2012年12月26日水曜日

アビラテロン適応追加承認(FDA)


アビラテロン(CYP17阻害薬)は、プレドニゾンとの併用で、化学療法の治療歴のある転移性去勢抵抗性前立腺がん患者に対する治療薬として、米食品医薬局(FDA)に承認(2011年4月)されていましたが、ヤンセンは12/10(米国発表、我国での発表は12/25)、化学療法未治療の転移性去勢抵抗性前立腺がん治療にも適応追加の承認が得られたと発表しました。
これまでのホルモン薬は脳下垂体の受容体をブロックして男性ホルモンの産出を止めたが、アビラテロンは、性ホルモンの合成に関与する酵素「CYP17」を選択的に阻害し、テストステロン(男性ホルモンの一種)の精巣や副腎での産生を抑制するまったく新しい薬。2012年3月時点ですでに世界39カ国の承認が得られているが我国では未承認。

2012年12月10日月曜日

PSA検診不要論に対する私見

米国予防医療専門委員会(USPSTF)が「PSA検診不要論」を打ちだしてから、この問題が多く取りざたされるようになってきました。
PSA検診を不要とする主な理由は以下の二つです。
(これに財政問題を加える人もあり)

1.死亡率を下げるという根拠がない

臨床系医師の多くは「死亡率を下げる」といい、公衆衛生や予防医学に関わる人の多くは「下げるとは言えない」という。それぞれ自説に有利なランダム化比較試験を持ちだしている。
好きに論争していただければけっこうなので、特にコメントはしない。
ただ、PSA検診を止めれば、低リスクがんの発見が減ると共に、がん発見のタイミングも遅れるので、骨転移などの進行がんの比率が高まるのは否定できない。米国では3倍になるとう報告もある。

2.がん死を防ぐメリットよりも、生検や不必要な手術によって被るデメリットの方が大きい。

デメリットそのものは否定しないが、デメリットが大きいことの説明に用いられているこの図(元は英文です)は、我国では非常に誤解を生みやすい。

下の図によれば、検診により前立腺がんと診断されるのは1000人中「110人」、そのうちなんらかの治療によって合併症を引き起こすのは、少なくとも「50人」。
しかし、我国の実情はこれ(下)が正解です。
PSA検診によってがんと診断されるのは1000人中「11人」そのうちなんらかの合併症を生じるのは「5人ほど」。

前立腺がんの罹患率は米国の1/10以下であり(米国:93.4 対 日本:8.5)、実際の住民健診データ(45万人)の分析でも、がんと診断されるのは「11/1000」であることが裏付けられています。がん治療によりなんらかの合併症を引き起こすのは約0.5%。これを多いと思うか少ないと思うかはともかくとして、デメリットを10倍に拡大されたような図を見せられて、どや!と言われても、ちょっと返事に困ってしまいます。
米国のデータですから「正しい」ことには間違いないのでしょうが、注記もなくこれを日本語で見せられると、我国もこれと同等と早合点しかねません。強烈な「誘導」となってしまうのではないでしょうか。
PSA検診の普及率も日米では雲泥の差ですよね。米国ではほぼ8割ですが、日本は2割にも満たない。
PSA検診を受けた1000人当たりの比較はこの数値だけれど、実数ではもっととんでもなく大きな開きがあるわけです。

PSA検診事情においては米国は日本よりはるかに成熟しています
発展を追い求めて成熟した先進国が、「公害」の広がりに気付いてその行きすぎの修正に乗り出したというのが今の米国のPSA検診事情ではないでしょうか。
はたして、我国が発展途上国であることを自覚しないまま、ストレートに米国に追随して良いものでしょうか。

PSA検査の年間費用は少なくとも30億ドルにのぼり、米国の保険財政を圧迫しているという話も聞きます。日本の財政事情には詳しくありませんが、この数値も我国では桁違い、米国とは大きく異なるはずです。
しかし医療財政に関わる人にとっては、是非とも取り上げたい話題でしょう。
PSA検診の規制につながる動きには、純学問的な話以外に、それぞれの国情が大きく関与しているように思われます。

前立腺がん患者のほとんどはPSA検診は必要だと考えているように思うのですが、私はもともと公的検診の普及にはどちらかと言えば慎重な方でした。しかし、我国の現状を見ずして安易に「PSA検診廃止」の論調に乗っかろうという動きには、どうしても違和感を覚えてしまいます。
「公害」に十分注意を払いながら、先進国の仲間入りをするという手を模索して行くべきではないでしょうか。

2012年10月24日水曜日

デガレリクス(ゴナックス)発売開始


テストステロンの産生を抑制する前立腺がんの治療薬デガレリクス(ゴナックス=GnRHアンタゴニスト)が、昨日(10/23)より発売開始となりました。我国では本年6月末に世界で60番目に承認された皮下注射薬です。
(FDAの承認は2008年12月ですから、承認の遅れは約3年半)
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/201210/527349.html&cnavi=1
これまでは、前立腺がんのホルモン療法(アンドロゲン遮断療法)と言えば、ほとんどの場合LH-RHアゴニスト(リュープリンやゾラデックス)が、単独もしくはビカルタミド(カソデックス)等との併用で用いられてきましたが、デガレリクスは、LH-RHアゴニストに比べ、PFS(無増悪生存期間)で優位性を示したことや、要注意とされてきたフレアアップ現象(一時的なテストステロンの上昇)もなく取扱がより単純になるので、ホルモン療法のファーストラインとしてLH-RHアゴニストに置き換わる時期もそう遠くはなさそうです。
LH-RHアゴニストに対して耐性が生じた場合、セカンドラインとしてデガレリクスが有効かどうかは、現時点で情報がありません。(私見としては、「下垂体」以降の薬の機序はほとんど同じはずなので、薬の交替による新たな効果は期待できそうにないと思いますが、専門家のアドバイスがいただければありがたいですね)
参考:アゴニスト=類似薬、アンタゴニスト=拮抗薬

アステラス製薬のニュースリリースは ↓こちらから
http://www.astellas.com/jp/corporate/news/detail/gnrh-2.html

2012年10月3日水曜日

エンザルタミドは骨関連事象と疼痛増悪のリスクを低下させる


第37回欧州臨床腫瘍学会(ESMO2012)での発表によると、去勢抵抗性前立腺癌患者を対象としたフェーズ3試験で、エンザルタミド(Xtandi:米国では発売済)は全生存期間を延長すると共に、骨関連事象と疼痛増悪のリスクを低下させることが確認された。

