(レーベンスクラフト最新医療情報2009/3/27)
バイオベンチャーのテラは免疫機能の司令塔である樹状細胞の働きを高め、がんを狙い撃ちする治療法を医療機関に提供している。
この「樹状細胞ワクチン療法」は副作用が少なく再発や転移したがんにも効果を示すという。従来の治療法では治せなかったがん患者を救おうと次世代型の治療法確立を視野に入れている。
樹状細胞は体内の異物を食べて特徴を認識、リンパ球に異物の特徴を覚え込ませる。これによりリンパ球は異物に照準を絞って攻撃できる。テラの治療法では、がんに細胞に特有なたんぱく質の断片を再現した人工抗原「WT1ペプチド」を樹状細胞に与え、リンパ球への司令を出させる。
大阪大学が持つ人工抗原に関する基礎技術を導入した。阪大はがん細胞が増殖したり生存したりするのに必要なたんぱく質断片を発見、多様ながんに使えるWT1ペプチドを開発した。従来の人工抗原はがんの種類によっては使えなかった。
樹状細胞ワクチン療法を提供しているのは、信州大学医学部付属病院などテラが契約した全国で約10ヶ所の医療機関。患者の血液から単球と呼ぶ細胞を採取・培養して樹状細胞を作製する。
そこに人工抗原を入れ患者に注射。治療は4ヶ月ほどで終わるのが特徴だ。東大発の培養技術に阪大の人工抗原を組み合わせることにより、新たながんの免疫療法を生み出した。
免疫療法で主流の「活性リンパ球療法」はリンパ球を増殖させて体内に戻す。がん細胞を攻撃する「兵隊」を増やす手法だが、司令塔の樹状細胞が標的であるがん細胞の特徴をとらえていないために的確な命令が下せず、がん細胞を見逃してしまう恐れがある。
がん治療には外科手術や放射線治療など様々な手法があるとはいえ、転移したり、抗がん剤に耐性を持ったりしたがんの根治は難しい。樹状細胞ワクチン療法は、68万人いると言われているがん難民に新たな治療法を提供出来る可能性がある。
現時点でテラの樹状細胞ワクチン療法は臨床試験(治験)を実施しておらず、薬事法に基づく承認も受けていないため、保険適用外の自由診療として提供される。
樹状細胞を活用した治療法の歴史は浅く、エビデンス(科学的根拠)の蓄積も足りないのが実情。同社の累計症例数は1000件を超えているが、テラ以外では世界でも2000~3000件にすぎず、実績の積み上げが課題になる。