2012年12月26日水曜日

アビラテロン適応追加承認(FDA)


アビラテロン(CYP17阻害薬)は、プレドニゾンとの併用で、化学療法の治療歴のある転移性去勢抵抗性前立腺がん患者に対する治療薬として、米食品医薬局(FDA)に承認(2011年4月)されていましたが、ヤンセンは12/10(米国発表、我国での発表は12/25)、化学療法未治療の転移性去勢抵抗性前立腺がん治療にも適応追加の承認が得られたと発表しました。
これまでのホルモン薬は脳下垂体の受容体をブロックして男性ホルモンの産出を止めたが、アビラテロンは、性ホルモンの合成に関与する酵素「CYP17」を選択的に阻害し、テストステロン(男性ホルモンの一種)の精巣や副腎での産生を抑制するまったく新しい薬。2012年3月時点ですでに世界39カ国の承認が得られているが我国では未承認。

2012年12月10日月曜日

PSA検診不要論に対する私見

米国予防医療専門委員会(USPSTF)が「PSA検診不要論」を打ちだしてから、この問題が多く取りざたされるようになってきました。
PSA検診を不要とする主な理由は以下の二つです。
(これに財政問題を加える人もあり)

1.死亡率を下げるという根拠がない

臨床系医師の多くは「死亡率を下げる」といい、公衆衛生や予防医学に関わる人の多くは「下げるとは言えない」という。それぞれ自説に有利なランダム化比較試験を持ちだしている。
好きに論争していただければけっこうなので、特にコメントはしない。
ただ、PSA検診を止めれば、低リスクがんの発見が減ると共に、がん発見のタイミングも遅れるので、骨転移などの進行がんの比率が高まるのは否定できない。米国では3倍になるとう報告もある。

2.がん死を防ぐメリットよりも、生検や不必要な手術によって被るデメリットの方が大きい。

デメリットそのものは否定しないが、デメリットが大きいことの説明に用いられているこの図(元は英文です)は、我国では非常に誤解を生みやすい。

下の図によれば、検診により前立腺がんと診断されるのは1000人中「110人」、そのうちなんらかの治療によって合併症を引き起こすのは、少なくとも「50人」。
しかし、我国の実情はこれ(下)が正解です。
PSA検診によってがんと診断されるのは1000人中「11人」そのうちなんらかの合併症を生じるのは「5人ほど」。

前立腺がんの罹患率は米国の1/10以下であり(米国:93.4 対 日本:8.5)、実際の住民健診データ(45万人)の分析でも、がんと診断されるのは「11/1000」であることが裏付けられています。がん治療によりなんらかの合併症を引き起こすのは約0.5%。これを多いと思うか少ないと思うかはともかくとして、デメリットを10倍に拡大されたような図を見せられて、どや!と言われても、ちょっと返事に困ってしまいます。
米国のデータですから「正しい」ことには間違いないのでしょうが、注記もなくこれを日本語で見せられると、我国もこれと同等と早合点しかねません。強烈な「誘導」となってしまうのではないでしょうか。
PSA検診の普及率も日米では雲泥の差ですよね。米国ではほぼ8割ですが、日本は2割にも満たない。
PSA検診を受けた1000人当たりの比較はこの数値だけれど、実数ではもっととんでもなく大きな開きがあるわけです。

PSA検診事情においては米国は日本よりはるかに成熟しています
発展を追い求めて成熟した先進国が、「公害」の広がりに気付いてその行きすぎの修正に乗り出したというのが今の米国のPSA検診事情ではないでしょうか。
はたして、我国が発展途上国であることを自覚しないまま、ストレートに米国に追随して良いものでしょうか。

PSA検査の年間費用は少なくとも30億ドルにのぼり、米国の保険財政を圧迫しているという話も聞きます。日本の財政事情には詳しくありませんが、この数値も我国では桁違い、米国とは大きく異なるはずです。
しかし医療財政に関わる人にとっては、是非とも取り上げたい話題でしょう。
PSA検診の規制につながる動きには、純学問的な話以外に、それぞれの国情が大きく関与しているように思われます。

前立腺がん患者のほとんどはPSA検診は必要だと考えているように思うのですが、私はもともと公的検診の普及にはどちらかと言えば慎重な方でした。しかし、我国の現状を見ずして安易に「PSA検診廃止」の論調に乗っかろうという動きには、どうしても違和感を覚えてしまいます。
「公害」に十分注意を払いながら、先進国の仲間入りをするという手を模索して行くべきではないでしょうか。