2014年9月26日金曜日

ペプチドワクチン(免疫療法)臨床試験のお知らせ

前立腺がんを対象としたペプチドワクチン(免疫療法)の第III相臨床試験が始まっています。
市中のクリニックなどで自由診療(保険対象外)として行われている免疫療法は、高額な割にはほとんど効果が見られないという評も多いようですが、それとは異なる免疫療法の研究が、長年地道に進められてきており、このペプチドワクチン療法も、これまで行われた治験でもなかなか良い成績をあげているようで、副作用も少ないということです。

ランダム化比較試験(RCT)となるので、たとえ申込んでも、必ずしも本物のペプチドワクチンに当たるとは限らないのですが、それでも試してみようと考えておられる方は、詳細を良くお読みいただいた上で、ご自分でお申込みください。
http://fujifilm.jp/business/healthcare/medicine/vaccine_trial/


去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)の薬物療法プロトコール

去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に対する薬物療法の選択について、症例毎の優先順位を一覧表にしてみました。
米国泌尿器科学会のガイドラインを参考にしつつ、我国の事情に合わせ、適宜アレンジをしたものです。
女性ホルモン系薬剤については、米国では心血管疾患の副作用が懸念され、ほとんど使われておりません。ステロイドについても同様ですが、日本ではしばしば用いられてきました。

我国ではこのような基準がないので、どの薬をどの順序で飲むかということに関しては、基本的には、主治医と患者の話し合いで決まると言ってもいいでしょう。
新薬が出たからこそのうれいし悩み?かも知れません。
新薬の登場により、ドセタキセルが最後の砦であった時代は、ついに終わりを告げたわけですが、その新薬をドセタキセルの後で使うか、前に使うかという判断は、保険適応もからむのでちょっとややこしい様相を呈しています。
アビラテロンは、ドセタキセルの前後いずれでも認められていますが、エンザルタミドに関しては、ドセタキセル未使用の患者に対しても、保健扱いするかどうかは、それぞれの都道府県単位の判断にまかされているのが現状のようです。これまでに発表された臨床試験のデータからすれば、プレケモとして(ドセタキセルより先に)用いても良い結果がでているので、なんとか保健適応が可能な方向で、日本全体で統一していただきたいところです。

2014年9月25日木曜日

前立腺がんフォーラム(2014-9-23)を終えて

「前立腺がん情報は正しく患者に伝わっているか」・・・このようなことは、これまで何度も指摘させていただきました。国立がん研究センターの「がん情報サービス」も、2006年以来一度も更新されない状態が昨年まで続いていたわけですが、情報伝達そのものの伝達をおろそかにしていたということもあるでしょうが、そのような古い考え方のほうが、手術好きの先生にとっては都合が良いというのも、改訂が長らく放置されてきた原因の一つだったのではないでしょうか。治療法の選択の物差しは、古くは病期中心であり、生存率で、手術を放射線治療が追いかける状態が続いていましたが、現在は、病期以外にリスク分類の重要性が叫ばれ、治療法の選択の物差しは生存率から非再発率に移りつつあります。「がん情報サービス」も、極端な手術優先と小線源軽視の内容は改訂後影を潜めましたが、当たり障りのない最小限のものであり、依然として古い概念から脱却できてはおりません。シンポジウムでそれぞれが担当した分野は概ね次のようなものでした。

 伊藤一人先生:PSA検診と診断に関して。
 齊藤史郎先生:手術から放射線治療までを全般的に。リスク分類の解説も。
 岡本圭生先生:放射線治療、特に小線源とトリモダリティについて。
        非再発率と初回治療の重要性も。
 ひげの父さん:治療法の選択で注意しなければならない点について。
        セカンドオピニオンと新薬の話も少し。

