱エネルギーによってがん細胞の被膜が破壊されがん細胞を死滅させるという。マウスでは8割のがんが消えたとか。

がん特有の抗体を乗り物として、抗がん剤や放射性物質をがん細胞だけでに届ける手法はミサイル療法(ターゲット療法)と言われていますが、これは光に反応する人体に無害の物質を用いて、熱という物理的作用でがん細胞を短時間で破壊するもの。
がん腫によって、もちろんターゲットとなるタンパク質は変わるので、それぞれのがんに応じた「光感受性発熱剤」の開発が必要だと思われますが、特定のがん細胞だけに運ばれて、特定のがん細胞だけを攻撃するドラッグデリバリーシステムの進歩は著しいので、実用化もさほど難しい話ではないでしょう。
光感受性薬を用いた光線力学的療法(PDT)とか、増感剤を用いた放射線療法なども、広い意味ではこれと同類だと思いますが、薬剤を直接がんに届けるミサイル療法と、光・赤外線・X線等の照射との組合せは、テクノロジーとしても面白く、かつ期待できる分野ではないでしょうか。

朝日新聞(2011/11/7)http://www.asahi.com/health/news/TKY201111060396.html

2011年10月30日日曜日

ガイドライン改訂

このたび癌治療学会に参加して、知り得たことの一つに、「前立腺がんのガイドラインが近く改訂される」という情報がありました。
前立腺がんに特有の事情かも知れませんが、欧米で用いられているガイドライン(NCCN)と日本のそれとでは、治療体系(考え方)そのものが大きく食い違っています。
2003年のNCCNガイドライン制定以降、欧米では、ステージ・PSA・グリーソンスコア、三者の組合せにより、リスク分類を決定し、そのリスク分類に応じて治療法を選択するという、「リスク分類優先の治療体系」が採られて来ましたが、日本ではガイドライン制定が2006年であったにもかかわらず、NCCNの考え方が採択されず、「ステージ優先の治療体系」を継続しました。
その後、国内の医療者内部にも徐々にNCCNの考え方が浸透して行きましたが、ガイドラインの改訂はずるずると先送りされ、
(2008年に検診に関するガイドラインが増補されましたが、これは治療法とは無縁です)
その間、先進的な医療者は別としても、裾野を構成する医療者間では、ずっとステージを重視した治療法が採られてきました。
私が前立腺がんを患った2004年頃は、それこそ簡単すぎて何の役にも立たなかった国立がんセンターのHPが、2006年、がん情報サービスへの以降を契機に、その内容が一新されましたが、中身はやはりステージ重視の古い治療体系のままでした。
私が前立腺がんの治療を終えた2005年、「ひげの父さん」の名前で、HP「もしも”前立腺がん”を告げられたなら」
http://hige103.main.jp/soulful-world/guidebook/sheet000.htm
を立上げ、NCCNのガイドラインに基づく「リスク分類優先の治療体系」を紹介してきましたが、
治療法の解説サイトとしては、世界的なエビデンスがあるにも関わらず、国内では「異端」の様相を呈していました。
(「泌尿器科医に読ませたい」とおっしゃってくださった先生もおられましたが)
それが、現在検討中の新しいガイドラインでは、「リスク分類に応じた治療体系」を採用することになるだろうとのこと。
実際のガイドラインを見るまでは、まだまだ安心できないのですが、ガイドラインの内容が変われば、当然、がん情報センターのHPも変わるでしょうし、それに続いて、他のサイトや解説書の記載も変わっていくのでしょうから、やがて私のHPも「異端」からの脱出を果たす日も近いかと思われます。
それはそれでありがたい話ではあるのですが、いかんせん、待つ時間が長すぎます!6年ですよ、6年!
ドラッグ・ラグという言葉がありますが、これは完全にガイドライン・ラグですね。

2011年10月7日金曜日

アルファラディンのフェーズ3臨床試験結果

先にこの”MEMO”の中で、アルファラディン(Alpharadin:塩化ラジウム223)が
フェーズ3臨床試験中であることをお伝えしましたが、
http://higepapa.blogspot.com/2010/06/223alpharadin-asco2010-89-223-89.html
このほど、そのフェーズ3臨床試験の結果が判明しました。
(2011/9/23 EMCC・ストックホルム)

