2015年1月31日土曜日

監視療法

(前立腺がんガイドブックの監視療法の項目を修正しました・・・以下、本文)

低リスクがんの場合、10年生存率は治療を行っても行わなくてもほとんど変わらないと言われています。
つまり、特別な処置をしなくても健康なまま天寿を全うできる可能性が高いので、病態の進行や変化をすばやくキャッチして臨機応変に対処できるだけの体制さえ整っておれば、積極的な治療をせずフォロー(監視)だけで様子を見るというのも賢いやり方かも知れません。
ただ、「がん」という言葉を始めて聞いた人の多くは、体内にがん細胞があるというだけで冷静さを失い、人生最大の危機に巡り合わせたように思って治療を急ぐ傾向があるのですが、積極的な治療にはかならず副作用がついて廻ります。
低リスクの場合には、がんの進行によって命が脅かされるリスクと、積極的治療によって副作用を被るリスクを比較すれば、後者のリスクのほうが明らかに高いと思われる場合も多いので、適切なフォローすなわち”監視療法”という「治療法」が選択肢の一つとして積極的に評価されるようになってきました。

米国ではPSA検診の普及が進み、実に8~9割の人がそれを受けていますが、近年、PSA検査でごく初期の小さながんが見つかる確率が増えてきて、それが過剰検診や過剰治療につながる恐れが顕著になってきて、医療費の抑制も併せて考えると、この際PSAを検査を止めてしまうのが近道であるという考え方がでてきました。
しかし、PSA検診の要否については、検診率が2割にも届かない我国と同列に論じて良いものかどうかははなはだ疑問の残るところですが、少なくとも共通問題として捉えておくべきことは、「低リスク」のがんでは、必ずしもがんを死滅させる積極的治療が第一選択とはかぎらないということで、不要な治療を受けることによって失うものもある。時によってはそれが一生抱えて生きなければならない重大な副作用であるかも知れないわけです。
 ”PSA監視療法”というのは、定期的にPSAの動向を見守ると共に、必要な時には針生検(MRIがこれに代わる時代がまもなく来ると思いますが)も行い、病態の進行を監視するもので、低リスクなら、まずはこの可能性を探ってみるべきでしょう。

NCCNガイドラインでは「超低リスク」という概念を設け、これに相当するなら年齢に関係なく、監視療法が第一選択であると明言しています。
しかし、日本の医療機関では、まだこの監視療法をあまり患者には詳しく説明しない所も多くあり、患者が監視療法という選択肢をしらないまま、なんらかの処置を望んだ場合(患者に余程の予備知識がない限り、そう思う方が自然です)安易に手術や放射線治療を勧めたり、内分泌療法を行うケースも多いと思われます。
「初期のがんですから、切ったらすぐ治ります。」などと言いながら手術を勧められ、性機能不全や排尿障害の後遺症に悩むというのは、過剰治療の最たるものですが、一生続く場合もある日常の不幸にじっと堪え、それでも恨み辛みを言うわけでもなく、命が助かった代償なので仕方がないと思って諦めて、手術をしてくれた医者に感謝するという、なんとも複雑で哀しい現実があるわけです。
「がんより怖いがん医療」(近藤誠)というのは、中身はともかく、おそらくこのようなことを言いたいのでしょうね。

積極的な治療には、多かれ少なかれ二次的な障害(副作用)を被る危険性があるわけですが、目の前に「がん」という言葉を付きつけられれば、たいていの患者は動揺し、治療後長く続くかもしれない副作用の重大性になかなか気付かないケースが多いわけです。
期待余命の長さが10年以内(概ね75歳以上)なら「中リスク」でもこの監視療法が成立します。
期待余命が5年以内と目される高齢患者はもちろんのこと、他に重い病を抱えているような人は、もっと積極的に監視療法を選択肢に加えても良いのではないでしょうか。
恐れるべきがんであれば、早期にしかるべき治療を受ける必要があるのはもちろんですが、ほとんど恐れる必要のないがんを恐れるあまり、自分自身に一生取り返しのつかない傷をつけてしまうこともあるわけです。

「動かざること山の如し」・・・ ” 何もしないという勇気 ” を持つということも、時には必要なことかも知れません。

2015年1月27日火曜日

双極性アンドロゲン療法(bipolar androgen therapy)

 「Science Translational Medicine」2015年1月7日号

前立腺がん細胞にとってアンドロゲン(男性ホルモン)というのはいわば「餌」。
その「餌」を奪って前立腺がん細胞を弱らせるというのがホルモン量の定番だが、それを続けているとやがてCRPC(去勢抵抗性前立腺がん)となり、アンドロゲンがほとんどなくても生きていけるしぶといがん細胞に変質する。

しかし、CRPC患者に常識では禁避ともいえるテストステロン(アンドロゲンの95%は精巣で作られるテストステロン)を与えるという大胆な臨床試験を行ったグループが居た。
ワシントン大学のMichael Schweizer氏、ジョンズ・ホプキンス大学のSamuel Denmeade氏らのグループで、去勢抵抗性に陥った前立腺がん細胞に高いテストステロンを浴びせかけるというショック療法で一発逆転を狙うもの。
小規模な臨床試験ではあるが、実に驚くべき発想であり、コロンブスの卵を彷彿させる。

その結果、テストステロン値を急激に上下させると、ホルモン療法に対する前立腺がんの反応性を取り戻せる可能性が示唆された。
さらに、被験者の男性にとっては、テストステロン値の回復により、ホルモン療法によるさまざまな副作用が軽減し、あきらめていたセックスが可能になったという喜びの声もあったとか。
テストステロンの過剰供給と枯渇を繰り返すこの治療法は
双極性アンドロゲン療法と名付けられた。
ワシントン大のMichael Schweizer氏は、CRPC(去勢抵抗性前立腺がん)患者の新たな治療法につながる可能性があると述べている。