・治療法を決めるのは生存率より非再発率
・キャンサーフリーを目指すなら初回治療が大切。
・病期だけじゃなくリスク分類を重視すべき。
・限局がんと診断されても、実際はそうとは限らず、
 リスクが高いほど、浸潤がんである可能性が大きくなる。
・前立腺がんの手術では、その構造上(直腸、膀胱、尿道括約筋、神経血管束などと接している)大きく切り取ることが難しいので、浸潤がんの場合には、手術より、ややはみ出して照射できる放射線治療のほうが有利となる。
・高リスクでは、同じ放射線治療でも、IMRTより「小線源療法+外照射」のほうが照射線量で優れている。
・患者は目の前の専門医の意見に流されやすい・・・セカンドオピニオンは必須。
・今年は3つの新薬が承認され、ドセタキセル以降の手詰まりにも希望の光が見えて来た。

このような考え方は、腺友ネットの掲示板を見ていただいている人であれば、すでにご存じだろうと思いますが、「がん情報サービス」には、ほとんど書かれていないことばかり。
しかし、欧米で信頼のあるNCCNのガイドラインには極めて近い考え方であり、どちらかと言えば「がん情報サービス」のほうが、ガラパゴスと言えるのではないでしょうか。
古い考え方(手術優先)から、なかなか脱却できない公的な医療情報サイトを尻眼に、公共放送のほうが先に、前立腺がん治療の、ここ10年の目覚ましい進歩に、興味を示していただいたということではないでしょうか。

シンポジウムで専門医と壇上に並んぶことは、これまでもなんどか経験はしていますが、前立腺がんに関する質問にはほとんど専門医が答え、私はたいてい「一患者」として体験にもとずいた意見を求められるだけというケースが、多かったわけですが、このたびは、「腺友ネット」による情報発信と、患者に対するサポート活動にも眼を向けていただき、(私と関わりのあった、お二人の患者さんにも、取材にご協力をいただきました。)専門医とほぼ同等の発言機会を与えていただいことは、特筆に値する出来事だと思っております。

2014年9月16日火曜日

新薬の使い方に関して


これまでのホルモン療法ではドセタキセル以降の手詰まりが最大の問題点であったわけですが、この突破口となるのが、これらの新薬の承認であり、もう一つは従来の治療法の見直しといえるでしょう。

ASCO2014で注目された発表(第Ⅲ相臨床試験)ですが、まだホルモン感受性のある転移性前立腺がんに対しては、従来のホルモン療法にドセタキセルを併用すれば、著しくOS(全生存期間)が延びることが判明しました。CRPC(去勢抵抗性前立腺がん)以前の段階でも、別の新しい選択肢が見えて来たわけです。

こうした従来の治療法の見直しと、相次ぐ新薬の登場とを合わせて考えると、今後のホルモン療法は一気に選択肢の多様化が進むわけで、2014年はまさに、薬物療法に頼らざるを得ない前立腺がん患者にとっては、新しい時代の到来と言っても過言ではないと思っています。

(米国では、2011年がこのような時代であり、我国では3年ほど遅れています)

以下は近畿大学病院泌尿器科植村教授のメディアセミナー(ヤンセン・アストラゼネカ、サノフィ)に関する複数の記事の報告を参考に、”ひげの父さん”がまとめなおしたものです。

                   *

前立腺がんには、外科的去勢や薬物去勢が施されるが、アンドロゲン分泌が抑制されているにもかかわらず、病勢が進行する状態をCRPC(去勢抵抗性前立腺がん)と呼ぶ。
早期のCRPCでは、抑制しきれていない副腎や前立腺がん細胞自身で作られるアンドロゲンにより、前立腺がんが悪化するため、さらにアンドロゲンを徹底的に抑制することが重要となる。

2014年、我国ではエンザルタミド、アビラテロン(ホルモン療法剤)、カバジタキセル(抗がん剤)が相次いで承認され、CRPC治療は新しい時代を迎えようとしている。
エンザルタミド(イクスタンジ)は、アンドロゲン受容体への結合を阻害する働きのほか、アンドロゲン受容体の核内移行とDNA結合を妨げ、活性化補助因子の動員を抑制する。
アビラテロン(ザイティガ)は、アンドロゲン合成酵素のCYP17活性を阻害する全く新しい作用機序の薬であり、早期のCRPCに対して、精巣・副腎・前立腺がん組織のすべてでアンドロゲン合成を抑制することにより、予後の改善が期待される。