                プラセボ群  エンザルタミド群
                 (399人)    (800人)
全生存期間中央値     13.6カ月    18.4カ月
骨関連事象出現中央値  13.3カ月    16.7カ月
疼痛(QOL調査票)     23%悪化    7.5%改善

エンザルタミド(enzalutamide)は、アンドロゲン受容体シグナル伝達経路において、テストステロンのアンドロゲン受容体への結合を競合的に阻害、アンドロゲン受容体の核内移行を阻害、そしてアンドロゲン受容体とDNAの結合阻害といった3段階の阻害作用を示す。

私見ですが、期待度は高まるばかり。日本での早期承認を期待したいですね。

参照サイト:
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/sp/esmo2012/201210/526988.html&cnavi=1

本ブログにおける関連記事:
http://higepapa.blogspot.jp/2012/09/xtandimdv3100.html
http://higepapa.blogspot.jp/2012/09/mdv3100fda.html
http://higepapa.blogspot.jp/2012/03/mdv3100.html
http://higepapa.blogspot.jp/2012/02/mdv3100.html

2012年9月27日木曜日

生検前の画像診断(米国)

針生検の時、日本ではエコー(超音波)を見ながら、このあたりと半ば適当に検討をつけて針を刺すだけですが、さすが米国は進んでいますね。
MRI(3テスラ)とPET情報を融合し、がんの位置や悪性度まで予測しながら、その情報を生検前にエコーに送って、リアルタイムで観察しながら、狙った位置に針を刺すことができるということです。
判りやすい動画(日本語字幕付き)がコレ。
http://www.cancerit.jp/1079.html

PSAが高く、強く前立腺がんが疑われる人でも、生検でなかなかがんが見つからないケースがありますが、そういう人にもこの方法は有用ではないでしょうか。

Xtandi(エンザルタミド)・・・開発コード:MDV3100

アステラス製薬は、FDA(米食品医薬品局)から承認を取得した抗がん剤「エンザルタミド」を、2012年9月14日から米国で発売したと発表した。
これまでは開発コード「MDV3100」と呼ばれていましたが、今後は米国での商品名Xtandiもしくは一般名エンザルタミドという名前で呼ばれますのでご注意ください。
転移または再発性の去勢抵抗性前立腺がん患者、言いかえればドセタキセルによる化学療法施行歴を有する前立腺がん患者を対象に承認された治療薬です。

Xtandi(エンザルタミド)は、テストステロンのアンドロゲン(男性ホルモン)受容体への結合を阻害、アンドロゲン受容体が前立腺癌細胞の核へ移行するのを阻害し、受容体がDNAへ結合することを阻害してアンドロゲン受容体の発現量が上昇している時でもがん細胞死を誘導することで効果を発現する

2012年9月12日水曜日

「ランマーク」注意喚起情報

骨転移のある患者さんは特にご注目を!

厚生労働省からデノスマブ(ランマーク皮下注120mg)に関する注意喚起情報(2012/9/11)が出されました。


”骨病変治療薬「ランマーク」投与患者での重篤な低カルシウム血症に関する注意喚起について”
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002jjwe.html

○ 「ランマーク」【別添1】は、多発性骨髄腫による骨病変及び骨転移を有する固形癌の骨病変の進展を抑える薬剤で、破骨細胞の活性化を抑制することで、骨からカルシウムが溶け出すことを抑制する作用があり、低カルシウム血症を起こすおそれがあることが知られている。

○ 7月10日に、「使用上の注意」を改訂し、重篤な低カルシウム血症が発現することについて注意喚起を行ってきたが、その後、関連性の否定できない低カルシウム血症による死亡例が2例、厚生労働省に報告されている。

○ 患者の安全確保のため、
 1.投与前及び投与後頻回に血清カルシウムを測定すること。
 2.充分量のカルシウム及びビタミンDを合わせて服用すること。
 3.重度の腎機能障害者では、低カルシウム血症を起こすおそれが高いため、
   本剤を慎重に投与すること。
 4.低カルシウム血症が認められた場合には速やかに適切な処置を行う事。

○ また、本剤投与中の患者にあっては、高カルシウム血症の場合を除き、医師の指示に従ってカルシウム及びビタミンDを合わせて服用し、手足のふるえ、しびれ等の症状がある場合には直ちに医師に連絡することが重要である。

○ このため、【別添2】のとおり、「使用上の注意」の改訂を行うとともに、医薬関係者等に対して、【別添3】により、速やかに情報提供するよう、製造販売業者に対して指示した。

 ・ 別添1(PDF:185KB)http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002jjwe-att/2r9852000002jjxv.pdf
 ・ 別添2(PDF:81KB)http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002jjwe-att/2r9852000002jkti.pdf
 ・ 別添3(PDF:1,093KB)http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002jjwe-att/2r9852000002jktw.pdf

本ブログ(2012年5月30日)の”デノスマブの副作用(低カルシウム血症)に注意”でも、米国における死亡例をお伝えしていましたが、結局、日本でも同様の事例が見つかるに到り、改めて「安全性速報」(危険性速報?)という名の注意喚起情報が出されるに至りました。
医療者患者の双方に冷静さが求められると共に、正しい使用法が望まれます。

(以下、5/30書き込みの再掲です)

2011年暮れに承認された骨転移による骨病変に対する治療薬デノスマブ(ランマーク皮下注120mg)が、2012年4月から実際に使用できるようになりました。
骨関連事象の発現を遅らせる効果は、ゾメタよりデノスマブのほうが優れている(NCI Cancer Bulletin2010年11月30日)とも言われていますが、注意を要する副作用情報が入ってきました。

米国では重篤な症候性の低カルシウム血症(症状を伴う血中カルシウムの低下)による死亡例が報告されており、昨日、第一三共のHPにも、低カルシウム血症に対し注意を喚起する製品情報が掲載されました。
http://www.daiichisankyo.co.jp/corporate/pdf/20120529.pdf
手足のふるえ、筋肉の脱力感、けいれん、しびれ などの症状が出たら要注意とか。
いずれにせよ新しい機序の分子標的薬ですから、効能の裏にどんな副作用が隠れているかも知れません。
治療を受けていて少しでも異変を感じたら、すぐに主治医に訴えるほうが無難ではないでしょうか。

