2014年12月5日金曜日

PSA検査の方向性(新ガイドライン)について

PSA検査に関しては賛否両論、前立腺がんの診療と有害な副作用の懸念とのバランスが難しく、国際的な意見の統一とガイドラインの整備に対し、多くの期待が寄せられているわけですが、UICC(国際対がん連合)は、2014年12月3~6日にメルボルンで開催されたWCC(世界がん大会)の前に(公開協議を行う必要もあり)、世界で最も総合的に検討された「前立腺がん検診ガイドライン」を発表した。
参照:http://prw.kyodonews.jp/opn/release/201412046062/
原文:http://wiki.cancer.org.au/australia/Guidelines:PSA_Testing     

主な内容は次の通り。

(前立腺がんの可能性はあっても、兆候の無い男性に対して)
 ・定期的なPSA検査を希望する男性に対しては、PSA検査の恩恵と副作用を知った上で、
  50歳から69歳までは2年毎の PSA検査を提案し、PSA ≧3.0 ng/mL の場合は、
  さらに詳しい検査を推奨する。
 ・前立腺がんの早期診断のために検査を受ける男性に対しては、
   初期の診療時においては直腸指針を推奨しない。
 ・期待余命7年未満の人には PSA検査は推奨しない。
 ・PSA検査を受けるか否かを迷っている男性に対し、
   PSA検査の潜在的な恩恵とリスクについて話し合うなど、決断のサポートを行う。

(監視療法)
 ・以下の基準のすべてに合致する前立腺がんを患う男性に監視療法を提案します。
    PSA ≦20 ng/mL、臨床病期 T1-2 および グリソンスコア 6。
(待機療法)
 ・治癒可能な前立腺がんを患い、待機療法を検討する男性には次のようなアドバイスをする。
  前立腺がんの進展の恐れとそれによる死のリスクは、根治療法より高いかも知れないが、
  中~長期で見ると、待機療法の方が幸福感および生活の質を損なうことは少ないだろう。

PSA検診を50~60代では維持・継続しながら(ただし毎年ではなく2年毎)、70歳以上の高齢者には不要とし、監視療法の枠も大幅に広げています。(特にPSA≦20はかなり思い切った数値ではないでしょうか・・・ちょっと驚きました。)
監視療法をもっとルーズにした待機療法についても、メリットを認めて推奨しており、直腸指針を推奨しないことも合わせて、なんらかの副作用を伴う診断や治療行為を控えて、できるだけ過剰診療を減らそうという試みも行われています。

PSA検診に反対の立場を取る米国PSTF(予防医学作業部会)の構成員は、前立腺がんの専門医が含まれず、公衆衛生の専門家ばかりだったということですが、このガイドラインの起案にあたったオーストラリア専門家審議会には、公衆衛生の専門家以外にも一般開業医、泌尿器科医、病理学者、患者支援グループ、コメディカル職員などほぼ全ての職種が含まれています。

PSA検診を無料にすべきとか、がん検診の必須項目にすべきだとか、実施市町村の拡大を図るべきだとか、PSA検査を受けましょうと、声を大にして叫ぶのも違和感があり(前立腺がんの患者会としては、この方向が一番意見の統一を見やすいと思いますが)、これには一定の距離を置いてきました。
8~9割の男性がPSA検査を受けている米国と、2割に満たない日本とを同じ土俵で評価し、日本でもPSA検査を止めるべきというのは、完全に的外れだと思っています。
国立がん研究センターでこれに関わる某先生などは、患者団体の集まりにおいて、根拠のない検診は推奨しないというよりも止めるべき!とはっきりおっしゃいましたが、「止めるべき!」という発言に対しては、多少の反論をさせていただいたこともありました。
「根拠」なんていうものは、要するにどの説(論文)を尊重するかによって決まるので、本質的にはある程度、融通(操作)が効くものと理解しています。
「生存率を延長する明白な証拠がない」というのは、
医療費抑制という大きな流れの中で決められた方針であり、「生存率を延長しない証拠がある」というわけではありません。要は状況(政治的)判断しだいでどうにでもなるグレーゾーンであるということです。
日本泌尿器学会の解説では、まったく逆の説明になっていますが、多くの異なる論文があれば、採択の仕方や比重の置き方で、結論はどうにでもなるということですね。
ここに来てやっとこれまで抱いていた私の思いに近い形で、合意を求める動きが出て来たようで、良い傾向だと嬉しく思っています。