市民のためのがん治療の会「がん医療の今 No.12」より、
http://www.com-info.org/ima/ima_20091202_nakamura.html
東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター長 中村 祐輔 教授
(以下はその要約です。一部表現が原文と異なる部分もありますので、詳しくは上記サイトをご覧ください)
がんの免疫療法は期待されつつも、そのエビデンスが必ずしも十分でない状況が長く続いていましたが、ようやく、外科療法、化学療法、放射線療法に続く第4の治療法として、ワクチン免疫療法が科学的に実証可能な治療法として認識されつつあります。
外科療法や放射線療法は、限局がんには有効な治療法ですが、転移・再発がん、あるいは、手術やその他の治療を受けたが目には見えないレベルで全身に広がり残っているがんに対しては、限界がある治療法です。
全身病としてのがんに対しては、現在では、化学療法が唯一の科学的にその効果が実証された治療法として認められています。
医療関係者の間では、免疫療法と言うだけで顔をしかめる人が多いのですが、 その効果が科学的に十分実証がされないまま、進行がん患者さんにとって、生きる望みをつなぐ副作用の少ない治療法として、高額な細胞免疫療法などが広がり、患者さんやその家族の生活を圧迫していることが、大きな反感を買っている理由でもあります。
丸山ワクチンや蓮見ワクチン、あるいは、養子免疫細胞療法などが非特異的免疫療法であるのに対し、がんワクチン療法は特異的免疫療法として区別されます。
いろいろな種類のリンパ球を選別せずに増やして免疫を高める方法を非特異的免疫療法、
がん細胞の目印となるような分子を認識してがん細胞をやっつけるリンパ球だけを増やす方法を特異的免疫療法と呼びます。
免疫の基本的仕組みは、自分自身と自分でないものを見極め外敵の侵入を防ぐことです。外敵は攻撃しても、自分自身に対して攻撃が起これば、われわれにとって不都合なことがたくさん起こるため、このような免疫反応が起こらないような仕組みが備わっています。 しかし、最近になって、自分のタンパク質であってもそれを攻撃する細胞(細胞障害性リンパ球=CTL)がわずかながら残っており、これをうまく活用すると、これまで自分自身の細胞と見分けのつかなかったがん細胞も攻撃できることが分かってきました。
がんには、それぞれに特異的なタンパク質が存在しますが、それが細胞内で分解され小さなペプチド断片となり、白血球型が一致すればHLA分子と結合して細胞の表面に浮上します。がん細胞の表面にだけ存在しているこうした目印を人工的に作り出し、これをうまく見つけて反応してくれる細胞障害性リンパ球(CTL)を多く増やして注射してやれば、がんを叩くことが出来るという考え方で、これをペプチドワクチン療法と呼んでいます。
ワクチン療法で重要なもののひとつは、細胞障害性リンパ球(CTL)で、このうち、主にがん細胞だけに反応するCTLを増やすことを目的としてがんワクチンが利用されるようになってきています。
人工的に合成したがん細胞の目印=ペプチド(9個か10個のアミノ酸をつなげたもの)を用いると、以下のことを科学的に検証することができます。
(1)ペプチドワクチンに反応して患者さんの血液中で特異的CTLが増えていること、
(2)CTLががんの組織に浸潤していること、
(3)ペプチドワクチン治療を受けた患者さんの体内で増えたペプチド特異的CTLが本当にがん細胞を死滅させることができるかどうか
まだ限られた症例数ですが、ワクチンに反応するリンパ球の増えている患者さんは、そうでない患者さんに比して生存期間が延長していることが確認されつつあります。ペプチドワクチン療法ががん治療の一翼を担う治療法としての評価を受けるには、まだまだ不十分ですが、日進月歩で変わりつつあると言えるでしょう。
注:がんペプチドワクチンの臨床研究をおこなっている施設は次の通りです。
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/nakamura/main/cancer_peptide_vaccine.pdf