2個以上の骨転移を有する去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)患者922例に対し、
アルファラディンを投与する群と投与しない(プラセボ投与)群に分けて、
比較試験を行ったところ、全生存期間(OS)の中央値は、
プラセボ群が11.2カ月だったのに対してアルファラディン群は14カ月で、
アルファラディン群の方がOSを有意に延長していた。

骨関連事象(SRE)の発祥までの期間も、プラセボ群8.4カ月に対し、
アルファラディン群13.6カ月で、これもアルファラディン群の方が有意に延長していた。

アルファラディンは現在、米食品医薬品局(FDA)から優先承認審査(ファストトラック)の対象として認められているので、認可が下りるのも、さほど遠い話ではなさそうです。
米国で承認されてから、日本で承認されるまでの期間がいつも長くていやになるんですが・・・
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/sp/esmo2011/201109/521698.html&cnavi=1

デノスマブの適応拡大

デノスマブ(denosumab)は、2010年11月、骨転移を有する患者の骨関連事象の予防を目的としてFDAの承認を受けていたが、このたび、骨転移がなくてホルモン療法を受けている前立腺癌患者の骨量減少予防にも、その適応が拡大された。

デノスマブの骨量減少に対する影響を偽薬と比較した無作為化フェーズ3試験で得られた結果に基づくもの。
2年経過時点の腰椎の骨密度を比較したところ、偽薬群に比べデノスマブ群のほうが5.6%高かった。
3年経過時点では、両群間の差は7.9%に拡大しており、脊椎骨折の相対リスク減少は62%になった。

2011年6月7日火曜日

アビラテロン:FDAが承認 (前立腺がんのドラッグラグ)

米食品医薬品局(FDA)は2011年4月28日、前立腺癌治療薬アビラテロンを承認しました。
適応は、ホルモン療法抵抗性の転移性前立腺癌でドセタキセル投与歴を有する患者。
低用量のステロイドと併用されます。

昨年(6月17日)FDAにより承認されたカバジタキセル(Jevtana)に続いて、
ドセタキセル(タキソテール)の次の手がまた一つ増えたわけです。
喜ばしい事ではあるのですが、これは米国の話ですね。
日本ではやはりまだ、ドセタキセル治療にもかかわらず病勢が悪化してしまった患者には、
ほとんど治療の余地が残されていないのが現状です。

前立腺がんの新薬で、米国では使えるのに日本では使えないものが、このほかにもまだいくつかありますが、
「我国でも早く使えるようにしてほしい!」という声は、やはり我々患者からあげるべきできではないでしょうか。
他のがんでマスコミをにぎわしている「ドラッグ・ラグ」問題は前立腺がんにもあるのですから。

T3までの前立腺がんには遅延CAB(MAB)療法が有効

(第99回日本泌尿器科学会2011/4/21 三重J-Cap研究会発表より・・・データの解析がやや判りづらいのですが)
参考サイト:がんナビ http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/201104/519539.html&cnavi=1

注:CAB(Complete Androgen Blockade)療法=MAB(Maximal Androgen Blockade)療法

進行性前立腺癌に対するホルモン治療は、CAB療法が主流となっているが、限局性もしくは局所進行性前立腺がん(T1c─T3aN0M0)に対しては、LH-RHアゴニスト(リュープリンorゾラデックス)単剤で治療を開始し、PSAの上昇に応じて抗アンドロゲン剤(カソデックス)を追加する「遅延CAB療法」が有効である。

LH-RHアゴニストのみでPSAを制御できる可能性や抗アンドロゲン剤による副作用を回避するため、LH-RHアゴニスト投与後、PSAが測定感度以下に低下しないもしくはPSAが再上昇することを確認してから抗アンドロゲン薬を追加投与する遅延-CAB療法の有効性を検討してきた。

対象は2001年1月から2004年12月までに三重J-Cap研究会に登録された前立腺癌患者(640例)のうち、遅延CAB療法が施行されたT1c─T3aN0M0の患者92例。

観察期間中央値は52.8カ月で、導入時平均年齢は76.4歳。開始時のPSAは14ng/mL(3.6~492)。
     T1c T2a T2b T3a            ~6  7   8~10
ステージ 27  39  20 6(例)  グリソンスコア 45  26  21(例)