被験者は、痛みなどの症状の伴わないCRPC(去勢抵抗性前立腺がん)患者16人で平均4年間標準的なホルモン療法を受けていた。
化学的(薬物)去勢を行いながら4週ごとにテストステロンを投与するという双極性アンドロゲン療法を実施した。テストステロン値は標準範囲を超えて上昇、その後徐々に低下し化学的去勢レベルまで下がることを繰りかえす。
その結果、7人は寛解、4人は腫瘍が縮小、1人は腫瘍が消失したという。
全体的に見れば、約半数の患者にPSAの低下とがんの縮小が認められた。

前立腺がん細胞には、元々アンドロゲンに対する依存性が高いものと低いものが混在しているが、通常のホルモン療法(アンドロゲン枯渇)を継続すると、徐々に依存性が高いがん細胞死滅し、依存性が低いものが増えて行く。
CRPCというのは、時間の経過と共に大部分の前立腺がん細胞が依存性が低いものに置き換わった状態であり、低レベルのテストステロン環境に馴染んだ前立腺がん細胞にとっては、その環境がぬるま湯のように思えていたのに、テストステロンの急激な増加という熱湯(冷水?)を浴びせられると、驚いて死滅することがあるらしい。
また、僅かに生き残っていたテストステロン環境を必要とする前立腺がん細胞は、それで一旦喜びほっとするものの、テストステロンがまた下がってくると、環境の変化についていけなくなり死滅することもあるらしい?!
興味ある報告だが「敵」もさるもの、そのような環境変化のパターンを学習するのか、結局7ヶ月後ぐらいにPSAは再び上昇を始め、新たな腫瘍の増殖が確認されたという。

双極性アンドロゲン療法は初期治療には適さず、長期的な効果もまだ判っていない。
テストステロン値の変動によりがんが増殖して死期が早まる可能性を指摘する専門医も多いので、現時点ではかなり危険な挑戦であることは間違いなさそうだ。
より大規模な試験で、この治療法の効果を確認し、安全に適応できる患者を識別する必要もあり、臨床への応用までには、まだしばらく時間が必要だろう。

2015年1月18日日曜日

NCI臨床試験(前立腺がん):海外癌医療情報リファランスより

海外癌医療情報リファランス(http://www.cancerit.jp/)の「NCI」関連ページより、
前立腺がんに関する臨床試験の結果報告(≠日本)を抜粋させていただきました。

タイトルは内容が判りやすいよう、適宜変更を加えています。

2014年7月15日
エンザルタミドは転移性前立腺癌患者の生存を改善する
http://www.cancerit.jp/28699.html

2013年9月22日
フィナステリドは前立腺癌リスクを低下させる
http://www.cancerit.jp/23756.html

2013年8月26日
ラジウム223は進行性前立腺癌患者の生存期間を延長する
http://www.cancerit.jp/23365.html

2011年8月19日
早期前立腺癌には全摘除術か経過観察か
http://www.cancerit.jp/7207.html

2011年8月8日
限局がんでは放射線単独より短期ホルモン療法併用のほうが生存期間を延長する
http://www.cancerit.jp/6415.html

2011年4月21日
進行前立腺癌に対しatrasentan(第3相臨床試験)の有益性は示されず
http://www.cancerit.jp/2498.html

2011年4月13日
進行性前立腺癌においてデノスマブの骨関連事象抑制効果はゾレドロン酸に優る
http://www.cancerit.jp/2481.html

2011年4月13日
PSA上昇速度によって前立腺癌の検出精度は向上しない
http://www.cancerit.jp/2472.html

2010年7月8日
局所進行前立腺癌ではホルモン療法単独より放射線併用のほうが生存期間を延長する
http://www.cancerit.jp/9509.html

2010年4月12日
デュタステリドは前立腺癌リスクを低下させる
http://www.cancerit.jp/9156.html

2010年3月15日
放射線療法は高線量照射のほうが前立腺癌の「生化学的再発」が減少する
http://www.cancerit.jp/9138.html

2010年2月25日
3種類の薬剤に前立腺癌のホットフラッシュ抑制効果を確認
http://www.cancerit.jp/9131.html

2009年10月28日
デノスマブは前立腺癌治療中も強骨度を維持
http://www.cancerit.jp/9102.html


2015年1月3日土曜日

既存肝炎治療薬にがん転移抑制効果?!

こんな情報が流れてます。(米科学誌 Journal of clinical investigation 2015年1月2日)
中山敬一・九州大教授(分子医科学)らのチームによると、既存の肝炎治療薬(プロパゲルマニウム)にがんの転移を抑制する効果があるらしい。
マウス実験の段階なのでまだ実用化については何とも言えないが、副作用が少ない薬なので期待が持てるという。

がんが転移すると、細胞のまわりに「がんニッチ」と呼ばれる正常な細胞の集団ができ、免疫機能の攻撃からがん細胞を守るバリヤーの働きをして?、がん細胞の成長を助けることが判ってきた。
乳がん患者の血液分析から、特定の酵素(Fbxw7)が少ない人はがんを再発しやすいことを確認。この酵素を減じるよう遺伝子操作をしたマウスにがん細胞を移植したところ、がん細胞の周りにある線維芽細胞からCCL2というたんぱく質を分泌し、これが白血球の一種「単球」を呼び寄せることによりがんニッチを形成、がんの転移を早めていることを、世界で初めて突き止めた。
CCL2というたんぱく質は、B型肝炎ウイルスが炎症を起こす仕組みにも関係しているので、慢性肝炎治療薬として使われているプロパゲルマニウムをマウスに投与してみたところ、乳がんの転移はほぼゼロに、悪性の皮膚がんの転移は3分の1以下に抑えられたという。
中山教授は「承認されるまでに早くて5年。使用はそれまで待ってほしい。
がんの摘出手術に前後して服用を始めれば、再発や転移を防げるはずだ」と話している。

すぐに飛びつきたい気分の方も居られるとは思いますが、
ここは落ち着いて今後の進展を見守るべきではないでしょうか。

2014年12月11日木曜日

カバジタキセルの重篤な副作用に注意!

