2016年12月14日水曜日

前立腺がんの治療に期待できる抗マラリア薬

Nature Communications 2016年12月14日
Cancer: Antimalarial agent shows potential for prostate cancer treatment

抗マラリア化合物が前立腺がんとその転移を阻害することがマウスの研究で明らかになった。この結果を報告する論文が掲載される。
前立腺がんの増殖は、当初は性ホルモンのアンドロゲンとその受容体に依存している。そしてアンドロゲン受容体を阻害する薬物が前立腺がん患者に対する有効な治療法であることが臨床試験で明らかになっている。しかし、前立腺がんが進行して、別の種類のアンドロゲン受容体を発現するようになって、この阻害薬に抵抗性を示すようになることがある。この種類のアンドロゲン受容体を阻害する薬物は存在していない。

今回、Zhengfang Yiの研究グループは、新たなアンドロゲン受容体阻害剤を探索する研究を行い、天然化合物のライブラリのスクリーニングを実施して、全ての種類のアンドロゲン受容体の強力な阻害剤としてアイラントンという抗マラリア薬を同定した。細胞での実験とマウスを用いた実験のいずれにおいても、アイラントンは腫瘍細胞の増殖と転移形成を阻害した。アイラントンは、アンドロゲン受容体の安定性に関与するタンパク質と相互作用し、腫瘍細胞に含まれるアンドロゲン受容体の分解を引き起こす。

2016年5月20日金曜日

ゾーフィゴ(ラジウム223)

2016年3月末に承認された放射性医薬品の「ゾーフィゴ」ですが、やっと(ほぼ2ヶ月後)薬価が決まったようです。これまで、前立腺がんの骨転移に対しては「ストロンチウム89」だけだった放射線医薬品ですが、さらに強力な選択肢が加わりました。
今後、徐々に医療現場で用いられていくに違いありません。
 ゾーフィゴ静注(塩化ラジウム223Ra:バイエル薬品)
 効能・効果:「骨転移のある去勢抵抗性前立腺がん」
 薬価:1回分68万4930円(原価計算方式で算定)
70万円近い薬価をどう考えるか・・・感覚としては高いと言わざるを得ませんが、乳がんによる骨転移も対象となれば、薬価の見直しもあるはずです。患者負担だけで言えば、高額療養費による負担限度額があるので大助かりですが、この制度もいつまで続くやら(^^;;;
肺がんで用いられているもっと高価な薬「ニボルマブ」などは、国を滅ぼすのではという危惧の声も上がっています。

2016年3月24日木曜日

特筆すべき薬物療法(20年間で)

ここ20年ほどの間で(1990年代半ば以降で)特筆すべき薬物療法が3つある。

①グリベック(一般名イマチニブ)は、ある特定の白血病の原因になる異常な酵素を標的にする薬剤だ。この薬のおかげで米国ではこの白血病による死亡件数が半分以上減り、年間で1000件を下回るようになった。

②ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)は主に乳がんの治療に用いられる薬剤で、細胞の増殖を促す特定の受容体に作用する。乳がん患者のうち15%から20%はこの特定の受容体が多いがんだとされている。2014年の研究によると、乳がんの10年生存率は75%から84%に上昇した。この薬剤は年間で米国の女性を数千人規模で救っている。

③ヤーボイ(一般名イピリムマブ)は進行性黒色腫を攻撃する免疫細胞を増やす作用がある。がん専門医はこの効果を称賛している。進行性黒色腫の5年生存率はこの薬剤を用いなければ5%にも満たないが、この薬剤を投与すれば20%台になる。治療は不快感を伴うが、これで完治する患者もいる。

4番目の画期的な治療法になるかもしれないのは、同じく免疫療法に用いられるキートルーダ(一般名ペンブロリズマブ)かもしれない。この薬剤がもっと早くできておれば、皮膚がんが他の部位にも転移したカーター元大統領の治療に役立った可能性もある。

メルビン・コナー博士(エモリー大学 人類学部&神経科学・行動生物学プログラム教授)
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ) 2016年03月23日 寄稿文より抜粋

2016年2月4日木曜日

オラパリブがmCRPC患者の画期的治療薬指定(FDA)

経口PARP阻害剤オラパリブ[olaparib](Lynparza)は、2014年12月、BRCA1/2遺伝子変異陽性の進行卵巣がん患者に対して、すでにFDA(米国食品医薬品局)の承認を受けているが、卵巣がん以外にも、同様の変異がある乳がんや前立腺がんなどにも有効であるというデータが、ここ1~2年の間に示されてきた。このたび、これを受けた形で、特定の(*注)転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者に対し、単剤療法としてFDA(米国食品医薬品局)による画期的治療薬(The Breakthrough Therapy Designation)に指定されたとのこと。
 (アストラゼネカのプレスリリース参照)
 http://www.astrazeneca.co.jp/media/pressrelease/Article/20160202

*注:タキサンベースの化学療法及び新規ホルモン製剤 (アビラテロン or エンザルタミド) による前治療を受けた、BRCA 1/2 または ATM 遺伝子変異を有するmCRPC患者

「画期的治療薬指定」とこれまでの「迅速・優先承認」との違いが分かりにくいが、承認への近道であることには間違いなさそうだ。Breakthroughの意味から連想する通り、著るしい改善が見込める変革的治療薬のための制度で、これまで治療薬が存在しなかった分野や、予備的結果から既存薬と比べて著しい進歩が認められる治療薬が候補になるという。
ただ、その指定方法が不透明という声もあるようだ。

ジャーナル・オブ・クリニカル・オンコロジー誌からオラパリブの有効性に関する記事をピックアップすると次の通り。

 卵巣癌         乳癌        膵臓癌       前立腺癌
 約3割(60/193人) 1割強(8/62人)  2割強(5/23人)  5割(4/8人)

これをみる限り、卵巣癌がもっとも効果的。
前立腺癌は5割だが、N値が少ないので統計上の根拠は薄い。
有害事象で最も多かったのは疲労感、心臓に影響が出る悪心、嘔吐など。
グレード3以上の重い有害事象は54%で、貧血が最も多かった・・・要注意と思われる。

転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)では、その治療は延命、病勢進行の遅延、症状および生活の質の改善などが中心となり、BRCA1、BRCA2、ATMの体細胞もしくは生殖細胞遺伝子変異を有する患者に対する標的治療は存在しないが、2015年5月、米学術誌「セル」に掲載された研究によると、mCRPC患者の約2割は、オラパリブ(PARP阻害剤)が効く可能性があるという。

前立腺がんに用いられる抗がん剤といえば、タキサン系(ドセタキセル)が中心だが、今後、BRCA変異を有する場合は、乳がん・卵巣がんで使われてきた白金系抗がん剤(シスプラチン)をベースとする化学療法も有効となる可能性が考えられる。