アスピリン(NSAIDs)はシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の活性を阻害する薬剤のひとつですが、
その服用者に大腸がんや乳がんなどの発症率が低いことがすでに知られています。
大腸がん、乳がん、胃がん、食道がん、肺がん、肝細胞がん、膵がん、頭頚部の扁平上皮がんなどでは、
ヒト癌細胞でのCOX-2の発現増強が見られますが、どのがんに対しどの程度の効果があるかという
定量的な解析はあまり進んでいません。
多くのNSAIDsはがん発生の予防に必要なCOX-2の阻害に留まらず、COX-1も阻害してしまうため、それに
関連して種々の副作用、特に消化管障害を引き起こす危険性があります。そのためにCOX-2のみを選択的に
阻害する薬剤も開発されていますが、これにも心血管障害などの副作用があり、やはり注意が必要です。
このたび、マサチューセッツ総合病院のAndrew T.Chan氏は、大腸がんとアスピリンの関係について、
後向きの分析調査を行い、大腸がんと診断された後にアスピリンを定期的に服用すると、
死亡率の大幅な低下がみられることを、2009年の米国消化器学会(シカゴ)で発表しました。
ステージ1~3の大腸がん患者1279人について、2008年まで平均11.8年間追跡した結果。
(この間に480人が死亡、うち222人が大腸がんによる死亡)
・診断前から定期的にアスピリンを服用していた場合は、その後の服用の有無にかかわらず、
大腸がんによる死亡率に差はみられなかった。
・診断後定期的にアスピリンを服用した場合、死亡率は29%低下。
その内、診断前にアスピリンを服用していなかった患者に限定すると、死亡率は47%低下。
さらに、COX-2の過剰発現が認められた患者に限定すれば、死亡率は61%低下。
結論としては、アスピリンの常用によりCOX-2を過剰発現する大腸癌のリスクは低下するが、
COX-2発現の弱いまたは認められない大腸癌のリスク低下はあまり期待できないようです。