抗アンドロゲン薬を追加するタイミングは次の通り。
・PSA nadirが0.2より高値である場合
・PSA nadirが0.2以下であるが、PSAが3ポイント連続して0.2を超えた場合

追跡の結果、LH-RHアゴニスト単剤治療で
・PSA nadirが0.2mg/mLより高値である症例は38例
・PSA nadirが0.2mg/mL以下の症例は54例
・5年PSA非再発率は62.4%
・8年PSA非再発率は42.3%

PSA再発を確認した31症例に抗アンドロゲン薬が追加投与され、
・追加後の8年PSA非再発率は60.9%
遅延CAB療法全工程での
・5年PSA非再発率は88.3%
・9年PSA非再発率は74.8%だった。
経過観察中の癌死は1例、他因死は9例で、
・5年癌特異的生存率は98.0%、全生存率は87.5%
・9年癌特異的生存率は98.0%、全生存率は83.5%

PSA再発に関し、遅延CAB療法の維持期間は、
LH-RHアゴニスト単体治療の維持期間(<14カ月)のみが有意な危険因子となる。

LH-RHアゴニスト単剤治療中におけるPSA再発の危険因子は次の3つ。
・グリソンスコア8以上
・PSA nadir 1.4ng/mL以上
・治療開始後のPSA半減期が1.2カ月以上

高リスク群(51例):これらの危険因子を1つ以上有する
低リスク群(41例):危険因子を有しない

PSA非再発率は次の通り
       1年   3年   5年   9年
低リスク群 100%、100%、 95.0%、95.0%
高リスク群 100%、86.1%、 82.6%、58.6%

局所もしくは局所進行性前立腺癌において遅延CAB療法は長期に維持できる症例が多く存在し、遅延CAB療法中にPSA再発の危険因子をモニタリングすることで適切なタイミングで抗アンドロゲン薬追加投与を行うことができる。

2011年6月6日月曜日

全摘除術と監視(待機)療法の比較

参考サイト:がんナビ
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/news/201105/519863.html

なんらかの症状がある早期(限局がん)前立腺癌患者を、
「手術(全摘除術)」と「待機療法」に割り振り、12.8年(中央値)追跡した
ランダム化臨床試験「SPCG-4(Scandinavian Prostate Cancer Group Study 4)」の結果が、
New England Journal of Medicine誌の2011年5月5日号に掲載された。

観察期間:1989年10月~99年2月
地域:スウェーデン、フィンランド、アイスランドの14施設
対象年齢:75歳未満
病期:ステージT2までの限局がん
高分化または中分化がん
PSA値は50ng/mL未満
計695人(平均年齢65歳)

A)手術(347人)
 (根治的切除:294人、局所再発や転移の徴候が見られた場合のみホルモン療法)
・前立腺癌死亡率は14.6%

B)待機療法(348人)に無作為に割り付けた。
 (無治療:302人、排尿障害にはTURT、進行or骨転移が生じた場合にはホルモン療法)
・前立腺癌死亡率は20.7%

つまり前立腺癌死亡率の比較では経過観察より手術の方が有利とのこと。
これをさらに、65歳未満と65歳以上に分けて分析した結果、65歳未満では有意差が見られたが、65歳以上では有意差が見られなかった。

ただし、この試験に登録された患者のほとんどが触知できる腫瘍を有しており、
PSA値の上昇をきっかけに診断に至った患者は5%にとどまることから、
この試験で得られた結果は、PSA値を指標とするスクリーニングで前立腺癌と診断された患者群にそのまま当てはめることは難しいと考えられる。

■補足
PIVOTと呼ばれる米国の大規模ランダム化臨床試験の結果が、2011年5月17日に
American Urological Association (AUA=米国泌尿器科学会)の年次総会で発表されました。
詳細な内容はまだ入手できておりませんが、概要は次の通りです。
追跡調査12年目の時点で、外科手術群と待機療法群の全生存率および前立腺癌特異的生存率は、ほぼ同等であったと言う。
このPIVOT試験では大多数の参加者がPSA検診により前立腺癌と診断された患者であることから、こちらの臨床試験の結果のほうが現在の米国の実情をより正確に反映していると考えられます。
日本においても、PSA値から前立腺がんが見つかることが増えているので、実情は米国と大差はないでしょう。
監視(待機)療法の適応にあたって、NCCNの"very low risk"に準じるなどの配慮があれば、「手術と同等」がより確かなものになりそうです。
副作用を含めて考えるなら、圧倒的に監視(待機)療法が優位となりそうですね。