2014年に新しく承認された抗がん剤カバジタキセル(ジェブタナ)で、5人の死亡例があったことが確認された。

9月の販売承認以降、計約200人に投与され、12月3日までに40人でこの症状など重い副作用が報告され、うち60~70代の男性5人が発熱性好中球減少症が原因と思われる敗血症などで死亡した。
内4人は1サイクル目(6~8日目)で死亡している。
好中球(*)の減少という副作用は、薬の添付文書にも記載されており、感染症患者らに投与しないように警告されているが、この薬を販売するサノフィは、ジェブタナを使う場合は、患者の感染症の確認はもちろん、初回投与後から血液検査を頻繁に実施し、特に発熱の有無などに注意を払うなど、医療機関に対しより一層の注意を呼びかけている。
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/kigyo_oshirase_201412_1.pdf

注) 
好中球:白血球の一種で生体内に侵入してきた細菌や真菌類に対し遊走性を示し、
   炎症部に集合して、貪食、殺菌、分解を行うことで感染を防ぎ、生体を防御する。

         
                               *

イレッサでは、副作用が少ない「夢の抗がん剤」などといううかれた前評判もあり、使用上の注意を甘く見て、抗がん剤を専門としない医師の処方によることも多かった結果、600人以上が亡くなるという惨事を引き起こしている。
これは大きな訴訟事件となったが、これ以来、我国の新薬承認が慎重になり、常に他国より数年遅れることが普通になってしまったのは負の側面と言える。一方、このたび早期にこのような警告が出されたことは、イレッサの良い教訓のひとつと解釈しても良いのではないか。
副作用マネージメントというのは、本来腫瘍内科医が得意とするところですが、これまでドセタキセルぐらいしか経験のない(ドセタキセルの投与方法は統一されておらず、それぞれの医療機関でやり方が異なっている)泌尿器科医が、抗がん剤の専門家と同様に、副作用に対し、適切かつ速やかな処置を行えるかどうかという問題点が、なお残っているように思われる。

2014年12月5日金曜日

PSA検査の方向性(新ガイドライン)について

PSA検査に関しては賛否両論、前立腺がんの診療と有害な副作用の懸念とのバランスが難しく、国際的な意見の統一とガイドラインの整備に対し、多くの期待が寄せられているわけですが、UICC(国際対がん連合)は、2014年12月3~6日にメルボルンで開催されたWCC(世界がん大会)の前に(公開協議を行う必要もあり)、世界で最も総合的に検討された「前立腺がん検診ガイドライン」を発表した。
参照:http://prw.kyodonews.jp/opn/release/201412046062/
原文:http://wiki.cancer.org.au/australia/Guidelines:PSA_Testing     

主な内容は次の通り。

(前立腺がんの可能性はあっても、兆候の無い男性に対して)
 ・定期的なPSA検査を希望する男性に対しては、PSA検査の恩恵と副作用を知った上で、
  50歳から69歳までは2年毎の PSA検査を提案し、PSA ≧3.0 ng/mL の場合は、
  さらに詳しい検査を推奨する。
 ・前立腺がんの早期診断のために検査を受ける男性に対しては、
   初期の診療時においては直腸指針を推奨しない。
 ・期待余命7年未満の人には PSA検査は推奨しない。
 ・PSA検査を受けるか否かを迷っている男性に対し、
   PSA検査の潜在的な恩恵とリスクについて話し合うなど、決断のサポートを行う。

(監視療法)
 ・以下の基準のすべてに合致する前立腺がんを患う男性に監視療法を提案します。
    PSA ≦20 ng/mL、臨床病期 T1-2 および グリソンスコア 6。
(待機療法)
 ・治癒可能な前立腺がんを患い、待機療法を検討する男性には次のようなアドバイスをする。
  前立腺がんの進展の恐れとそれによる死のリスクは、根治療法より高いかも知れないが、
  中~長期で見ると、待機療法の方が幸福感および生活の質を損なうことは少ないだろう。

PSA検診を50~60代では維持・継続しながら(ただし毎年ではなく2年毎)、70歳以上の高齢者には不要とし、監視療法の枠も大幅に広げています。(特にPSA≦20はかなり思い切った数値ではないでしょうか・・・ちょっと驚きました。)
監視療法をもっとルーズにした待機療法についても、メリットを認めて推奨しており、直腸指針を推奨しないことも合わせて、なんらかの副作用を伴う診断や治療行為を控えて、できるだけ過剰診療を減らそうという試みも行われています。

PSA検診に反対の立場を取る米国PSTF(予防医学作業部会)の構成員は、前立腺がんの専門医が含まれず、公衆衛生の専門家ばかりだったということですが、このガイドラインの起案にあたったオーストラリア専門家審議会には、公衆衛生の専門家以外にも一般開業医、泌尿器科医、病理学者、患者支援グループ、コメディカル職員などほぼ全ての職種が含まれています。