2012年9月4日火曜日

MDV3100(エンザルタミド) FDAが承認


2012年9月3日、アステラス製薬は、米国メディベーション社と共同で開発を進めているエンザルタミド(enzalutamide, 開発コード:MDV3100, 米国商品名:XTANDI)について、ドセタキセルによる化学療法施行歴を有する転移性去勢抵抗性前立腺がんの効能・効果で、米国食品医薬品局(FDA)より承認を取得したと発表した。
エンザルタミドは、テストステロンがアンドロゲン受容体に結合するのを阻害するアンタゴニストとしての作用のほか、アンドロゲン受容体の核内移行とDNA結合、活性化補助因子の動員を抑制する。

日本では、化学療法前の転移性去勢抵抗性前立腺がん患者を対象にした第3相試験のほか、化学療法後の患者を対象にした第1・2相試験が進行中。


http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/201209/526586.html&cnavi=1


2012年7月13日金曜日

画像検査の必要性について(低リスクでは不要)

米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、臨床的裏付けのない一般的な検査や治療を制限し、がん診療の質を向上させる5つのレビューを発表した。(Choosing WiselyR campaign「賢い選択を」キャンペーン)
http://www.cancerit.jp/16935.html

そのうち「NO.3」が前立腺がんに関するもので、
以下のような生検結果の患者に対しては、転移の有無を見極める病期判定に際し、次のような画像検査を実施しないよう勧告している。
(No.1、2、4、5は省略)

低リスクの前立腺がん患者
(グリソンスコアが6以下でPSA値が10未満)に対しては、転移判定にあたり次のような検査技術を用いないこと。
  ・PET検査  ・CT検査  ・骨シンチ検査

これらの患者のがんの転移の可能性は極めて少なく、転移を検出するために高度画像技術を使用しても、その効果は少なく、むしろ、これらの検査は、誤診や偽陽性のリスクを増加させることが分かっており、それらの検査に起因して、必要のない侵襲的な処置や治療を受けることになり、最終的にはQOLを低下させ、ひいては寿命を縮めることにもなりかねない。

生検でがんが見つかれば、とりあえず画像検査もするというのが、日本の現状ではないかと思うのですが、低リスクの前立腺がん(GSが6以下で、かつPSAが10未満)であれば、画像検査は必要でなく、むしろすべきでない!というのが、
米国臨床腫瘍学会ASCOの新しい見解です。

2012年7月1日日曜日

デガレリクス(ゴナックス)


2012年6月29日、デガレリクス(ゴナックス:アステラス製薬)は、日本国内において、前立腺癌治療剤としての製造販売の承認を取得しました。
  ゴナックスは、皮下注射されるGnRH受容体アンタゴニスト。GnRHは脳の視床下部で産生されるホルモンであり、脳の下垂体に存在するGnRH受容体に結合することにより、男性ホルモンの一つであるテストステロンの産生に関わっています。
これに対し、ゴナックスは、GnRH受容体へのGnRHの結合を競争的に阻害することによってテストステロンの産生を低下させ、前立腺がんの増殖を抑制します。これまでのGnRH受容体アゴニストで認めらたテストステロンの一過性の上昇を伴わないことが特徴の一つです。
  海外においては、ゴナックスは既に59カ国で承認されています。

2012年6月9日土曜日

アルファラディンは全生存期間を延長




詳細は「がんナビ」参照、以下要約。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/sp/asco2012/201206/525286.html&cnavi=1

骨転移を有する去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に対するラジウム-223(アルファラディン)投与は、有意に全生存期間(OS)を延長することが、フェーズ3臨床試験で確認された。

アルファラディンは、骨転移を有する癌患者の治療目的としたアルファ線放射性医薬品で、
カルシウムのように骨に取り込まれ、骨転移巣を攻撃する。

対象は複数の骨転移巣を有する(他臓器転移はない)去勢抵抗性前立腺がん患者、
計921例。平均年齢70歳。
アルファラディン投与群対プラセボ(非投与)群の比を2:1に振り分けた。

【結果】
・全生存期間中央値:プラセボ=11.3カ月、アルファラディン:14.9カ月
となり、全生存期間を有意に延長している。
・ドセタキセル投与歴があるグループや、ビスホスホネート製剤使用中のグループでも、
ほぼ同様の結果。
・ALPが低い(220未満)グループでは全生存期間に有意差は見られなかったが、
高い(220以上)グループでは、有意差(3.3カ月延長)が見られた。
・骨関連事象(SRE)の発症までの期間も、プラセボ=6.7カ月に対し、
アルファラディン12.2カ月と有意に延長していた。
・安全性と忍容性についても特に問題はなし。

米国臨床腫瘍学会(ASCO2012)でRoyal Marsden HospitalのChris Parker氏が発表しましたが、同氏は先に、2011/9/23 EMCC(ストックホルム)でも、同様の内容を報告しており、さきにここでも紹介しました。
http://higepapa.blogspot.jp/2011/10/blog-post_07.html

局所進行がんにはホルモン療法単独より放射線療法併用が有利

ASCO(米国臨床腫瘍学会)2012の情報です。
要約は次の通り。

局所進行前立腺がん患者を中心としたグループで、ホルモン療法単独の場合と
ホルモン療法に放射線療法を併用した場合を比較した結果、
放射線療法を併用したほうが、全生存率が優れていた。

【対象】局所進行前立腺癌(T3またはT4、N0またはNX)が9割近くを占め、残りは、
限局性前立腺癌(T2かつPSA>40μg/L、
またはT2かつPSA>20μg/LかつGleasonスコア8-10)

【方法】ホルモン療法:LH-RHアゴニスト(or精巣摘除術)
放射線療法:骨盤に45Gy+前立腺に20-24Gy(or前立腺のみに65-69Gy)
両群の人数:それぞれ約600人。
患者背景:両群は同様で、T3/T4の患者が9割を占める。

【結果】最終解析(追跡期間中央値は8.0年)

ホルモン療法単独群  放射線療法を併用群
10年全生存率     49%         55%   

この研究で裏付けが取れたという意味はあるのでしょうが、予測通りといいますか、
ほとんど当然と思える内容なので、それほど新鮮味はないですね。

2012年6月8日金曜日

転移がんに対する間欠療法は、持続療法より有利とは言えない


ASCO(米国臨床腫瘍学会)2012の情報がいくつか入って来たので、順に紹介させてもらいます。
元の記事(↓)は煩雑なので、かなり要約してあります。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/sp/asco2012/201206/525245.html&cnavi=1