2011年4月19日火曜日

前立腺がん取扱い規約

泌尿器科の現場ではこの本がかなり重要視されています。

「全国の先生方には、この取扱い規約に準じた同一基準で前立腺癌症例を正しく評価していただき、日本のデータを内外に積極的に発信していただきますことを期待致します。」(日本泌尿器科学会理事長 内藤誠二)
序文のこうした表現からもそれがわかると思います。

昨年までは、取扱い規約の第3版(2001年刊行)が使用されてきたのですが、なにぶん内容が古くて、実情に合わない部分も目立っていました。
このたび(2010年12月)第4版が刊行され、やっと実情に追いついてきたようです。

以前から気になっており指摘もしてきたことに「前立腺がん病期分類」があります。
国立がん研究センター「がん情報サービス」では
・T2a:片葉浸潤
・T2b:両葉浸潤
となっていますが、この根拠が前立腺癌取扱い規約第3版(2001年)であり、さらにその根拠はTNM分類第5版(1997年)ですから相当古いものです。

TNM分類第6版(2002年)以降は
・T2a:片葉の1/2以下
・T2b:片葉の1/2超
・T2c:両葉浸潤
となっており、このたびの取扱い規約第4版でやっと「原則としてTNM分類第7版(2009年)を用いる」
ということが決まりました。
「がん情報サービス」のHPは相変わらず古いままで、改訂されておりませんが・・・

その他、我々患者にも関心が深い改訂点がいくつかあります。

・作成委員会に「日本医学放射線学会」が加わった。(でも「日本放射線腫瘍学会」でないのはなぜ?)
・リスク分類に言及(2001年当時はリスク分類という概念がほとんどなかった)
・ノモグラムに言及(日本版術前ノモグラムも掲載してくれています)
・治療法で「密封小線源療法」「緩和療法」(ストロンチウム、ビスフォスフォネートにも簡単に触れています)
・病理学的分類は分化度(高・中・低分化)分類に代わり、グリーソン分類(ISUP2005)を採用。

10年に一度の改訂では時代遅れになるのもやむをえませんね。
前立腺癌診療ガイドラインも2006年版ですが、これもそろそろ新しいもの、できれば患者向けのものを刊行してもらいたいですね。