PSA検診を無料にすべきとか、がん検診の必須項目にすべきだとか、実施市町村の拡大を図るべきだとか、PSA検査を受けましょうと、声を大にして叫ぶのも違和感があり(前立腺がんの患者会としては、この方向が一番意見の統一を見やすいと思いますが)、これには一定の距離を置いてきました。
8~9割の男性がPSA検査を受けている米国と、2割に満たない日本とを同じ土俵で評価し、日本でもPSA検査を止めるべきというのは、完全に的外れだと思っています。
国立がん研究センターでこれに関わる某先生などは、患者団体の集まりにおいて、根拠のない検診は推奨しないというよりも止めるべき!とはっきりおっしゃいましたが、「止めるべき!」という発言に対しては、多少の反論をさせていただいたこともありました。
「根拠」なんていうものは、要するにどの説(論文)を尊重するかによって決まるので、本質的にはある程度、融通(操作)が効くものと理解しています。
「生存率を延長する明白な証拠がない」というのは、
医療費抑制という大きな流れの中で決められた方針であり、「生存率を延長しない証拠がある」というわけではありません。要は状況(政治的)判断しだいでどうにでもなるグレーゾーンであるということです。
日本泌尿器学会の解説では、まったく逆の説明になっていますが、多くの異なる論文があれば、採択の仕方や比重の置き方で、結論はどうにでもなるということですね。
ここに来てやっとこれまで抱いていた私の思いに近い形で、合意を求める動きが出て来たようで、良い傾向だと嬉しく思っています。

2014年12月1日月曜日

ゴナックスはリュープリンやゾラデックスより効果に優る


カナダトロント大学のローレンス クロッツ氏らは、デガレリクス(ゴナックス:LH-RHアンタゴニスト)に関するランダム化試験5件のデータを集計し、(計1925人=デガレリクス:1266人+LH-RHアナログ:659人)プール解析を行ったところ、全生存率とPSA無増悪生存率(PSA PFS)は、デガレリクス(ゴナックス)のほうがLHRHアゴニスト(我国で使われているのはリュープリンやゾラデックス)より優れていることが判明した。
(European Journal of Urology誌 2014年12月号)

ゴナックス(LH-RHアンタゴニスト)はリュープリンやゾラデックス(LH-RHアゴニスト)に比べ、全生存率で53%(p=0.023)、PSA PFSでは29%(p=0.017)高いことを示した。さらに有害事象を比較すると、関節関連症状(p=0.041)、筋骨格イベント(p=0.007)、尿路感染(p=0.023)などは有意に少なかったが、ほてりや注射部位の反応を含む全ての有害事象の発生率は、ゴナックスの方が少し高かった(74%と68%、p=0.002)。
 参考:
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/news/201411/539643.html

2014年10月29日水曜日

プロベンジの保健適用について

プロベンジ(Provenge、一般名:シプリューセル‐T)という、免疫療法(注①)を応用した前立腺がん治療ワクチンが、2010年4月に世界で初めてFDA(米国医薬食品局)によって承認されたことは、当時大きく報じられました。
プロベンジは全く新しい機序の薬であり、FDAに提出された治験結果でも、深刻な副作用はなく、標準治療に比べ4.5カ月の延命効果があったというもの。
しかし、薬効評価基準の1つである腫瘍縮小効果は見られていないなど、評価の判定が非常に微妙で(延命効果にも統計処理上の疑惑があったという情報も一部で流れているようです)審議においても意見が分かれ、すぐには決まらなかったという経緯もあったので、我国では、薬価(注②)の高いことも相まって、かなり距離をおきつつ高みの見物を決め込んでいたようですが、つい最近(2014年10月)、英国では「プロベンジに対し保健適用はしない」という方針が打ち出されたようです。
英国立医療技術評価機構(NICE)はプロベンジに対し、NHS(英国民保健サービス)の適用を推奨しないと決定したというニュースが流れてきました。
推奨しない理由として、他剤と比較して、効果発現までのエビデンスに不明確さが残る、既存療法と違って疾患の進行の遅延を示すエビデンスがない、などいくつかの理由があげられています。
プロベンジも我国の未承認薬のひとつですが、これについては、患者の立場としても、安易に保健適用を求めることはやはり慎まねばならないと思っています。
保健適用を求めるなら、順序としては塩化ラジウム223が先でしょうね。これも相当高額の薬だそうですが(^^;;;

*注①:免疫系に働きかけてガン細胞を攻撃させ、初期治療後の再発や転移を防ぐもの。もう少し具体的には、
白血球除去輸血により患者の白血球(樹状細胞)を採取、ワクチン作製に必要なタンパクの
一種PAP(前立腺酸性フォスファターゼ) を混合させ、その白血球を体内に戻す免疫療法。

*注②:価格は、標準的な3回の投与で900万円近くになると言われています。

2014年10月28日火曜日

エンザルタミド(イクスタンジ)の使用時期について

CRPC(去勢抵抗性前立腺がん)患者に用いるエンザルタミド(イクスタンジカプセル)の使用タイミングについては、これまでは、効能・効果の使用上の注意を表す添付文書に、「化学療法未治療の前立腺がんにおける有効性および安全性は確立していない」という文言が記されていたため、化学療法未治療患者への使用は、明確には認められておらず、保険適用においても都道府県によって扱いが異なる「グレーゾーン」でしたが、「化学療法歴のない場合も有効である」という海外で行われた臨床試験の結果を踏まえ、添付文書の上記の文言の削除が決まり、「プレ・ケモ」(化学療法以前)段階における使用がはっきり認められました。

これまでは、アビラテロン(ザイティガ)は発売時から化学療法未治療患者にも使用可能だったので、適応のタイミングにおいてアドバンテージがありましたが、今回の改訂でエンザルタミド(イクスタンジ)とアビラテロン(ザイティガ)の適応条件はまったく同等となりました。
この決定までにはもう少し時間がかかるかと思っていましたが、このたびの対応は早かったですね。

根拠となった臨床試験というのは、化学療法歴のない去勢抵抗性前立腺がん患者を対象に実施された国際共同第3相試験(PREVAIL)のことで、872人をプラセボ群またはイクスタンジ群に割り付け、全生存期間を比較した結果、中央値がプラセボ群30.2カ月に対してイクスタンジ群では32.4カ月とイクスタンジ群で有意に延長することが判明したもの。
中央値が2年6か月から約2カ月延長されるのは「益」には違いありませんが、その間の副作用の大小(QOLの損傷)は、中央値の比較で決まるものではなく、実際には人によって大きく異なるはずなので、そのあたりを考えながら、新薬と向き合う必要があるのではないでしょうか。