転移がん(ホルモン感受性あり)に対する標準治療は「持続ホルモン療法」とされているが、QOLに優れる「間欠ホルモン療法」で、はたして同等の効果が得られるのか。
その研究結果がASCO(米国臨床腫瘍学会)2012で発表された。

【試験内容】
転移がんの前立腺患者約3000人を登録。導入時ホルモン療法(MAB療法7カ月)で、PSAが4以下となったケースの中から、1500人を、持続ホルモン療法群と間欠ホルモン療法群に、ランダム(約半々)に振分けた。
間欠ホルモン療法では、PSA=20でホルモン療法開始、7カ月以降にPSAが正常化したら観察に移行する。

【患者背景】
振分け時の平均年齢70歳、PSA=0.2以下:35%、ホルモン療法歴なし:87%、骨痛あり:30%、GS=6以下:約25%、7:約50%、8-10:27%

【結果】
          持続ホルモン療法群  間欠ホルモン療法群
1)全生存中央値     5.8年         5.1年    ------- 全体
2)全生存中央値     4.4年         5.0年    ------- 広範転移型
3)全生存中央値     7.1年         5.2年    ------- 狭小転移型

【結論】
1):全体では、間欠ホルモン療法群の非劣性が示されず、
2):転移が広範な人では、間欠ホルモン療法の非劣性が示されたが、
3):転移が狭小な人では、持続ホルモン療法のほうが有意に優れていた。

全体的には、同等とは言えないという結果になったが、転移が広範な患者では間欠療法は持続療法と同等と言えるとのこと。
転移が広範な人と狭小な人でなぜ食い違う結果になったのか。
この原因が説明されていないので、評価に戸惑う記事と言える。

2012年5月30日水曜日

デノスマブ(ランマーク)と低カルシウム血症


2011年12月、我国でも、多発性骨髄腫および固形がんの骨転移による骨病変に対する治療薬としてデノスマブ(ランマーク皮下注120mg)が承認され、2012年4月よりこれが使用できるようになりました。
破骨細胞の活性化には、NF-κB活性化受容体(RANK)とそのリガンド(RANKL)とのシグナル伝達が関与していることが明らかになっていますが、デノスマブは、RANKLと結合し、破骨細胞及びその前駆細胞膜上に発現するRANKへのRANKLの結合を特異的に阻害する、いわゆる分子標的薬(ヒト型抗RANKLモノクローナル抗体製剤)と言われるものです。

前立腺がんの骨転移に対しては、これまでゾレドロン酸(ゾメタ)が多く用いられてきましたが、ゾメタはビスフォスフォネートと呼ばれる種類の薬で、元々は骨粗しょう症の治療薬として開発されたものですが、破骨細胞の働きを止めることにより、骨からのカルシウムの放出を防ぎ、骨転移による骨病変を抑えます。

骨関連事象の発現を遅らせる効果は、ゾメタよりデノスマブのほうが優れている(NCI Cancer Bulletin2010年11月30日)とも言われていますが、はっきりしたことは判りません。
ゾメタの副作用としては、腎機能の低下と顎骨壊死に注意が必要で、デノスマブの場合も、顎骨壊死に対する注意は同様だが、腎機能の低下の恐れはさほどでもなく、むしろ低カルシウム血症に対する注意が必要とか。
米国では重篤な症候性の低カルシウム血症(症状を伴う血中カルシウムの低下)による死亡例が報告されており、第一三共のHPにも、昨日(2012/5/29)、低カルシウム血症に対し注意を喚起する製品情報が掲載されました。
http://www.daiichisankyo.co.jp/corporate/pdf/20120529.pdf
手足のふるえ、筋肉の脱力感、けいれん、しびれ などの症状が出たら要注意とか。
いずれにせよ新しい機序の薬には、効能の裏にどんな副作用が隠れているかも知れませんので、少しでも異変を感じたら、すぐに主治医に訴えるほうが無難ではないでしょうか。

前立腺がんの低酸素状態と再発予測について


(2012年3月31日 Clinical Cancer Research誌の電子版に掲載)
多くのがん種で、腫瘍内は低酸素状態にあると言われているが、前立腺がんではこれまで一度も決定的な証明はされたことがない。
米国癌学会で発表されたこのたびの研究によれば、前立腺がんにおける低酸素(酸素欠乏)状態は、中間リスクの患者における早期の生化学的再発や放射線治療後の局所再発と関係していることが判った。

放射線治療前に限局性前立腺がんの男性247人の低酸素状態を測定し、6.6年間(中央値)追跡調査したところ(5年間の生化学的な無再発率は78%)、腫瘍内の酸素測定値が10mmHg未満であれば、早期の生化学的再発を予測できることが判った。
酸素測定部位において大きな腫瘍のある患者142人を特異的に調査した時、低酸素状態は早期の生化学的再発とより強い関連があることを発見した。
さらに、追跡期間中に生検が行われた70人の患者において、低酸素状態は再発を予測・同定した唯一の要因であった。

「前立腺がんが、低酸素状態であるならば、悪化もしくは、悪化するまでの期間が短縮され、治療後数年のうちに、がんが再発する傾向にある」と、研究者(Milosevic医師)は述べた。
しかし、前立腺がんの低酸素状態を厳密に測定することは簡単ではなく、広く日常臨床に普及させるためには、より適切で簡便な方法を探る必要がある。
前立腺がんのこの特性の発見は、低酸素状態あるいは低酸素の徴候を標的とする新しい治療概念の探索、ひいては患者の転帰の改善につながる可能性がある。

詳しくは「海外癌医療情報リファレンス」参照のこと  http://www.cancerit.jp/17349.html

2012年5月17日木曜日

ドセタキセル(プレドニゾロン併用)の症例評価


国立病院機構埼玉病院泌尿器科の金井邦光氏らは、
2008年12月から2012年3月に同科でドセタキセルとプレドニゾロン併用療法を2コース以上実施した去勢抵抗性前立腺がん患者、26症例を対象に解析評価を行った。
・ドセタキセル:70mg/m2(@3週間以上)
・プレドニゾロン:10mg/日を連日内服
・診断時患者背景:年齢の中央値=72歳(55~87歳)、
         PSA中央値=163(8~1165)、
         GS=8以上が73%、
         臨床病期:C=27%、D1=12%、D2=61%、
         初期治療で内分泌療法を選択した患者=88%
・ドセタキセル開始時:年齢中央値=76歳(59~88歳)、
         PSA中央値=33(3~2142)、
         痛み止めの使用=23%。
         エストラムスチン使用歴=31%。
・ドセタキセル投与回数:中央値=5(2~33)
・観察期間:中央値=11カ月(2~31カ月)
その結果、生存期間の中央値は19.5カ月で、1年生存率は63%だった。
ドセタキセル+プレドニゾロン療法によって、77%の患者でPSA値が低下した。
PSAが最低値に達するまでの期間中央値は3カ月(1~11カ月)だった。
PSA値の低下率:30%以上低下=61%
        50%以上低下=58%
        70%以上低下=35%
PSA値が50%以上低下したグループでは、生存期間の有意な延長が認められた。
治療開始時のPSA値<60 が生存期間を延長させる有意な予後予測因子だった。
副作用のため、38%の患者でドセタキセルの減量が必要となる一方、80歳以上の高齢者でも施行可能だった。


