2013年2月23日土曜日

前立腺がんの治療情報と「がん情報サービス」

胃がんなど、一部のがんではともかく切ることが優先されるし、それが「世界標準」と一致している場合も多い。
誰が見ても、これしかなさそうだ、これがベストだろうといえるなら治療法の選択は簡単だけど、前立腺がんの特徴の一つは、治療法が非常にたくさんあることでしょう。
悩ましいのは確かだけど、これはうれしい悲鳴でもある・・・
治療法を選ぶのは最終的には患者本人ですから、結論は人それぞれ。
人生の歩み方、考えかたも人様々ですから、「結果」は尊重されねばなりません。
ただ、ちょっと気になってるのは、最終的な結論を出す前に、それを判断する十分な医療情報が患者にちゃんと届いているかどうかですね。
前立腺がんにおいては日本では手術が7割を占めるけれど、世界では放射線治療が7割を占めている。
世界の主流は放射線だということを、皆さんはお医者さんから説明を受けたでしょうか?

「泌尿器科医」ご自身は、たぶん、公平に話をしておられるつもりなんでしょうけど、彼らもやはり手術を重視する我国の伝統的な医療社会で育ってきているわけです。
多忙な中で、得意分野以外の事も新しい情報をきちんと把握し、それを噛みくださいて、患者に公平に説明できるお医者さんと言うのは、そうたくさんおられるわけではないんですよね。
医療機関によっても、その考え方に大きな違いがあるのが特徴ですね。
手術が9割以上を占めている病院もあれば、放射線治療がほとんどを占める病院もある。
役割分担という連携システムがあれば別だが、そうでなければ、こういう病院では、患者の選択以前に、ほとんど治療法が先に決まっているようなもの。
セカンドオピニンオンというのが必要なわけはこのへんにもあると思うし、こういう特徴を知らないまま、こうした施設でセカンドオピニオンを受けると大きな「誘導」が働いてしまいそうで、お勧めはしかねますね。

ならば世界標準の放射線治療が良いかと言えば、一概にそうとも言えない。
基本的には、照射線量が多いほど再発率が下がるんですが、どの病院がどの方式の照射法が得意で何グレイの線量を当てているのか、私達にはなかなか伝わってこない。
IMRTや粒子線などは狙いを絞りやすいのが特徴だけど、照射がいくら正確でもターゲットの位置は移動するので、患者の固定や管理法、照射誤差に対するマージンの設定法、画像誘導や動体追随法の導入など様々なノウハウが必要となる。
小線源療法は前立腺そのもに埋め込むわけだから、前立腺の位置変動には追随できるが、埋め込み時の線源のズレや、前立腺のある程度の変形は避けられない。リアルタイムで照射線量を把握、再計算したり、外照射併用でさらに照射線量を上げ、中・高リスクでも安心して対応できる医療機関はまだそれほど多くはない。
要は、放射線療法もかなり上手・下手があり、どこを選ぶかが大切になってくる。
治療法の選択に際し、決断は自分で下さなければならないけれど、それを判断するにはどうしてもこれらのデータが必要となってきます。
治療法毎、医療機関毎、リスク分類毎の非再発データというのは、本来公開されてしかるべきものだと思うのですが、我々はそれをなかなか入手できません。
前立腺がんの場合、たとえ大雑把であろうと、ここ10年の治療法の変遷と、日米の違いをしるだけでも、判断材料が大幅に増えるし、それを調べる時間が待てないほど切羽詰まったケースはまずないはずです。
納得のいく詳細な情報がうまく入手できるかどうかはともかくとして、「先生におまかせします」だけはやめた方が良いと思います。
「手術」を勧められても、その場で「即答」はしないほうが賢明でしょう。地方の中小病院であればなおさらだと思うのですが、手術以外の治療法に詳しくない泌尿器科医もめずらしくないということは、知っておいて損はないと思います。

本来こうした情報はすべて公開されるべきで、現状としてはまず国立がん研究センターの「がん情報サービス」に集約されてしかるべきだと思うのですが、実際は何年も前の情報が更新されないまま色あせた状態になったままだし、詳しい説明やこうしたデータはまずどこにも見当たらない・・・
「がん情報サービス」そのものが、多くの専門医の英知を集約した、患者の為の、真剣かつ公平な情報提供システムとは、今の状態ではとても思えませんね。
もう少し、なんとかならないものかと常々思ってるしだいです。
国立がん研究センター中央病院そのものが、手術が7割を占め、伝統重視の体質のように思うので、本来なら組織的にも独立した第三者機関(それぞれの学会・多くのがんセンター・さらには患者も交えての)によるがん情報の提供が望ましいと思うのですが、だれもこういうことを大きな声で言う人はいませんね。
これってはたして前立腺がんだけの特殊な問題なんでしょうか?(他のがんでもこうした問題がありそうに思うのですが)
がん医療情報というのは古くなるとほとんど「間違い」に等しくなりますから、せめて、こまめに更新するという努力だけでも怠らないでいてほしいものです。