2011年3月30日水曜日

カバジタキセル

(がんサポート情報センター:最新がんトピックス:2010/5)
カバジタキセルを開発したUSオンコロジー社の開発担当者は、「ホルモン除去療法が効かない転移性前立腺がんに対して、初めて明らかな有効性が示された試験であり、カバジタキセルは、ホルモン療法が効かなくなった後に、現在使われている化学療法剤の代わりに使われるべき薬剤だ」と、シンポジウムに先立って、記者会見で語った。
TROPIC試験と命名された、カバジタキセルの多国間臨床試験は、ホルモン療法が効かなくなり、進行前立腺がんに対する標準的化学療法剤であるタキソテール(一般名ドセタキセル)による治療を受けても、そのまま病勢が進行した前立腺がん患者755人を対象として実施された。
臨床試験に参加した患者は、〔カバジタキセル+プレドニゾン(一般名)〕投与群か、別の化学療法剤である〔ノバントロン(一般名ミトキサントロン)+プレドニゾン〕投与群に無作為に割りふられた。
観察期間の中央値12.8カ月の時点で、全生存期間中央値は、〔ノバントロン+プレドニゾン〕併用群が12.7カ月であったのに対し、〔カバジタキセル+プレドニゾン〕併用群では15.1カ月。この結果は死亡リスクを30パーセント減少させたことになる。
カバジタキセルはタキソテールと同様に、タキサン系の抗がん剤。タキソテールと同じく、細胞分裂の際に分裂の主体となる微小管の働きを阻害する薬剤でありながら、タキソテール抵抗性のがん細胞に対して効果を示すようにデザインされている。
前立腺がんの細胞は、タキソテールを細胞外に排出することで耐性を示すが、カバジタキセルは細胞外に排出されないため効果をあらわすと考えられている。
全生存期間の延長は、年齢や人種、合併症などの因子に基づいて分類した、サブグループすべてに一貫して現れ、無増悪生存期間や奏効率も、〔ノバントロン+プレドニゾン〕併用群より良かった。
副作用は、カバジタキセルを投与した患者で、発熱を伴う好中球減少症がより多くみられた。
カバジタキセルの投与においては、この毒性を注意深く観察する必要がある。
「2次化学療法でタキサン系の薬剤が使用でき、一定の有効性があり、十分耐え得る副作用であることは有望な結果です」
デューク大学医学部総合がんセンターの医師は、こう述べている。
また、タキソテールによる1次治療の反応が良好な患者では、カバジタキセルによる2次、3次治療でも反応が良い傾向にあり、「つまり、そのような患者にとっては、カバジタキセルによる治療は、1歩前進以上のものになる可能性がある」と、同医師は付け加えた。
がん治療の化学療法の進歩は常に緩やかであるが、今回の試験結果は、2004年に進行前立腺がん治療におけるタキソテールの有効性が示されたことに匹敵する、と同医師は述べてもいる。
カバジタキセルの製造会社である、サノフィ・アベンティス社は、米国食品医薬品局(FDA)に、本剤を、タキソテール耐性の進行前立腺がんに対する2次治療薬として承認申請するとみられており、カバジタキセルは、この適応でFDAの承認を受ける初めての薬剤となる可能性がある。
 →(注)2010年6月17日、FDAは、カバジタキセル(Jevtana)をプレドニゾン(ステロイド剤)との併用で承認!

2011年2月23日水曜日

アビラテロン(第3相臨床試験)が全生存期間を延長

去勢抵抗性の転移性前立腺癌において、アビラテロン(CYP17阻害薬)が、プレドニゾンとの併用で、前立腺特異抗原(PSA)値を半減させ、一部の患者では骨転移の改善も見られたことが、フェーズ2臨床試験の発表(2008/10)で、明らかになっていたが、このたび(2011/2)、国際無作為化二重盲検フェーズ3試験の結果が発表された。
(ASCO GU:米Memorial Sloan-Kettering Cancer CenterのH.I.Scher氏)

ドセタキセルベースの化学療法がうまくいかなかった去勢抵抗性の前立腺癌において、アビラテロンとプレドニゾンの併用は、プラセボとプレドニゾンの併用に比べ、全生存期間を3.9ヵ月延長することが明らかとなった。

アビラテロンは経口で、不可逆的にCYP17を阻害し、精巣、副腎、前立腺におけるテストステロンの産生を押さえ、血清中のアンドロゲンを検出レベル以下に低下させる。

2011年2月21日月曜日

デガレリクスがファーストラインに

(ASCO GU、米Carolna Urologic Research CenterのN.D.Shore氏による発表。)
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/sp/asco_gu2011/201102/518568.html

リュープリンやゾラデックスに代えて、デガレリクスがファーストラインとなる日が近付いている。
GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)アンタゴニスト(阻害剤)であるデガレリクスは、
LH-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)アナログ(促進剤)であるリュープロレリンと比べ、
PSA無増悪生存率において優れており、ホルモン療法のファーストラインとなることを示唆する結果が明らかとなった。

試験では、前立腺がん患者(全ステージ)をデガレリクス群(409人)とリュープロレリン群(201人)に割り付けた。
デガレリクス群は最初の月は240mg、その後毎月80mg(207人)または160mg(202人)を投与された。
リュープロレリン群は月当たり7.5mgが投与された。リュープロレリン群の患者はビカルタミドの投与も受けられることとされた。

その結果、PSA無増悪生存率はデガレリクス240mg/80mg群が、リュープロレリン群よりも有意に高かった(p=0.05)。
PSAが20超の患者でPSAの悪化または死亡が25%の患者で起こる期間の中央値(TTP25%)は、
デガレリクス240mg/80mg群がリュープロレリン群よりも有意に長かった(p=0.01)。