(詳細はがんナビ2012.5.17参照)
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/201205/524952.html&cnavi=1

2012年3月27日火曜日

バルーン椎体形成術(BKP:Balloon Kyphoplasty )

脊椎圧迫骨折の新治療法について

骨セメント療法と言うのはすでにひげの父さんのHPでも紹介してきましたが、
http://hige103.main.jp/soulful-world/guidebook/sheet003.htm#c4
これはその進化版。

骨粗鬆症等によりつぶれた背骨(圧迫骨折)に、背中側から細い針を差込み、骨の中でバル-ン(風船)を膨らませて、つぶれた骨の形を元に戻した後、空いた空間に骨セメントを詰め、圧迫骨折の痛みをとるバルーン椎体形成術(Balloon Kyphoplasty; BKP)という新治療法で、従来の骨セメント療法より確実性と安全性が高まっている。
2011年1月より健康保険が適応されましたが、急性期の圧迫骨折には適応がなく、背骨の骨折から8週間以上経過してもなお痛みと変形が続いている場合に適応があるとか。
(前立腺がんの骨転移による圧迫骨折にも保険適応があるかどうかは未確認です。)

この手技を行うにはメドトロニックソファモアダネック社による講習、もしくは認定病院での手術見学が義務付けられています。

施設認定基準
1) 全身麻酔下及びエックス線透視下で経皮的後弯矯正術(Balloon Kyphoplasty)を
実施可能な施設。
2) 合併症発生時には、速やかに、全身麻酔下での脊椎除圧再建術や、血管修復術
などの緊急対応を行うことができる施設。
3) 本機器を使用した手術は、脊椎外科の専門知識を有し、本システム特定の
トレーニングを受けた医師のみが行うこと。

使用する医療器機
KYPHON BKP システム
KYHPON BKP 骨セメント

バルーン椎体形成の手順
1)骨折した椎体にバルーンのついた器具を入れる。
2)バルーンを膨らませ、椎体を元の形状に戻す。
3)バルーンを抜いた空間に骨セメントを充填。
4)手術(約1時間)中に骨セメントが硬化。

2012年3月12日月曜日

アビラテロン(abiraterone)

先に、アビラテロンに関するこれまでの情報をまとめてみますと・・・

テストステロンの合成酵素「CYP17A1」を選択的に阻害し、精巣や副腎でのテストステロンの
産生を抑える薬剤で、”タキソテールベースの化学療法が無効となった”患者を対象とした第Ⅲ相臨床試験で、全生存期間の3.9ヵ月延長が認められ、2011年4月、FDA(米国食品医薬品局)はプレドニゾンとの併用でこれを承認、以降世界39カ国で同様の承認が得られています。
日本はあいかわらず出遅れていますね・・・39カ国と言えば、先進国ではほとんどの国が承認済み?

このたびの新情報は次の通り。

”化学療法歴のない”転移性の去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)を対象に、アビラテロンとプレドニゾンを併用する第Ⅲ相臨床試験の中間評価を行ったところ、主要評価項目である無増悪生存期間と全生存期間において臨床利益と忍容性を確認したため、評価を行った独立データモニタリング委員会は、全会一致で臨床試験の盲検化を解除する勧告を出し、プラセボ(偽薬)群にもアビラテロンの投与を開始するよう求めた。

臨床試験に参加しても、プラシボに振り分けられれば、患者は何の恩恵も受けられないわけですが、これによって参加者全員がアビラテロンの恩恵を受けられるわけですから、良い判断ですよね。
他の臨床試験でもこういう判断の前例があったのでしょうか?
臨機応変に、こういう融通をきかした判断が出てくるのはありがたいことですね。
日本のお役所仕事ではたぶんこうはいかないでしょう。アメリカならでは?

2012年3月7日水曜日

軽度~中等度の排尿障害

前立腺がんの全摘術を受けた場合、短期的にはほとんどの人がなんらかの排尿障害を経験します。なかにはいつまでたってもひどい尿漏れが継続する、高度の排尿障害も見受けますが、それについては 別項(こちら) をご覧ください。

軽度の排尿障害では、骨盤底筋を鍛える運動が基本となりますが、 外尿道括約筋を締める薬(スピロペントetc)や、「切迫型」の尿漏れに対しては 過活動膀胱を抑える薬(抗コリン薬)を併用します。 適宜、尿パッドや失禁パンツなどのケアアイテムを用い、治療・訓練を続けるうちに数週間から数カ月で治るものがほとんどです。
薬が効きにくい軽度~中度の排尿障害では、装着型収尿器やペニクランプを用いたり、コラーゲン注入術や スリング術を行うこともあります。

● 尿パッド・失禁パンツ
ズレを予防できる男性専用パッドはほとんどないので、男女共用型を失禁量に合わせて使用する。(写真は男性用パッドの一例)
失禁パンツ(図-1)は、前側に吸収体が入っていて、30mL以内の少量の漏れに対応できる。

● 装着型収尿器
使い捨てタイプ(図-2)は、直接ペニスに付けるので、長時間付け続けるとスキントラブルを起こ す可能性がある。
再利用タイプ(図-3)は、パンツ内に固定された受尿器に逆流防止弁の付いたチューブ部分が接続されている。 スキントラブルはこのほうが少ない。
受尿器は、排泄姿勢により、一人ひとりに適したタイプが選べる。

● ペニクランプ
ペニスを挟み、漏れを防ぐ用具(図-4)です。簡便に使用でき、漏れその ものを抑えることができますが、少なくとも2~3時間ごとにペニスを解放する必要がある。 長時間、使用しているとうっ血を起こす可能性があるので、自己管理ができることが使用条件の一つ。
切迫性尿失禁で膀胱の収縮が激しい患者には適しない。