それを考えるためにも、効能と副作用の関係、患者のQOLについてもっと多くの事例を知りたいものです。

2014年10月22日水曜日

エンザルタミドに新たな副作用

アステラス製薬の前立腺がん治療薬イクスタンジカプセル(エンザルタミド)で、 新たな副作用として、血小板減少症が7例が確認(因果関係が否定できない症例)されたため、 厚労省は、使用上の注意に「重大な副作用」として明記するよう指示を行った。

2014年10月19日日曜日

陽子線治療の保健適用について

現在先進医療となっている陽子線治療に対し、保健適用を求める動きがあるが、前立腺がんの治療に限れば、必ずしも必須とはいえない治療法なので、安易に同調すべきでないと考えています。
将来の副作用が重大問題とされる小児がんに対しても、全脳照射や全脊髄照射についてはその通りだが、その他の小児腫瘍については十分議論を尽くす必要があるのではないでしょうか。
参考までに、私がセミナー用として作ったスライドを紹介しておきます。


2014年10月16日木曜日

くるみと前立腺がん

2014年10月4日、JPタワー ホール&カンファレンス(東京・丸の内)で開催された第36回日本臨床栄養学会総会・第35回日本臨床栄養協会総会 第12回大連合大会で、SAC(Scientific Advisory Council)の主要研究者が来日し、彼らの研究の成果を特別シンポジウム「エビデンスに基づく栄養学:くるみと健康に関する研究」として発表しました。
コネチカット大学分子細胞生物学准教授のチャールズ・ジャルディーナ氏は「がん予防に向けた食事勧告の根拠となるエビデンス」と題した講演で、くるみを1日2オンス(56グラム)食べると前立腺がんの発生と進行を防ぐことを示した研究を紹介しました。この研究はテキサス大学保健科学センターサンアントニオの研究者らによるもので、くるみを加えない食事を与えられた対照群マウスでは前立腺がんの腫瘍の発生率が44%だったのに対し、くるみを加えた食事を与えられた実験群マウスでは18%に抑えられることが明らかになりました。
(参照) http://informahealthcare.com/doi/abs/10.3109/07357907.2013.800095

人で試されたわけではないので、現段階ではなんとも批評のしようがありません。
前立腺がんに●●●が効くという話しは、次々出て来ますが、一時的にブームになるようなことがあっても、やがて興味が薄れ、忘れ去られてられていく運命にあるようで、くるみもそのような道を辿るのではないでしょうか。

2014年10月10日金曜日

mCRPC(転移性去勢抵抗性前立腺癌)のガイドライン:ASCO他

mCRPC(転移性去勢抵抗性前立腺癌)の治療に関する新たなガイドラインが、2014年9月、
米国臨床腫瘍学会(ASCO)とキャンサー・ケア・オンタリオ(CCO)の連名で発表されました。
ガイドラインの主な推奨内容は次の通り。

・期限を設けずにアンドロゲン除去療法(内科的または外科的)を継続。

・アンドロゲン除去療法に加えて、アビラテロン+プレドニゾン、エンザルタミド、
 またはラジウム223(骨転移を有する患者)・・・生存期間の延長とQOLの向上、
 及び、リスクに劣らないベネフィットが期待できる。
・化学療法を検討するなら、まずは ドセタキセル+プレドニゾン。(副作用に注意)
・次にカバジタキセル。(副作用に注意)
・症状がほとんどなければシプロイセルT(プロベンジ)
・効果は小さいが、ミトキサントロン。(副作用に注意)
・これも効果は小さいが、
 ケトコナゾールや抗アンドロゲン薬(ビカルタミド、フルタミド、ニルタミド)。
・ベバシズマブ、エストラムスチン、スニチニブは投与すべきではない。
・全ての患者に対し早期に緩和ケアを提供。

さらに要約すると、効果がはっきり実証されているのは次の6つと言えるだろう。

①アビラテロン+プレドニゾン、②エンザルタミド、③ラジウム223、
④ドセタキセル+プレドニゾン、⑤カバジタキセル、⑥シプロイセルT。
ただし、我国では③と⑥は未承認。
効果が多少期待できるかも知れないのは、
⑦ケトコナゾール、⑧抗アンドロゲン薬(ビカルタミド、フルタミド、ニルタミド)
ただし、⑦ケトコナゾール と ニルタミドは我国では保険適用がなく、事実上使えない。

米国では、女性ホルモン系のエストラムスチン(エストラサイト)は投与すべきでないとされているが、我国では心血管系の副作用が米国ほど多くないので、プロセキソールやエストラムスチンはしばしば用いられている。

我国では、べバシズマブ、スニチニブは前立腺がんでは使用が認められていない。
緩和ケアは(広義に解釈すれば)できるだけ早期からの提供が望まれる。

合同ガイドラインという割には、案外シンプルで、特に注目すべき点は見当たらない。

日米で使える薬が違うのも、今に始まった問題ではない。

2014年10月9日木曜日

AR-V7(アンドロゲン受容体 Splice Variant 7)

大腸がんでは、全生存期間(OS)の予測は、血中循環腫瘍細胞(CTC)数に関連することが判ったという報告が最近ありましたが、(Journal of gastrointestinal and liver diseases誌2014年9月号)
前立腺がんでは、どうなんだろうと思いながら調べてみたところ、2014年AACR(米国腫瘍研究会) ではこのような発表がなされていました。 
既に見たことのある発表でしたが、内容が、遺伝子(RNAの変異)に関することで、一見用語が難しく思われたので、とりあえずスルーしていたのですが、よく読んでみると非常に重要なことが書かれていました。
http://www.nejm.jp/abstract/vol371.p1028