また、リュープロレリンを途中からデガレリクスに変更した場合でも、PSA無増悪生存率は有意に改善した(p=0.003)。
これはPSAが20超の患者でも同様であった。

国内で実施されたフェーズ2試験の結果、デガレリクスは日本人の前立腺癌に対しても有効で、安全に投与できることが明らかとなっている。

間欠療法の生存期間は持続ホルモン療法と変わらない

(ASCO GU:カナダSunnybrook Health Science CentreのLaurence Klotz氏の発表):不完全な要約です。
放射線療法後にPSA再発のあった患者に対し間欠療法を行ったところ、全生存期間は、持続的ホルモン療法を行った患者に引けをとらないということが判った。
これまでは、間欠療法によるQOLの改善は示されていたが、生存期間に対する証明はされていなかった。
調査対象は、放射線療法(初期治療または全摘後の救済治療として)を受け1年以上経過した、PSA=3以上、テストステロン=5nmol/L以上の患者。
間欠療法群、持続療法群、それぞれ700人弱を比較した。
間欠療法では治療休止中にPSAが10を超えた場合は治療を再開、各サイクルで、抗アンドロゲン剤と、
LHRHアゴニストの投与を行った。
臨床的な進行を認めた場合や、治療中止後2カ月以内にPSAが10を超えた場合は持続療法に切り替えた。

間欠療法群が抗アンドロゲン剤の投与を受けた期間は3.5カ月(中央値)、LHRHの投与を受けた期間は15.4カ月(中央値)であった。
持続療法群ではそれぞれ2.9カ月と43.9カ月であった。

全生存期間は間欠療法群8.8カ年、持続療法群9.1年。
去勢抵抗性となるまでの時間は、間欠療法群9.8年、持続療法群10.0年。
7年間の死因別死亡数にも有意差はなかった。
有害事象では、ホットフラッシュが間欠療法群で有意に減少した。

これらの結果から、Klotz氏は「根治的放射線療法を施行後にPSA再発を認めた前立腺の多くの患者に対し、間欠療法群は標準治療であるべきと考える」と述べた。

国内で開発中の前立腺がん治療薬

2011/2 現在
 

2011年2月14日月曜日

2011年2月13日日曜日

NCCNガイドライン日本語版について

NCCNガイドライン日本語版の前立腺がん治療フローチャートですが、
いくつか疑問点があり、今日、先端医療振興財団に問合せメールを入れてみました。
一患者からのメールにお返事がいただけるかどうか・・・
質問は以下の5項目です。

1)超低リスクという概念が2010年より新たに採用されましたが、
PROS1では超低リスク群のステージがT1aとなっており、
PROS2では超低リスク群のステージがT1-T2aとなっています。
原文(V.2.2010)ではT1cとなっておりますが、いずれが正解でしょう?

2)PROS2~4において、「経過観察」という用語と
「モニタリング」という用語が混在していますが、
これらは同じものではありませんか?・・・それとも異なる内容でしょうか?

3)PROS4、5において、PSA値が「検出限界未満」という表現が見られますが、
良く用いられる高感度PSA測定ではかなり小さな値も検出可能ですが、
これはを高感度PSAを前提としているのでしょうか?

4)PROS5において、「その後の2回のPSA測定で、検出限界以上となる」
という訳文がありますが、意味がわかりかねます。
「PSAが検出可能となり、2連続上昇を示す」ということではないでしょうか?

5)PROS8において、「神経内分泌腫瘍ではない」という表現が、
「生検を考慮」からの分岐として、上下2段で用いられていますが、
下段は、「神経内分泌腫瘍」とし、
”ではない”を削除するのが正解ではないでしょうか?

