2017年9月15日金曜日

ホルモン療法が効かなくなる理由

「難治性前立腺がんの診断・治療の新たな標的「PSF」発見」 東京都健康長寿医療センター
ホルモン療法が効かなくなり、去勢抵抗性がん(CRPC)となると、アンドロゲン受容体の異常増加やAR-V7(悪玉変異体)の異常発現(20倍ぐらい)が見受けられる。その発生機序は不明なままだったが、このたび、その司令塔を担っているのがPSFとそのパートナー役であるNONOが、RNAの成熟に重要なタンパク質群を制御することにより、異常なホルモン受容体タンパク質の産生や悪玉変異体V7の出現に至ることを解明した。PSFやNONOが治療後の再発や生存率を予測する診断マーカーとなることを発見した。また、動物モデルの実験では、PSFを抑制することでホルモン療法の効かない難治性の前立腺がんに対して治療効果を示すことも明らかにした。同研究グループでは、その機能を阻害する創薬候補の開発も進めている。
「これは、従来にない方面からの治療薬へのアプローチであり、前立腺がん治療のブレイクスルーとなる可能性が考えられる」と研究グループは述べている。
プレスリリースはこちらです。           http://www.tmghig.jp/J_TMIG/images/press/pdf/press20170912.pdf

上記の記事に関連してこのような発表もみつかりました。
科学雑誌「Nature Communications」オンライン版に発表 2015年9月25日
東京大学大学院医学系研究科抗加齢医学講座の井上聡特任教授と同医学部附属病院老年病科の高山賢一助教らの研究グループは、アンドロゲンレセプターの活性化など、前立腺がんのホルモン療法に対して獲得される耐性について、その仕組みをエピゲノムの観点から世界で初めて明らかにしました。
エピゲノムが分からないと理解がしずらいので、その補足説明しておきます。
DNAの塩基配列情報全体のことをゲノムと称し、ヒストンというタンパクに巻きつく形で圧縮され、細胞の核内に収納されています。エピゲノムすなわちメチル化・アセチル化というヒストン修飾がDNAに加わることにより、表現型や遺伝子発現量を変化させ、DNAのどの遺伝子を働かせるかをコントロールしています。様々な外部の環境変化が細胞にシグナルとして伝わり、特定の酵素群がエピゲノムの作用に影響を及ぼします。ヒトの体は60兆個の細胞からなり、そのすべてが同じDNAをもっているのに、体の部位によって違う細胞になるのは、エピゲノムによりゲノムDNAの情報が的確にコントロールされているからです。
ホルモン療法に対する耐性を獲得した場合、マイクロRNA-29の発現は活性化されています。それによりDNA修飾を担うTET2遺伝子の発現を抑制することで、細胞内のエピゲノム状態を変化させ、前立腺癌関連遺伝子群が活性化されることを見出しました。このエピゲノム状態の変化が、癌関連遺伝子の発現やアンドロゲンレセプターを活性化し癌悪性化の鍵として関わっていることがわかりました。
井上特任教授は次のように説明をしています。
「前立腺癌細胞がホルモン療法に対する耐性を獲得したマウスに、マイクロRNAの働きを抑制する薬剤を投与すると、ホルモン療法の効き目が高まりました。実際に前立腺癌を患っている患者さんの細胞で発現されているマイクロRNAの量を分析したところ、マイクロRNAの発現が高いほど前立腺癌を再発しやすいこともわかりました。」