2010年4月13日火曜日

監視療法(active surveillance)

 NCI キャンサーブレティン2010年1月12日号(Volume 7 / Number 1) -米国国立癌研究所発行より
 http://www.cancerit.jp/recommendation_file_pdf/Cancer_Bulletin_PDF/100112.pdf

前立腺癌の治療において監視療法(activesurveillance)を普及させるためのこれまでで最も明確な要請が、NCCN(National Comprehensive CancerNetwork:全米癌総合ネットワーク)のガイドラインで示された。
改訂されたNCCNのガイドラインは、生命を脅かす病気へと進行する危険性が低い前立腺癌患者に監視療法を提供することを医師に求めている。

監視療法は、以前には「待機療法(watchfulwaiting, expectant management)」と呼ばれていたが、前立腺癌の診断後すぐに治療せずに、定期的な検査や診察を行って病状を綿密に観察することである。
監視療法にはPSA検査、直腸診(DRE)の他、前立腺生検を含めることができる。
もし、腫瘍の著明な増大、PSA 値の急激な上昇、生検における悪性度の上昇など病状が進行している徴候がい
ずれかの時点で認められた時は、手術や放射線療法などの根治的治療(definitive treatment)が行われる。

「前立腺癌治療委員会は前立腺癌の過剰診断や過剰治療を危惧しています」と委員会の議長でロズウェル
パーク癌研究所のDr.James L. Mohler 氏は説明した。昨年発表された前立腺癌検診についての2 つの
大規模臨床試験の結果、発見されなければ問題とならなかったであろう癌に対して重大な過剰診断と過剰
治療があったことが明らかになり、改訂を進める原動力になったと同氏は述べた。
「自分に前立腺癌があるとわかったほとんどの男性は何を望むでしょうか?彼らは癌がなくなることを望みま
す」とMohler 氏は言う。「あまりにも多くの男性が治療の副作用に苦しんでおり、治療にかかる費用は社
会が負担しています。そして、それらのうちあまりに多くの治療が不必要なのです」。

改訂されたガイドライン(無料登録で利用可能)によると、監視療法は期待される余命が10 年未満の低リス
ク前立腺癌の男性に推奨されるべきである。低リスク癌とはPSA 値が比較的低く、腫瘍が小さく前立腺の
片側に限局し、グリーソンスコアが低い低悪性度のものをいう(表を参照)。
また、ガイドラインは臨床的に問題にならない前立腺に対して超低リスクという新しい分類を定めた。期待される余命が20 年以下でこのカテゴリーに分類される男性の好ましい管理手段として監視療法の提案のみを推奨している。


低リスク◇(期待余命・10年未満に適応)
◇適応
・癌ステージ:T1-T2a
・癌悪性度:グリーソンスコア2-6
・PSA 値:<10 ng/mL
◇必要な検査
・6 カ月に1 回 PSA 検査
・12 カ月に1 回 直腸診

超低リスク(期待余命・20年未満に適応)
◇適応(低リスク条件のすべてと次の条件を満たす場合)
・生検陽性コア<3 か所、各コアの癌細胞≦50%
◇必要な検査(低リスクの場合に同じ)


監視療法は適した患者には明確な利益があるが、この治療方法を選ぶ過程や決定は容易なことではないと、ガイドライン委員会は指摘した。頻回の診察や検査が必要であることに加えて、病気の全過程を考えると、癌が進行していないか注意して見守っていくということは、ついには癌が進行し、治癒の見込みが少なく重大な副作用のリスクがある治療をしなければならなくなる可能性があることを意味する。
また、迅速に根治的治療を行うことが現在もまだ根強いことを考慮すると、医師が改訂されたガイドラインに
どのように対処するかも問題である。例えば、2009年1 月にNew England Journal of Medicine 誌に
よって、低リスク前立腺癌の63 歳男性の模擬症例を提示して行われたオンライン投票によると、米国の投
票者(医師が全てではない)のうち約70%が好ましい治療選択として監視療法よりも放射線療法や手術を
選んだ。
この推奨が「治療の傾向を大きく変える」かどうかは不確定であるとGodley 氏は述べた。しかし、「低リスク患者に自ら監視療法を行う医師や、それを施行する病院へ患者を紹介する医師にとっては、行いやすくなる
でしょう」と同氏は付け加えた。

低リスク前立腺癌の治療について、監視療法(activesurveillance)、外科手術、放射線療法などのさまざ
まなアプローチがいずれも同程度の全生存率および再発率になる、との結論が新たな効果比較研究で出
されている。しかし、本研究で用いた経済モデルによると、監視療法は65 歳以上の男性では即時的な治
療と比較して健康上の純利益および質調整生存年(quality-adjusted life years, QALY)が高いという。