● コラーゲン注入術 (医療保険適用あり)
内視鏡を使い尿道粘膜の下にコラーゲンを注射する方法。
比較的簡単で合併症も少ないが、確実性と持続性に欠けるのが欠点。

● (尿道)スリング術 (医療保険適用あり)
外尿道括約筋の機能がある程度残っており、 腹圧時に尿道が後方にぐらつくタイプの尿失禁で、失禁量が200-300g/日 程度までの軽~中度の排尿障害に対しては、 尿道を恥骨側に人工テープで吊り上げる「スリング術」によりしばしば症状の改善がみられる。
女性の尿失禁にはこの「ぐらぐら型」が多いので、スリング術が広く用い
られているが、 全摘術後の尿失禁に対しては確実性は乏しい。ただし、
自然排尿ができるのが利点。

2012年3月6日火曜日

人工尿道括約筋 (高度排尿障害)




前立腺がんの場合、全摘術後の排尿障害は、つきものと言っても過言ではありませんが、これらのほとんどは一時的なものか、もしくは障害が残っても、なんとか我慢の限度内に留まっています。
しかしながら、全摘術を受ける患者のうち、約1~3%の患者は、外尿道括約筋を損傷し、(手術ミスもあれば、浸潤状態にもよる)多量かつ頻繁な尿漏れに悩まされ(おむつ代が年間数十万!)、ひきこもりから鬱になる人もめずらしくありません。
こうした患者は年間数百人と見られていますが、男性尿失禁治療に習熟している医師、医療機関は極めて少なく、治療法を知る機会もほとんどないまま”見放されてきた”のが実情でした。
こうした高度尿失禁(400g/日が目安)に対する唯一効果的な治療法は「人工尿道括約筋」の埋込み手術です。
半数近くの患者でほぼ完全に尿失禁がなくなり、ほぼ9割が生活に支障がない程度まで改善するという治療法で、米国ではすでに30年以上の実績を有し、「教科書にも載っている男性重症尿失禁治療のゴールドスタンダード」とのことですが、わが国では、先進医療としてまだ限られた医療機関で行われているにすぎません。
160~170万という高額医療費も、人工尿道括約筋の普及発展の妨げとなっていましたが、2012年1月30日に開かれた中央社会保険医療協議会総会でこの4月より保険適応となることが決定しました。
重度の尿失禁に悩む人には大きな朗報であり、人工尿道括約筋の普及にも、これではずみがつくのではないでしょうか。
人工尿道括約筋(右図)の埋め込み術は全身麻酔下で行われ、手術に要する時間は1~2時間。入院期間も1週間弱。
外見上装着の有無はまずわかりません。また、感染や機器の初期不良さえなければ、長期間の継続利用が可能で、国内のデータでも、 10年間継続利用している患者の割合が7割を超えています。
激しい運動も可能で、少量の尿漏れや尿滴下がある以外、尿失禁は認められなくなります。
人工尿道括約筋を開発した米国のAMS社によると、これまでこの治療を受けた患者は、全世界で13万人に上るということです。

<人工尿道括約筋のしくみ> (右図参照)

【図-1】 通常はカフに循環液(生理食塩水)が満たされ尿道を
締め付けているので、膀胱内に尿が溜まる。

【図-2】 陰嚢内のコントロールポンプを押すと、カフ内の循環
液がバルーンに移動し、カフが緩んで排尿可能となる。

【図-3】 排尿終了後は、数分で自動的にバルーンの循環液が
カフに移動し、また尿道を締め付ける。


<人工尿道括約筋手術」で先進医療指定を受けている病院>(平成22年12月現在)
・原三信病院(福岡市) ・東北大学病院 ・北海道大学病院 ・北里大学病院
・東京医科歯科大学病院 ・国立がん研究センター中央病院 ・島根大学病院


<人工尿道括約筋の緊急時トラブルに対応できる病院>(全国で20箇所)
・旭川医科大学病院 ・北海道大学病院 ・東北大学病院 ・八戸市立市民病院 ・秋田大学病院 
・東京医科歯科大学 ・国立がん研究センター中央病院 ・東京女子医科大東医療センター
・帝京大学病院 ・東京大学病院 ・北里大学病院 ・日本大学板橋病院 ・山梨大学病院
・西野クリニック(各務原市) ・近畿大学病院 ・関西医科大学枚方病院 ・島根大学病院
・香川大学病院 ・原三信病院 ・琉球大学病院

2012年3月1日木曜日

デガレりクス

ここのところ評価の高いデガレりクスですが、
このたび(2012年2月28日)、スイスFerring Pharmaceuticals社より新しい発表がなされました。

「ゴセレリン+ビカルタミド」とデガレリクスの比較で、腫瘍縮小(前立腺体積の変化率)効果はほぼ同じだが、(12週の時点で、デガレリクスが-36.0%、「ゴセレリン+ビカルタミド」が-35.3%)
患者のQOLに大きな影響を与える下部尿路症状の軽減では、ゴセレリンの方が優れていたというものです。
(注:ゴセレリンやリュープロレリンというのはリュープリンやゾラデックスと同じLH-RHアナログ剤。)
有害事象発生率は両群間で差はなかった。

ついでにデガレりクスについてこれまでの情報を整理しておきます。

・デガレりクスは、Gn-RHアンタゴニスト(拮抗剤)である。
・2008年12月にFDA(米国食品医薬品局)が承認。
・リュープリン等のLH-RHアゴニストは、投与直後にテストステロンの上昇を招き
 (フレアーアップ現象)、抗テストステロン剤(カソデックス等)の併用が
 欠かせないのに対し、アンタゴニストは直接テストステロンの産生を抑制するので、
 抗テストステロン剤の併用を必要としない。
・デガレりクスと「リュープロリド(±ビカルタミド)」を比較したところ、
 デガレりクスはリュープロリドに比べ速やかにテストステロン値を低下させ、
 PSAの上昇または死亡のリスクを34%低減させ、
 PSA無増悪生存率でも有意に優れていた。

デガレリクスに関して入ってくる情報は、良いことずくめ・・・多少割り引いても期待できる薬であることに間違いはなさそうです。

MDV3100

MDV3100が、フェーズ3試験の中間解析で進行前立腺癌患者の全生存期間(OS)を4.8カ月延長したことが、2月24日~26日、パリで開催された欧州泌尿器学会(EAU)総会では発表された。
(2012年国際泌尿器癌会議(ASCO-GU)でも、同じ内容が発表されており、すでに紹介済みですが、こんどはもう少し詳しく紹介しておきます)