2011年2月9日水曜日

NCCNガイドライン

NCCN前立腺がん治療ガイドライン「フローシート」の日本語版を作成しました。

医療者向けのガイドラインの全文(日本語版)は、すでに先端医療振興財団のHPにアップされていますが、
http://www.tri-kobe.org/nccn/guideline/urological/japanese/prostate.pdf

この「フローシート」は、どちらかと言えば患者向けのガイドラインです。
医療者用ガイドラインをベースとしながらも、意味がわかりにくい所では、適宜患者向けのガイドライン(英語版)を参照し、できるだけ読みやすくしたつもりです。
ただ、ツリー構成で9ページありますから、辿るのが大変。
パラパラとページをめくったぐらいでは、ちょっと判りにくいかもしれません。
もし、興味がありましたら、ダウンロード(下の表紙をクリック)して、じっくり目を通してみてください。


2011年1月27日木曜日

TAK-700

 TAK-700は、非ステロイド系の男性ホルモン合成酵素阻害薬。男性ホルモンの生成に重要な役割をもつ酵素(17,20-リアーゼ)の働きを阻害、精巣および副腎の両方に由来する男性ホルモンの生成を抑制する。

米国で進行性前立腺癌患者を対象としたフェーズ3国際試験が開始された。(2010/11)
ドセタキセルをベースとした化学療法が無効であり、かつ一般的なホルモン療法に抵抗性を示す転移性前立腺癌患者を対象として、プレドニゾンとプラセボ投与群を対照とし、プレドニゾンとTAK-700投与群を比較する。主要評価項目は、全生存期間と無増悪生存期間。
日本も米国よりは遅れるがこの国際試験に参加する予定。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/201011/517374.html&cnavi=1

2011年1月23日日曜日

プロベンジ

2010年4月29日、米国FDAはデンドレオン社が開発した前立腺がん治療ワクチン「プロベンジ」を承認しました。
これは世界で初めて、かつ、他種のがんに先駆けて承認されたがん治療ワクチンです。
FDAに提出された二重盲検臨床治験のデータによれば、プロベンジの投与で生存期間は4.1か月延長されたとのことで、
これは驚異的な数値です。

 プロベンジはホルモン療法抵抗性前立腺がん(HRPC)患者を対象とし、患者の血液から採取した免疫細胞(抗原提示細胞)を、前立腺がんの殆どに発現が見られるPAP蛋白質を加えて体外で培養したもので、これを患者に戻すことで抗腫瘍効果を発揮します。
プロベンジは、自覚症状がほとんどなく全身状態が良好な患者を対象とし、内臓障害がある場合や、期待余命が6ヵ月未満の患者には推奨されておりません。
 プロベンジの費用は、9万3000ドル(800万円)と高額ゆえ、発売当初はその普及に疑問が持たれたのですが、すでにプロベンジの製造が需要に追いつかなくなり、デンドレオン社は2011年 中旬を目途に製造設備の拡張を始めているとのこと。

 2010年11月、米国のメディケア(高齢者・障害者向け国営保険)諮問委員会が、プロベンジを保険償還するように推奨しました。多くの関係者は今年そのまま承認されると考えています。
 メディケアへの償還が実現すれば、プロベンジは米国だけで年間17.5億ドルを売り上げると予想されています。
特許切れまでに世界での売り上げは数兆円に達します。デンドレオン社に莫大な収入と米国に莫大な税収をもたらすでしょう。
これにより、米国ががんワクチンなどを含も医療分野を成長戦略の柱と認識していることが明らかとなりました。
プロベンジの成功を受け、世界的にがん治療ワクチンの開発競争が激しくなっているのが現状です。

2011年1月18日火曜日

粒子線治療施設

国内の粒子線治療施設(予定を含む)は以下の通りです。


【重粒子線】
・重粒子医科学センター病院(放医研) (千葉県千葉市)
・兵庫県立粒子線医療センター (兵庫県たつの市)
・群馬大学重粒子線医学研究センター (群馬県前橋市)
・九州国際重粒子線がん治療センター (佐賀県鳥栖市 ※…2013年以降の開始予定)

【陽子線】
・兵庫県立粒子線医療センター (兵庫県たつの市)
・筑波大学陽子線医学利用研究センター (茨城県つくば市)
・国立がんセンター東病院 (千葉県柏市)
・静岡県立がんセンター(静岡県駿東郡)
・若狭湾エネルギー研究センター (福井県敦賀市)
・福井県陽子線がん治療センター (福井県福井市 ※…2011年3月開始予定)
・がん粒子線治療研究センター (鹿児島県指宿市 ※…2011年4月開始予定)
・南東北がん陽子線治療センター (福島県郡山市)
・相澤病院 (長野県松本市)
・クオリティライフ21城北 (愛知県名古屋市 ※…2012年以降の開始予定)