2008年12月12日金曜日

RI標識モノクローナル抗体の治療メカニズム

 放射線治療は、従来、放射性同位元素線源あるいは他の放射線照射装置を用いて体外から特定部位の患部に向けて放射線を照射するか、特定患部に放射性同位元素を含んだ小型器具を挿入留置しそこで照射するものであった。それに対し、ここで取り上げる放射線治療は、RIで標識された薬剤を体内に投与し、この薬剤が体内で存在する場所(病変部)をRIから放出される放射線で照射する、即ちミクロのレベルで内側から照射するものである。よって、標的病変への照射は、RIのキャリアーである薬剤の体内分布によって決定される。もし、化合物が病変部位に特異的に結合しそれ以外の正常組織に結合せず、かつ、放射線の飛程が非常に短かければ、高濃度に薬剤が存在する病変部位の放射線照射線量は、正常組織に比べて高くなる。実際、β線のエネルギーは、生体組織内では発生位置から飛程2~3mm以内ですべて吸収される。 β線放出核種を運搬するモノクローナル抗体は、血中投与されると血流にのって全身に分布し、自分自身で癌細胞などを探してそこに安定的に結合する。これにより、癌組織は集中的に放射線照射を受け、一方、癌組織以外の正常組織はあまり照射されない。これが、RI標識モノクローナル抗体によるRI治療の基本コンセプトであり、薬物動態に基づく選択的放射線照射が最大の特徴である。この治療法のメリットは、体外から狙った場所以外照射できない体外照射法と違って、全身を対象に治療でき、診断では発見できなかった小さな病変ももらさず照射し得ることにある。 1980年代より、血液腫瘍・黒色腫・肺癌・乳癌・大腸癌などに選択的に結合するモノクローナル抗体を、I-131・Y-90・Ho-166・Lu-177・Re-186などのβ線放出核種で標識し、それを用いてがん細胞移植マウスで治療実験が行われた。1990年代に入り、特に高い治療効果が期待されたNHL(非ホジキンリンパ腫)で臨床試験が行われた。