MDV3100が主要エンドポイントである全生存期間(OS)とすべての二次エンドポイントを達成したため、独立データモニタリング委員会の判断により試験は早期終了となった。(いわばコールド勝ち)
MDV3100はアンドロゲン受容体シグナル伝達を阻害することで腫瘍増殖を抑制し、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する経口剤。

ドセタキセルベースの化学療法を受けた進行前立腺癌患者1199人が
MDV3100(160mg/日)1日1錠服用群とプラセボ群に2:1で割り付けられた。

【臨床試験結果】

(主要エンドポイント)      MDV3100群   プラセボ群
全生存期間(OS)中央値      18.4カ月    13.6カ月

(二次エンドポイント)      MDV3100群   プラセボ群
無増悪生存期間中央値       8.3カ月     2.9カ月
PSA値が上昇するまでの期間中央値  8.3カ月     3.0カ月
PSA値が50%以上低下        54.0%低下    1.5%低下
PSA値が90%以上低下        24.8%      0.9%

最も一般的な副作用は疲労、下痢、ホットフラッシュで同薬の認容性はきわめて良好。
有害事象データには大差がなく、重篤な副作用も特になし。

デガレリクスはまだホルモン療法が有効な患者向けの薬として期待されるわけですが、
MDV3100は転移性去勢抵抗性前立腺癌(転移がありホルモン療法に耐性が生じた)患者向けの薬(経口剤)として期待されています。

2012年2月13日月曜日

IMRTは合併症が少なく病勢コントロールも良好

いまさらという気がしないでもないのですが、IMRTに関してこういう報告がありました。(ASCO GU 2012)
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/sp/asco_gu2012/201202/523516.html&cnavi=1

前立腺がん患者に対する強度変調放射線照射(IMRT)は、旧来の原体照射法(CRT)と比較して、合併症の発生が少なく、追加治療を必要とする割合も低く、良好な病勢コントロールが可能と考えられる。(ASCO GU 2012)

前立腺がんに対する放射線治療は、IMRTや粒子線治療など、合併症を抑えつつ線量増加を図る方法が急速に導入され、米国におけるIMRTの使用は、2000年の0.15%から、2008年には95.9%まで急速に増加している。

■IMRTとCRTの比較:2002~2006年に診断を受け、転移はなく、初期治療が放射線治療だった患者を対象

IMRT(6666人) CRT(6310人)
腸疾患      13.4(%/年)  14.7(%/年) CRTで多かった
股関節骨折    0.8       1.0      CRTで多かった
勃起障害の発生  5.9       5.3      IMRTで多かった
尿路疾患                     有意差はなし
追加治療の割合  2.5       3.1      CRTで多かった(線量の差)

■粒子線治療とIMRTの比較:2002~2007年に診断を受け、転移はなく、初期治療が放射線治療だった患者を対象

粒子線(684人) IMRT(684人)
腸疾患の発生   17.8       12.2     粒子線で多かった
その他の合併症                  有意差なし
追加治療の割合                  有意差なし

今回の結果は、前立腺癌に対する現在の標準的な放射線療法として、IMRTの使用を裏付けるもの。
腸疾患の発生でもIMRTは粒子線をしのぐ結果を出しているが、コンピュータと連動した高度な照射法が、粒子線に対する物理特性の劣勢を十分カバーしえていると推察できる。
IMRTと粒子線治療の有効性を比較する無作為化臨床試験が今後さらに必要になると思われる。

初回のPSA値は長期的な前立腺癌リスクを予測

デンマークCopenhagen大学のDavid D Orsted氏らは、初めて測定されたPSA値がそれ以降の前立腺癌罹患とこれによる死亡の予測に役立つかどうかを調べ、【ASCO GU 2012】で発表した。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/sp/asco_gu2012/201202/523517.html&cnavi=1

デンマーク人の一般男性4383人を、PSA値に基づいて6群に分類し、前立腺癌罹患のハザード比と前立腺癌死亡のハザード比を求めたところ、年齢にかかわらず初回のPSA検査の結果は長期的な前立腺癌リスクを予測できることを示した。

 PSA値      0.1-1.00 1.01-2.00、2.01-3.00、3.01-4.00、4.01-10.00、10超
 罹患ハザード比  1.0    3.0    6.8    6.6    16     57
 死亡ハザード比  1.0    2.2    5.1    4.2    7.0    14

次に、10年間の前立腺癌罹患の絶対リスクを求めたところ、参照群(PSA=0.1-1.00)では、年齢が上昇しても増加はわずかだったが、PSA値が10ng/mL超群では、それぞれ非常に高い値になった。

 年齢層     45歳未満、45-49歳、50-54歳、55-59歳、60-64歳、65-69歳、70-74歳、75歳以上
 PSA値0.1-1.00  0.6%  0.7%  1.1%  1.2%  1.3%  1.1%  1.3%  1.5%
 PSA値10超    35%、  41%、  63%、  71%、  77%、  69%、  75%、  88%

米予防医療専門委員会(USPSTF)は2011年10月、PSA検査が死亡率を下げることを示すエビデンスは見いだせず、逆に過剰治療により有害事象を増加させる可能性があるとし、すべての年齢の男性に対してPSA検査は勧められないとする勧告案を公表したが、今回の発表は過剰診断(治療)に関しては言及されていないものの、PSA検診の取扱いをめぐるガイドラインの論議に一石を投じるものと言えよう。

また、Orsted氏らは、年齢にかかわらず初回PSA検査の結果に基づくPSAスクリーニングスケジュールを以下のように提案した。

 ・4超  引き続き詳細な検査
 ・2-4  2~4年間隔でPSA検査
 ・2以下 65歳未満:10年ごとにPSA検査、65歳以上:再検査不要 

2012年2月12日日曜日

MDV3100

2012年国際泌尿器癌会議(ASCO-GU) が2/4に終了しましたが、その中で最も注目されたのが、MDV3100(経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害薬)の国際第3相臨床試験の結果。
ドセタキセルを含む化学療法にも関わらず、進行してしまった去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)患者の全生存期間(OS)の中央値が18.4カ月となり、プラシボ(偽薬)群より4.8カ月延長するという好結果が得られました。
MDV3100がドセタキセル後の選択肢となる可能性が高まったわけです。
日本ではアステラス製薬がフェーズ1/2試験を進めており、早期の申請、承認が期待されます。
これにより、近い将来の去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)の治療手順として、
ドセタキセル→MDV3100→酢酸アビラテロン、Cabazitaxel、ドセタキセルの再投与 という流れが示唆されます。
(酢酸アビラテロン、Cabazitaxelは米国等では承認済みだが、日本では未承認)
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/sp/asco_gu2012/201202/523535.html&cnavi=1