去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)では血液中循環腫瘍細胞(CTC)におけるAR-V7(AR Splice Variant-7=アンドロゲン受容体スプライスバリアント 7) の発現が20倍程度まで上昇するという報告もなされていますが、AR-V7ではAR阻害薬が結合できる部位が欠けているため、理論的にはAR阻害薬は無効となると言われています。
そこで、実際にCRPC患者をエンザルタミドとアビラテロンの2群に分け、血液中循環腫瘍細胞(CTC)におけるAR-V7 の発現状況と、その効果(抵抗性)のほどを調べてみたという報告で、少し手間をかけて一覧表にまとめてみるとこのような結果となりました。



注目すべきは、エンザルタミド、アビラテロンとも、AR-V7の発現があれば、PSAの反応(降下)はゼロ、つまりほとんど効果がないということになります。
AR-V7の発現が陰性だった患者では、いずれも過半数(エンザルタミド53%、アビラテロン68%)で効果が見られましたが、陰性でも効果がないという場合もあるわけです。
無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)でも陽性と陰性でははっきり差がついているようです。
ならば、AR-V7の発現の有無が手軽に調べられれば、無駄な投与が減らせると思うのですが、一般的にはこのような検査をやっている事例というのは、まだ耳にしたことはありませんし、現時点ではこのような解説を、患者に対してしてくれる専門医にも、まだ出会ったことはありません。
AR-V7の遺伝子検査は、日本ではまだほとんど実用化されていないと思われます。
しかし、逆にこうしたアンドロゲンレセプターに異常がある場合には化学療法が奏功しやすいという報告もあるので、これらの薬が有効でないと判った場合には、すみやかにドセタキセル(タキソテール)やカボザンチニブ(カバジタキセル)などの抗がん剤を検討するべきでしょう。 

前立腺がんに関しては、個別医療ではまだまだ遅れを取っていると思われます。
これはまだ小規模試験なので、これでAR-V7の発現率がどのくらいかは(62例中では約3割)良くわからないと思いますが、AR-V7の発現があれば、新しいホルモン療法の薬であっても、あまり期待がもてないということはまず間違いはなさそうです。
少し乱暴な計算ですが、全CRPC患者のAR-V7の陰性率を約7割とみなすなら、エンザルタミドが有効なのは約5割、アビラテロンが有効なのは約6割ということになります。

一方を使用して効果があった場合でも、やがて耐性を生じ、薬が効かなくなった後に、もう片方の薬を使ってもまた新たな効果が望めれば良いのですが、多くの場合交叉耐性(1種類の薬剤に対して耐性を獲得すると同時に別の種類の薬剤に対する耐性も獲得することをいう。一般に化学構造や作用機序が類似している薬剤間で生じる。)が生じて、効果が期待できなくなるようです。
これら2種の新薬はどちらかを選ぶことはできても、両方の恩恵には授かることはほとんど期待できないということのようです。
しかし、従来のホルモン療法とドセタキセルを組み合わせるだけでも、大きな効果が出ていることもあるように、他のがんでも、複数を薬を組み合わせると、意外な効果があると言う場合もめずらしくないようなので、そのあたりの臨床試験の進展にも今後期待を寄せたいところです。

これらの薬の承認は欧米より約3年遅れましたが、このタイムラグはこれらの薬の使い方の研究にもそれだけの遅れが生じているということで、このままだといつまでも米国などの後追いが続くのでしょうね。

2014年9月26日金曜日

ペプチドワクチン(免疫療法)臨床試験のお知らせ

前立腺がんを対象としたペプチドワクチン(免疫療法)の第III相臨床試験が始まっています。
市中のクリニックなどで自由診療(保険対象外)として行われている免疫療法は、高額な割にはほとんど効果が見られないという評も多いようですが、それとは異なる免疫療法の研究が、長年地道に進められてきており、このペプチドワクチン療法も、これまで行われた治験でもなかなか良い成績をあげているようで、副作用も少ないということです。

ランダム化比較試験(RCT)となるので、たとえ申込んでも、必ずしも本物のペプチドワクチンに当たるとは限らないのですが、それでも試してみようと考えておられる方は、詳細を良くお読みいただいた上で、ご自分でお申込みください。
http://fujifilm.jp/business/healthcare/medicine/vaccine_trial/


去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)の薬物療法プロトコール

去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に対する薬物療法の選択について、症例毎の優先順位を一覧表にしてみました。
米国泌尿器科学会のガイドラインを参考にしつつ、我国の事情に合わせ、適宜アレンジをしたものです。
女性ホルモン系薬剤については、米国では心血管疾患の副作用が懸念され、ほとんど使われておりません。ステロイドについても同様ですが、日本ではしばしば用いられてきました。

我国ではこのような基準がないので、どの薬をどの順序で飲むかということに関しては、基本的には、主治医と患者の話し合いで決まると言ってもいいでしょう。
新薬が出たからこそのうれいし悩み?かも知れません。
新薬の登場により、ドセタキセルが最後の砦であった時代は、ついに終わりを告げたわけですが、その新薬をドセタキセルの後で使うか、前に使うかという判断は、保険適応もからむのでちょっとややこしい様相を呈しています。
アビラテロンは、ドセタキセルの前後いずれでも認められていますが、エンザルタミドに関しては、ドセタキセル未使用の患者に対しても、保健扱いするかどうかは、それぞれの都道府県単位の判断にまかされているのが現状のようです。これまでに発表された臨床試験のデータからすれば、プレケモとして(ドセタキセルより先に)用いても良い結果がでているので、なんとか保健適応が可能な方向で、日本全体で統一していただきたいところです。