しかしながら、CRPCにおける細胞増殖には、アンドロゲン非依存性の経路が存在するため、いずれホルモン療法によるアンドロゲン除去に抵抗性が生じてくる。
そのような場合にはドセタキセルが標準治療であるが、ドセタキセル後の治療選択肢として、このたびカバジタキセルが承認された。
アンドロゲン標的薬に抵抗性を示す患者さんも居るので、化学療法も重要な役割を持つ。

現在、アビラテロンだけが化学療法未治療のCRPCにも使用できるが、エンザルタミドも近く同様に使えるようになると思われる。

CRPC治療の今後の流れとしては、次のような手順が予測される。
 ①まずは、アビラテロンもしくはエンザルタミド。
 ②進行後にもう1つの薬剤を投与。(エンザルタミドもしくはアビラテロン)
 ③さらに進行した場合にドセタキセル。
 ④その後にカバジタキセル。・・・ドセタキセルによるしびれでADL(日常生活動作)が低下する
  ようなら、早めに切り替えても良い。

アビラテロンとエンザルタミドの使い分けについては、現状では大きな差はなさそうだ。

いずれにも目立った副作用はなさそうだが、アビラテロンについてはプレドニゾロン(ステロイド剤)の併用が必要なため、それに伴う副作用(疲労感、背部痛、悪心など)が生じるかも知れない。

カバジタキセルの副作用では、(発熱性)好中球減少が多く、骨髄抑制の対策が重要となる。

しかし、G-CSF製剤(注)の適切な投与と、生ものを食べない指導など、マネジメントをしっかりすれば、問題は少ないと思う。


注:G-CSF製剤とは遺伝子組換え技術によるタンパク質製剤。
  好中球(白血球の一種)を選択的に増加させ、その機能を高める働きをする。
  がん化学療法による好中球減少症の回復と、それに伴う様々なリスクを低下させる。

2014年9月1日月曜日

前立腺がんの新薬、アビラテロン

2014年8月27日、
メディアセミナー「急増中の前立腺がん 治療の最前線」(主催:ヤンセン、アストラゼネカ)
講師:植村天受氏(近畿大学泌尿器科教授)

去勢抵抗性前立腺がんを対象とする新薬3剤が相次ぎ登場することから、2014年は前立腺がん治療にパラダイムシフトが起きる。
・新規ホルモン製剤のイクスタンジ(一般名・エンザルタミド、アステラス)が2014年5月に新発売。
・ザイティガ(アビラテロン酢酸エステル、ヤンセン/アストラゼネカ)が9月2日に発売予定。
・抗がん剤のジェブタナ(カバジタキセル アセトン付加物、サノフィ)も9月2日に薬価収載される予定。

去勢抵抗性前立腺がん患者の特徴としては、
1)高齢などの理由で化学療法を受けられない患者が多い
2)予後が比較的短い などの問題があり、このようなメカニズムに即した新規のホルモン製剤が求められていた。

アビラテロン(ザイティガ)は、アンドロゲン合成酵素のCYP17活性を阻害する全く新しい作用機序の薬であり、精巣や副腎だけでなく前立腺がんの組織内にも作用し、前立腺がんに必要な男性ホルモンをシャットアウトする。
化学療法の既治療、未治療、いずれにおいても全生存期間(OS)の延長が認められた。
副作用も併用薬のプレドニゾロンに見られる症状(疲労感、背部痛、悪心など)が主であり、
長期的な観察は必要なものの、現時点では有効性、安全性が高い薬剤といえる。

現時点では、イクスタンジが化学療法既治療患者(ポストケモ)に限られているのに対し、
ザイティガは化学療法未治療患者(プレケモ)でも対象となり得る。
ただ、イクスタンジも今後、プレケモとして使用できるようになる見通しであり、いずれはどちらを使っても良いということになる。
強いて使い分けを考えるなら、副作用に基づいた判断となってくるのではないか。
両薬の作用機序が異なることから、去勢抵抗性前立腺がん患者の治療選択肢の幅は大きく広がるだろう。