2009年11月7日土曜日

ウイルス療法

さまざまな病気を引き起こすウイルスだが,うまく手なずけるとがんを効果的に攻撃する新しい治療法に道が開ける。腫瘍細胞だけで増殖するウイルスを利用するウイルス療法(virotherapy)だ。

がん患者が偶然ウイルスに感染し、そのウイルス疾患が軽快するとともにがんも縮小するということが、古くは1900年代の初めに報告されていた。その後の研究で、単純ヘルペスウイルスをはじめとするいくつかのウイルスにはがん細胞を殺す作用があることが発見され、さらに研究が進むにつれ、それは、“免疫”にも関係していることが判ってきた。
ウイルス感染が起こったことによりヒトの体中で免疫が活性化し、がん細胞に対する免疫も高まり、直接あるいは間接的にがん細胞を壊したり食べたりしてしまうという。

ウイルスをがん細胞だけに選択的に感染させて殺す臨床試験が進んでいる。現在,がん細胞には効率よく感染するが正常細胞には影響を与えないようなウイルス(特にアデノウイルス)を開発するため,さまざまな方法が試されている。

ウイルス療法の標的指向性を高めるには,大きく分けて2つのアプローチがある。1つは「遺伝子導入の標的化」で,がん細胞に特異的に感染(遺伝子導入)できるようにウイルスを改良する。もう1つは「転写活性の標的化」で,ウイルスが運ぶ遺伝子ががん細胞でのみ活性化される(転写される)ように改良する。

従来の化学療法剤に対する感受性を高めるような遺伝子をがん細胞に選択的に導入するという考え方や,ある種の酵素を作り出す遺伝子をウイルスに組み込んでがん細胞で発現させ,その酵素によって無害な化学物質を強い毒性を発揮する化学療法剤に変えるといったやり方もある。

ウイルスに蛍光物質や放射性核種の標識をつけて利用することも考えられている。これを投与するとがん細胞のところに集まってくる。将来は微小ながんの転移巣を検出する画像診断が可能になるだろう。