2014年9月25日木曜日

前立腺がんフォーラム(2014-9-23)を終えて

「前立腺がん情報は正しく患者に伝わっているか」・・・このようなことは、これまで何度も指摘させていただきました。国立がん研究センターの「がん情報サービス」も、2006年以来一度も更新されない状態が昨年まで続いていたわけですが、情報伝達そのものの伝達をおろそかにしていたということもあるでしょうが、そのような古い考え方のほうが、手術好きの先生にとっては都合が良いというのも、改訂が長らく放置されてきた原因の一つだったのではないでしょうか。治療法の選択の物差しは、古くは病期中心であり、生存率で、手術を放射線治療が追いかける状態が続いていましたが、現在は、病期以外にリスク分類の重要性が叫ばれ、治療法の選択の物差しは生存率から非再発率に移りつつあります。「がん情報サービス」も、極端な手術優先と小線源軽視の内容は改訂後影を潜めましたが、当たり障りのない最小限のものであり、依然として古い概念から脱却できてはおりません。シンポジウムでそれぞれが担当した分野は概ね次のようなものでした。

 伊藤一人先生:PSA検診と診断に関して。
 齊藤史郎先生:手術から放射線治療までを全般的に。リスク分類の解説も。
 岡本圭生先生:放射線治療、特に小線源とトリモダリティについて。
        非再発率と初回治療の重要性も。
 ひげの父さん:治療法の選択で注意しなければならない点について。
        セカンドオピニオンと新薬の話も少し。

・治療法を決めるのは生存率より非再発率
・キャンサーフリーを目指すなら初回治療が大切。
・病期だけじゃなくリスク分類を重視すべき。
・限局がんと診断されても、実際はそうとは限らず、
 リスクが高いほど、浸潤がんである可能性が大きくなる。
・前立腺がんの手術では、その構造上(直腸、膀胱、尿道括約筋、神経血管束などと接している)大きく切り取ることが難しいので、浸潤がんの場合には、手術より、ややはみ出して照射できる放射線治療のほうが有利となる。
・高リスクでは、同じ放射線治療でも、IMRTより「小線源療法+外照射」のほうが照射線量で優れている。
・患者は目の前の専門医の意見に流されやすい・・・セカンドオピニオンは必須。
・今年は3つの新薬が承認され、ドセタキセル以降の手詰まりにも希望の光が見えて来た。

このような考え方は、腺友ネットの掲示板を見ていただいている人であれば、すでにご存じだろうと思いますが、「がん情報サービス」には、ほとんど書かれていないことばかり。
しかし、欧米で信頼のあるNCCNのガイドラインには極めて近い考え方であり、どちらかと言えば「がん情報サービス」のほうが、ガラパゴスと言えるのではないでしょうか。
古い考え方(手術優先)から、なかなか脱却できない公的な医療情報サイトを尻眼に、公共放送のほうが先に、前立腺がん治療の、ここ10年の目覚ましい進歩に、興味を示していただいたということではないでしょうか。

シンポジウムで専門医と壇上に並んぶことは、これまでもなんどか経験はしていますが、前立腺がんに関する質問にはほとんど専門医が答え、私はたいてい「一患者」として体験にもとずいた意見を求められるだけというケースが、多かったわけですが、このたびは、「腺友ネット」による情報発信と、患者に対するサポート活動にも眼を向けていただき、(私と関わりのあった、お二人の患者さんにも、取材にご協力をいただきました。)専門医とほぼ同等の発言機会を与えていただいことは、特筆に値する出来事だと思っております。

2014年9月16日火曜日

新薬の使い方に関して


これまでのホルモン療法ではドセタキセル以降の手詰まりが最大の問題点であったわけですが、この突破口となるのが、これらの新薬の承認であり、もう一つは従来の治療法の見直しといえるでしょう。

ASCO2014で注目された発表(第Ⅲ相臨床試験)ですが、まだホルモン感受性のある転移性前立腺がんに対しては、従来のホルモン療法にドセタキセルを併用すれば、著しくOS(全生存期間)が延びることが判明しました。CRPC(去勢抵抗性前立腺がん)以前の段階でも、別の新しい選択肢が見えて来たわけです。

こうした従来の治療法の見直しと、相次ぐ新薬の登場とを合わせて考えると、今後のホルモン療法は一気に選択肢の多様化が進むわけで、2014年はまさに、薬物療法に頼らざるを得ない前立腺がん患者にとっては、新しい時代の到来と言っても過言ではないと思っています。

(米国では、2011年がこのような時代であり、我国では3年ほど遅れています)

以下は近畿大学病院泌尿器科植村教授のメディアセミナー(ヤンセン・アストラゼネカ、サノフィ)に関する複数の記事の報告を参考に、”ひげの父さん”がまとめなおしたものです。

                   *

前立腺がんには、外科的去勢や薬物去勢が施されるが、アンドロゲン分泌が抑制されているにもかかわらず、病勢が進行する状態をCRPC(去勢抵抗性前立腺がん)と呼ぶ。
早期のCRPCでは、抑制しきれていない副腎や前立腺がん細胞自身で作られるアンドロゲンにより、前立腺がんが悪化するため、さらにアンドロゲンを徹底的に抑制することが重要となる。

2014年、我国ではエンザルタミド、アビラテロン(ホルモン療法剤)、カバジタキセル(抗がん剤)が相次いで承認され、CRPC治療は新しい時代を迎えようとしている。
エンザルタミド(イクスタンジ)は、アンドロゲン受容体への結合を阻害する働きのほか、アンドロゲン受容体の核内移行とDNA結合を妨げ、活性化補助因子の動員を抑制する。
アビラテロン(ザイティガ)は、アンドロゲン合成酵素のCYP17活性を阻害する全く新しい作用機序の薬であり、早期のCRPCに対して、精巣・副腎・前立腺がん組織のすべてでアンドロゲン合成を抑制することにより、予後の改善が期待される。