2012年1月30日月曜日

TAK-700 第Ⅲ相治験開始

(2012/01/30)
武田薬品は1月27日、米子会社ミレニアム・ファーマシューティカルズを通じて、グロバールで臨床試験を進めている前立腺がん治療薬「TAK-700」について、国内での患者登録を終了し、フェーズ3試験を開始したと発表した。同社が重点疾患領域と位置づける「がん・泌尿器科疾患」で期待の開発品。国内では14~15年度、欧米では14年度に上市を見込む。 
TAK-700は同社が創製した経口かつ新規の作用機序(非ステロイド系の男性ホルモン合成酵素阻害剤)の前立腺がん治療薬。既存薬のリュープリンは、精巣での男性ホルモンの産生のみを抑制する「LH/RH誘導体」で注射剤であるのに対し、TAK-700は男性ホルモンの生成に重要な役割を持つ酵素(17、20-リアーゼ)を選択的に阻害し、精巣と副腎の両方に由来する男性ホルモンであるアンドロゲンの生成を抑制する経口剤で、リュープリンとは異なる特徴を持つ。
今回のフェーズ3試験が「転移性のホルモン抵抗性の前立腺がん」を対象にした臨床試験であるのに対し、「非転移性のホルモン抵抗性の前立腺がん」という別の適応症取得に向けた臨床試験も進行中。ホルモン抵抗性の前立腺患者を幅広く治療できる薬剤を目指す。

2012年1月27日金曜日

ロボット支援手術(他)が新たに保険認定へ

(2012年1月19日)
厚生労働省の先進医療専門家会議(座長は慶応大名誉教授の猿田亨男氏)は、第2項先進医療に指定されていた技術のうち、23技術について保険導入が妥当とし、2012年度の診療報酬改定に向けて、中央社会保険医療協議会に報告することを決定した。
(追記:この報告の内容は1月30日開催の中央社会保険医療協議会で了承され、
 2012年4月からの保険適用が決定しました)
保険導入が妥当とされたものは23技術(カッコ内は総合評価)。
そのうち、泌尿器関係と思われるもの5技術を抜粋しておきます。

・人工括約筋を用いた尿失禁手術(A)*
・内視鏡下小切開泌尿器腫瘍手術(A)
・根治的前立腺全摘除術における内視鏡下手術用ロボット支援(A)*
・腹腔鏡下膀胱内手術(B1)
・腹腔鏡下根治的膀胱全摘除術(B1)

* 前立腺がんの手術による尿失禁の重症者は約2200人で、年間約360人の新規患者が出ているという。
治療には、骨盤底筋を鍛える体操や尿道へのコラーゲン注入、薬物療法の他、メッシュテープで尿道をつり上げる手術もあるが、いずれも重症者への効果は期待できず、人工括約筋が最も重症者に適した治療法となる。

* 前立腺がんの手術では、腹腔鏡手術や小切開手術はすでに保険適応となっているので、このたび注目されるのは、ロボット(ダ・ヴィンチ)支援手術。
2010年9月時点におけるダ・ヴィンチの保有台数は、アメリカが1160台(2010年6月時点)、ヨーロッパが276台、アジアが81台(日本13台、韓国30台、中国15台)です。
まだまだ国内の普及度は低いのですが、保険適応となったのは、今後さらなる普及が見込めそうという読みがあったのかも知れません。
アメリカでは前立腺がんでの前立腺全摘除術の85%がロボット支援手術となっています。
日本でもっとも実施例の多い東京医科大学病院でも、前立腺全摘除術の80%をロボット支援手術が占めるまでになっています。

* 一方、保険適応が見送られたのは、粒子線治療(陽子線や重粒子線)です。
治療実績というよりも、保険適応した場合の負担額の多さに腰が引けたということではないでしょうか。

参考までに、上記以外に保険導入が妥当とされた18技術は次の通りです。

・CTガイド下気管支鏡検査(A)
・抗悪性腫瘍剤感受性検査(HDRA法又はCD-DST法)(A)
・内視鏡的胎盤吻合血管レーザー焼灼術(A)
・超音波骨折治療法(A)
・色素性乾皮症の遺伝子診断(A)
・腹腔鏡下直腸固定術(A)
・肝切除手術における画像支援ナビゲーション(A)
・先天性難聴の遺伝子診断(A)
・マイクロ波子宮内膜アブレーション(A)
・内視鏡的大腸粘膜下層剥離術(A)
・インプラント義歯(B1)
・筋強直性ジストロフィーの遺伝子診断(B1)
・腫瘍脊椎骨全摘術(B1)
・腹腔鏡補助下膵体尾部切除又は核出術(B1)
・エキシマレーザー冠動脈形成術(B1)
・三次元再構築画像による股関節疾患の診断及び治療(B1)
・隆起製皮膚線維肉腫の遺伝子検査(B1)
・先天性銅代謝異常症の遺伝子診断(B1)

2012年1月24日火曜日

デノスマブが固形癌骨転移による骨病変の適応で国内製造販売承認を取得

第一三共とアストラゼネカは、1月18日、抗RANKリガンド抗体であるデノスマブ(商品名ランマーク皮下注120mg)について、「多発性骨髄腫による骨病変および固形癌骨転移による骨病変」の適応で国内製造販売承認を取得したと発表した。

用法・用量は、「通常、成人にはデノスマブ(遺伝子組換え)として120mgを4週間に1回、皮下投与する」。

デノスマブは破骨細胞の形成、機能、生存に必須の蛋白質として知られているRANKリガンドを標的とするモノクローナル抗体。第一三共が米Amgen社から導入し、2011年5月にはアストラゼネカと日本におけるコ・プロモーション契約を結んでいた。

デノスマブについては、3つの国際共同フェーズ3試験のデータをもとに申請を行っており、乳癌骨転移を対象とした試験、前立腺癌骨転移を対象とした試験、固形癌骨転移および多発性骨髄腫による骨病変を対象とした試験だ。乳癌骨転移を対象とした試験には日本人も参加した。