しかしながら、CRPCにおける細胞増殖には、アンドロゲン非依存性の経路が存在するため、いずれホルモン療法によるアンドロゲン除去に抵抗性が生じてくる。
そのような場合にはドセタキセルが標準治療であるが、ドセタキセル後の治療選択肢として、このたびカバジタキセルが承認された。
アンドロゲン標的薬に抵抗性を示す患者さんも居るので、化学療法も重要な役割を持つ。

現在、アビラテロンだけが化学療法未治療のCRPCにも使用できるが、エンザルタミドも近く同様に使えるようになると思われる。

CRPC治療の今後の流れとしては、次のような手順が予測される。
 ①まずは、アビラテロンもしくはエンザルタミド。
 ②進行後にもう1つの薬剤を投与。(エンザルタミドもしくはアビラテロン)
 ③さらに進行した場合にドセタキセル。
 ④その後にカバジタキセル。・・・ドセタキセルによるしびれでADL(日常生活動作)が低下する
  ようなら、早めに切り替えても良い。

アビラテロンとエンザルタミドの使い分けについては、現状では大きな差はなさそうだ。

いずれにも目立った副作用はなさそうだが、アビラテロンについてはプレドニゾロン(ステロイド剤)の併用が必要なため、それに伴う副作用(疲労感、背部痛、悪心など)が生じるかも知れない。

カバジタキセルの副作用では、(発熱性)好中球減少が多く、骨髄抑制の対策が重要となる。

しかし、G-CSF製剤(注)の適切な投与と、生ものを食べない指導など、マネジメントをしっかりすれば、問題は少ないと思う。


注:G-CSF製剤とは遺伝子組換え技術によるタンパク質製剤。
  好中球(白血球の一種)を選択的に増加させ、その機能を高める働きをする。
  がん化学療法による好中球減少症の回復と、それに伴う様々なリスクを低下させる。

2014年9月1日月曜日

前立腺がんの新薬、アビラテロン

2014年8月27日、
メディアセミナー「急増中の前立腺がん 治療の最前線」(主催:ヤンセン、アストラゼネカ)
講師:植村天受氏(近畿大学泌尿器科教授)

去勢抵抗性前立腺がんを対象とする新薬3剤が相次ぎ登場することから、2014年は前立腺がん治療にパラダイムシフトが起きる。
・新規ホルモン製剤のイクスタンジ(一般名・エンザルタミド、アステラス)が2014年5月に新発売。
・ザイティガ(アビラテロン酢酸エステル、ヤンセン/アストラゼネカ)が9月2日に発売予定。
・抗がん剤のジェブタナ(カバジタキセル アセトン付加物、サノフィ)も9月2日に薬価収載される予定。

去勢抵抗性前立腺がん患者の特徴としては、
1)高齢などの理由で化学療法を受けられない患者が多い
2)予後が比較的短い などの問題があり、このようなメカニズムに即した新規のホルモン製剤が求められていた。

アビラテロン(ザイティガ)は、アンドロゲン合成酵素のCYP17活性を阻害する全く新しい作用機序の薬であり、精巣や副腎だけでなく前立腺がんの組織内にも作用し、前立腺がんに必要な男性ホルモンをシャットアウトする。
化学療法の既治療、未治療、いずれにおいても全生存期間(OS)の延長が認められた。
副作用も併用薬のプレドニゾロンに見られる症状(疲労感、背部痛、悪心など)が主であり、
長期的な観察は必要なものの、現時点では有効性、安全性が高い薬剤といえる。

現時点では、イクスタンジが化学療法既治療患者(ポストケモ)に限られているのに対し、
ザイティガは化学療法未治療患者(プレケモ)でも対象となり得る。
ただ、イクスタンジも今後、プレケモとして使用できるようになる見通しであり、いずれはどちらを使っても良いということになる。
強いて使い分けを考えるなら、副作用に基づいた判断となってくるのではないか。
両薬の作用機序が異なることから、去勢抵抗性前立腺がん患者の治療選択肢の幅は大きく広がるだろう。

2014年7月26日土曜日

カバジタキセル(ジェブタナ)の用い方

7月10日(木)開催のメディアセミナー(主催:サノフィ株式会社)における要旨
(講師:横浜市立大学大学院医学研究科泌尿器病態学 准教授 上村 博司氏)

今年(2014年)承認された前立腺がんの治療薬は以下の3つ
・5月 エンザルタミド(イクスタンジ アンドロゲン受容体阻害薬) 発売済
・7月 アビラテロン (ザイティガ  アンドロゲン合成阻害薬)    未発売
・7月 カバジタキセル(ジェブタナ 化学療法剤  注射剤)      未発売

去勢抵抗性前立腺がんの標準治療であるドセタキセル無効後の治療選択として、実臨床ではまず経口薬であるアンドロゲン受容体標的薬2剤のどちらかを選択することが多いが、化学療法を優先すべき患者を見極めることも重要。

全身状態が良い(行動の自己管理ができ、貧血が軽度)のが前提であり、
経口ホルモン療法が効きにくい症例であること。
 1)転移部位が多く初期ホルモン療法の効果が短期間
 2)転移部位の症状が強くPSA上昇が速い
 3)肝臓・肺などに転移がある

先にアンドロゲン受容体標的薬による治療を行っている場合は、病勢の進行を見逃さず、適切なタイミングで治療を切り替えることが重要。

 1)最初から抵抗性を示す症例(プライマリーレジスタンス)
     ・・・治療開始から3ヵ月以内に画像上(CT・骨シンチ)で進行の有無を確認する!
 2)1年以内に無効となる部分的抵抗性症例
 3)1年半以上効果が継続する感受性症例

頻回なモニタリングが海外のガイドラインでも推奨されている。